64 / 142
三章 引きこもり皇子、働く
064 抜き打ち査察1
フィリップが屋根裏部屋に監禁されて、さっそく不穏な動きを始めた頃、辺境伯邸の玄関に馬車が横付けされた。
エステルを含む従者たちは玄関の前に並び馬車を見ていると、メガネを掛けたイケメン、ヨーセフ・リンデグレーン宰相と3人の優男が降りて来た。
「出迎えご苦労様です……辺境伯が見当たりませんね」
ヨーセフは降りるなりキョロキョロとホーコンを捜しているので、エステルが前に出て対応する。
「申し訳ありません。父は無理が祟って療養中なのですわ。そのことはお伝え済みなのですが……」
「エステル……」
その対応は、嫌味をチクリ。なので、ヨーセフはエステルを睨んだ。
「エステル? わたくしと宰相閣下は、それほど親しかったと思いませんが……呼び捨ては、少々失礼でありませんこと??」
「皇后様にあんなに酷いことをしておいて……」
「前にも近衛騎士長には言いましたが、わたくしは皇帝陛下からすでに処罰されていますわ。それなのに宰相閣下は、足りないとおっしゃるのですの? それは、皇帝陛下が間違った処罰をしたと言っているようなモノですわよ」
「もういいです! 療養中でも、見舞いぐらいはできるでしょう。辺境伯の元へ案内しなさい!!」
エステルの嫌味連発で、ヨーセフも怒り爆発。もうエステルと喋りたくなっている。なので一番古株そうな執事に命令して、ホーコンが寝ている寝室に案内してもらった。
「ゴホッ……ゴホゴホッ。こんな体勢で申し訳あり……ゴホゴホッ」
「あなた、無理なさらず寝ていてください」
執事からヨーセフが見舞いに来たと報告を受けたホーコンは体を起こそうとしたが、辺境伯夫人に止められる名演技。ヨーセフは弱々しいホーコンを見て小さく呟いたら、それをエステルに拾われた。
「いま、仮病とおっしゃりました? これほど辛そうにしている父を見て、よくそんな失礼なことを言えますわね。謝罪を要求しますわ!」
「い、いや……噂を鵜呑みにしていたようです。申し訳ありません……」
さすがに自分でも失礼だと思ったヨーセフは、エステルの剣幕にも押されて素直に謝った。
「これでは聞き取りは難しいか……辺境伯夫人、頼めますか?」
「それならわたくしが任命されていますわ。なんなりとお聞きくださいませ」
「そ、そうですか……わかりました。辺境伯、ゆっくり休んで体を労ってください」
「は……ゴホゴホッゴホゴホッ」
「も、もういいです。無理をさせて申し訳ありません」
ホーコンが返事もできないほど弱っているので、ヨーセフは早くも撤退。最後に寝室から出るエステルが親指を立てて合図を送り、辺境伯夫婦も同じようにに親指を立てて笑顔を向けていたのは、ヨーセフは気付くことはできないのであった。
それからヨーセフたちは、応接室に移動。そこでエステルが用件を聞くと、ここで初めて領地の財務調査と告げられた。
「どうして昨日連絡をした時にそのことを告げてくれませんの? そうすれば、帳簿等を揃えておきましたのに」
「これは、抜き打ちの査察だからです」
「抜き打ちですの? わたくしたちは何か悪いことをしていますの??」
「しらばっくれても無駄です。早く全ての帳簿を用意しなさい!」
「わかりましたわ……ジイ。運び入れなさい」
「はい」
「なっ……」
執事が奥の扉を開いたら、メイドがワゴンを押して続々と登場。そのワゴンの上には大量の紙台帳が乗っているので、ヨーセフたちは呆気に取られている。
「どうして抜き打ちなのに、すでに準備済みなのですか!?」
これだけの量を運び込んだのだから、ヨーセフも驚いている場合ではないと立ち上がった。
「それ、本気でおっしゃっていますの?」
「どういうことです!」
「皆様、この領内をコソコソ嗅ぎ回っていたではないですか? その情報が領主であるお父様の耳に入らないと思っていまして?」
「コソコソだと……」
「言い方が悪かったですわね。秘密裏に調べていたようですがバレてしまった調査のことですわ。ならば、用件はある程度わかりますので、お時間の無駄にならないように前もって用意して差し上げたしだいですわ」
「くっ……」
全てが筒抜けではヨーセフも何も言えなくなって椅子に座り直したが、エステルのペースになっているのは気に食わないと反撃に出る。
「ということは、不利な証拠は全て隠しているのですね」
「何をおっしゃっているかわかりませんわね」
「不正をしているから、領内から情報を吸い上げていたのでしょう? そして急いで隠したに決まっています」
「またですの? どうしてあなた方は証拠もなしに我が領地が不正をしていると決め付けられるのか、わたくしにはサッパリわかりませんことよ。父が何か悪いことをしまして?」
「それは調べればわかることです」
「もし、何も出なかったらどうしますの?」
「何も出なければ謝罪するだけです。何も出なければですがね」
「はぁ~~~……無駄な査察、ご苦労様ですわね」
ヨーセフが自信満々でそんなことを言うので、エステルも長いため息が出てしまう。それを皮切りにヨーセフを含めた4人の男は帳簿を凄い勢いで捲り出したので、エステルは部屋の隅に移動して優雅にティータイム。
ちなみに帳簿の内容はほとんど正確に書かれているが、ボローズ王国からの賠償で送って来た麦だけは載っていないし、すでに消費済みなので調べようがない。
「そっちはどうです?」
昼食を挟み、夕方頃には帳簿の半分のチェックは終わったが、不自然な数字はひとつも見付からないのでヨーセフにも焦りが見える。
「もうこんな時間ですわね。夕食をご用意しましょうか? お泊まりなら、部屋も用意しますわよ」
「チッ……宿に戻るから結構です。帳簿には触らないでくださいね!」
今日はここまでで査察は終了。ヨーセフたちを見送ったエステルは、ホーコンたちと夕食をとっている。
「ねえ? 僕はいつまでこの姿なの??」
フィリップはいまだ女子なので、ブーブー言ってる。皆は半笑いでそれを見てる。
「宰相が領地から出るまでですわ」
「だから屋根裏部屋に監禁するなら変装は必要ないでしょ~」
「必要ですわ……アレ? 服が乱れてますけど脱ぎました??」
「そりゃ寝るのにシワがついたら悪いから、脱ぐに決まってるでしょ~」
「急いで着付けたような……」
「寝坊したの。だからだよ」
「そういうことにしておきましょうか……」
「アハハハ」
エステルがウッラを見ているので、フィリップも空笑い。何をしていたかバレバレなのであろう。なので、フィリップは服の件に触れなくなり、自分から率先してドレスを着るようになったらしい……
あなたにおすすめの小説
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。