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第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~
174 誰が保護者にゃ~?
しおりを挟むわしは半円状の【土壁】を作ると、【黒猫刀】を片手にボスフェレットに向けて駆け出す。途中、フェレットの群れに囲まれたので、首を斬り裂いて進んで行く。
アイが言う通りたしかに素早いけど、こんなもんか。まぁ最前線だけあって、一個体が強い気がする。じゃが、メイバイのスピードなら何も問題無いじゃろう。
ん? フェレットの流れが変わった……アイか? 引き付けに掛かっているみたいじゃな。
アイは他のパーティと共闘したりしているのかな? わしを楽にしてくれているみたいじゃ。最前線で揉まれて、いい勉強をしているのじゃな。それじゃあ、わしは先を急ぐとするかのう。
アイの引き付けによって包囲の減ったフェレットを斬り裂きながら、わしはボスフェレットと対峙する。
お! 予想通り4メートル超えの黒じゃ。角は無いが、尻尾が二本か。あのふさふさの毛はなかなか良さそうじゃ。
これは部屋に飾りたいかも? 肉だけ売って、毛皮は取っておこうかな? アイの許可がいるか。あとで相談しよう。
わしは吠える黒フェレットの風魔法を難無く掻い潜りり、接近戦に持ち込む。そして噛み付きをかわし、魔力を込めて切れ味を増した【黒猫刀】で、首元を斬り裂いた。
その攻撃で、黒フェレットは断末魔の後、地に倒れ伏す。
よしよし。これだけ綺麗な毛皮なら、気持ちいい絨毯に変わりそうじゃ。さて、みんなの助太刀に行くかのう。
わしは黒いボスフェレットを次元倉庫に入れると、走って皆の元に戻る。その途中で、遠くに居る皆の姿を確認する。
あ! メイバイがこけた。複数のフェレットが飛び掛かっておる! ヤバイ!
わしはぐっと足に力を込めて、スピードを上げようとする。だが……
風魔法? メイバイに襲い掛かったフェレットが切り裂かれた。あ! リータの土魔法。練習していた【土槍・いっぱい】か。メイバイを引き起こして、土壁まで戻るみたいじゃな。
さっきの状況じゃ、魔力を節約するわけにはいかん。ナイス判断じゃ。あっちはアイに任せて、わしは外から減らしていこうかのう。
わしはアイ達を取り囲むフェレットの外周に近付き、走りながら首を斬り裂いていく。程よく減ると、倒したフェレットを次元倉庫に入れていく。
あんまり倒し過ぎると、アイ達が仕事をした感が無くなるじゃろうし、このぐらい残しておいたほうがいいじゃろう。
それにメイバイがいい働きをしておるから、余裕じゃろう。マリーと確執があるようじゃったけど、仕事と割り切っているようじゃな。ケンカして迷惑掛けていなくてよかった。
それじゃあ暇になったし、あとは観戦しようかのう。椅子と小テーブルを土魔法で作って、次元倉庫に入っているコーヒーサーバーを取り出してマグカップに注ぐ。
うん。いい香りじゃ。熱々をズズズ~っと。はぁ~。落ち着くのう。みんな~。頑張れ~。
わしがコーヒーを飲み、落ち着いて観戦していると、アイ達がチラチラとわしを見て来た。すると、リータにもしもの為に決めていた合図を送られた。
ん? あの合図はピンチの合図。余裕そうに見えるんじゃが、なんじゃろう? まぁ暇じゃし、お昼も近い。残りはわしがヤルか。
わしは次元倉庫に仕舞っていた【黒猫刀】を握ると、残りのフェレットにトドメを刺して、皆の元に駆け寄る。
「どうしたにゃ?」
「「「「くつろぎ過ぎ!!」」」」
えぇぇ~! 怒られた。わし、しょんぽりじゃ。リータは怒る為にわしを呼んだの? 余裕そうじゃから、見てたのに~。うっ……なんだか、心を読まれている気がする。ここは先に謝っておこう。
「ごめんにゃ~~~!」
「まったく……。猫ちゃんは信じられないわね」
「ホントです。こんな危険な森で、何をくつろいでいるんですか!」
わしが謝ると、アイは呆れた顔をし、マリーは珍しく大きな声を出す。
「ごめんにゃさい! だから怒らにゃいで~」
「はぁ。もういいわよ。それで、これからどうするの?」
「お腹すいたから、お昼にするにゃ~」
「さっきまで、休憩していたのにですか……」
「あれは……お茶を飲んでただけにゃ……」
二人にグチグチと言われてわしが小さくなっていると、リータとメイバイが助けてくれる。
「アイさんもマリーさんも、そのぐらいにしてあげてください」
「そうニャ。シラタマ殿も反省しているニャー。ニャ?」
「はいにゃ!」
あれ? 何かおかしい……。わしは、みんなより多くのフェレットを倒した。それなのに怒られて、リータとメイバイに子供のように守られている。わしが保護者じゃなかったのか? いや、下手な事は考えるな。また怒られてしまう。
リータとメイバイの助けがあったからか、アイとマリーの小言は無くなったが、二人には違う心配があるようだ。
「わかったわ。食事にしましょう」
「でも、私達は何も用意してませんよ?」
「大丈夫にゃ。わしが用意してるにゃ」
「あ、猫ちゃんの収納魔法があったわね」
「そうでした」
わしはテーブルセットと飲み物を次元倉庫から取り出し、座るように促してからフェレットを回収する。
それが終わると席に着き、次元倉庫から料理を並べる。
「……料理はわかるけど、こんな森の中で、テーブルで食事?」
「宿屋の食事より豪華ですよ……」
「二人とも、もう諦めてください」
「そうニャ。シラタマ殿のやる事に、考えたら負けニャー」
アイとマリーは何か納得いかないみたいじゃが、リータとメイバイは何を諦めさせようとしてるんじゃ? っと、いまは食事じゃったな。
「いただきにゃす」
「「いただきにゃす」」
「「……いただきにゃす」」
わしの食事の挨拶にリータとメイバイが続き、まだ納得できていないアイとマリーも続く。すると、スープを飲んだ二人は何やら思い出したようで、わしを見る。
「温かくて美味しい……そうよね。あの時も、こんな感じだったわね」
「懐かしいですね。ねこさんの収納魔法から取り出した、ルウさんのスープを飲みましたね」
「テーブルは無かったけどね」
「そんにゃ事あったにゃ~。懐かしいにゃ~」
「変わった猫だと思っていたけど、まさかここまでとは思っていなかったわ」
「変わってないにゃ~。普通にゃ~」
「「「「どこがよ!」」」」
ですよね~。甘んじて、そのツッコミは受け入れよう。でも、全員でツッコまんでも……
「あ、そうそう。さっきの戦闘、魔力の消費を抑えられなかったわ。ごめんなさい」
「あれは私のせいニャー!」
アイが謝ると、何故かメイバイが大きな声を出すので、わしは不思議に思いながら二人を交互に見る。
「メイバイちゃん。さっきも言ったけど、あれはどうしようもない事よ。それを指揮していた私の責任なの」
「でも……」
ああ。メイバイがこけた時の話か。やっと理解できた。
「わしもアイのナイス判断だと思ったにゃ。あそこで出し渋っていたら、メイバイは怪我をしていたにゃ。謝る事でもないにゃ」
「違うニャ。私が雑念を持って戦っていたから、足を取られてしまったニャ」
「雑念にゃ? ……マリーの事かにゃ?」
「そうニャ。マリー……失礼な態度をとって、ごめんなさいニャー!」
わしが質問すると、メイバイは立ち上がって頭を下げる。それに続き、マリーも立ち上がり、頭を下げた。
「いえ、わたしも少し意地になっていたかもしれません。ごめんなさい」
「マリーは悪くないニャー! 私が敵対心を持ってたのが悪いニャー」
「そんな事ないです。私もねこさんと久し振りに会って、熱くなっていました」
お互い謝りあっているって事は、仲違いは解決って事かな?
「メイバイ。よく謝ったにゃ。マリーも許してくれてありがとにゃ」
「シラタマ殿……」
「いえ、そんな……」
「喧嘩は終了にゃ。まだ先があるから早く食べてしまうにゃ~」
「そうね。早く食べて移動しましょう」
「にゃ~?」
二人の喧嘩が終わったと安心したわしに、アイが変な事を言い出すから、わしは疑問の声を出してしまった。
「どうしたの?」
「食事を食べたら、次はデザートにゃ」
「「「「まだ食べるの!?」」」」
あれ? ツッコまれた。おかしな事を言ったか?
「いらないにゃら、わしだけ食べるにゃ」
「食べるわよ!」
「やっぱりねこさんは変です」
「変って言うにゃ~」
「「アハハハ」」
アイとマリーに笑われたわしは、涙目でリータとメイバイに助けを求める。
「リータとメイバイも、かばってくれにゃ~」
「諦めてください」
「諦めるニャー」
「にゃにをにゃ~~~!」
どうやらわし達は、お互い諦める事があるみたいだ。全てわしが起因していると思われるが、きっと気のせいだろう。
「「「「………」」」」
全員に生温い目で見られているのも、気のせいだろう。
その後、デザートまで平らげたわし達は、探索を開始するのであった。
う~ん。狙いの獲物はこっちに向かって来てる? わし達が風上だから、血のにおいに誘われたか。移動距離が減ってラッキーじゃわい。
わしが尻尾を振って歩いていると、リータが声を掛ける。
「シラタマさん。もしかして……」
リータにバレたか。直に接触するし、10メートル超えの獲物を相手するには、皆にも心の準備が必要じゃろう。
「向かって来てるにゃ。大きさは10メートル以上。これもブラックだと思うにゃ」
「10メートルのブラック!?」
「アイ達は戦った事あるにゃ?」
「いえ。ないわ。大きくて5メートルまでね」
「実家の森でもかなり大きいほうにゃ。10メートルの獲物って珍しいかにゃ?」
「そうね。最前線でも、滅多にいないわ。それに戦うとしたら、複数パーティで当たるわね。依頼ランクで言うとAになるわ」
その程度でAランクなのか……。白になると、Sランクなのかな? とりあえずいまは、帰ったら教えてもらう事にするか。
「にゃるほど。ところで、Aランクの依頼を達成できた人はいるにゃ?」
「いちおう、Bランクハンターとの合同チームで達成していたわね」
「それって、バーカリアンかにゃ?」
「あ! バーカリアンパーティが、単独で達成していた事があったわ」
「そうにゃんだ……」
あのバカ、あまり意識して見ていなかったけど、強いのか……。向かって来る獲物が、強さ的にオンニのやや上。
それを倒したと言う事は、バーカリアンはオンニと同等近く力がある。パーティ戦闘だったのであれば、一概には言えないか。じゃが、伊達に自称ナンバーワンを名乗っていないって事じゃな。
「これから獲物と接触するけど、アイはどうしたいにゃ?」
「私達パーティだけなら逃げ出したいけど……猫ちゃんがいるなら勉強させてもらってもいい?」
「いいにゃ。マリーはどうするにゃ?」
「わたしもお願いします!」
アイとマリーに確認を取ると、次はリータとメイバイを見る。
「リータとメイバイはどうするにゃ?」
「私も戦います!」
「やってやるニャー!」
「よし! リーダーは……やりたい人、いるかにゃ?」
「今回は猫ちゃんに任せるわ」
「私もシラタマさんに任せます」
わしはアイとリータの返事を聞いて頷く。
「わかったにゃ。それじゃあ、作戦会議にゃ~」
わし達は打ち合わせをして、各役割を決めると前進する。森の開けた場所に出ると身を潜め、獲物との接触を待つ。
しばらく待つと、獲物は木を薙ぎ倒しながら姿を見せる。
「大きい……」
「角が四本もあります……」
黒く巨大な獲物を見たアイとマリーは息を呑む。キョリスを見た事があるリータとメイバイは恐怖に耐性が出来ていたようで、緊張感を持ったいい緊張で獲物を見据えている。
そして、わしはと言うと……
アヒル? 鴨? 黒いからどっちかわからんのう。
どうでもいい事を考えていた。
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