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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生
271 王様の仕事
しおりを挟む大雨の翌日、わしは車に差し込む光で目を覚ます。昨日は、晩ごはんを食べずに眠ったから、お腹がペコペコだ。
リータとメイバイを起こすと、二人も晩ごはんを食べていなかったみたいなので、住人には悪いが、こっそり軽めの朝食を腹に入れる。
その後、朝のわしの仕事、コリスを起こしに行く。
「コリス~。朝じゃぞ~」
「ん、んん~……もうちょっと~」
「ダメじゃ! 早く起きないと、ごはんが無くなるぞ?」
「ごはん!? おきた~!」
お! メシで釣れた。これでわしも叩き起こされなくてすむわい。リータの鉄拳を鳩尾に喰らうと、息が止まってビックリするからな。
次の仕事はコリスを連れて、朝食会議に参加する。コリスは話を聞いていないが、昨日、雨水を溜めるタンク作りで頑張ってくれたらしいので褒めちぎり、撫で回すとご満悦だ。
皆の今日の仕事を調整すると、会議は終了。各自解散して仕事に向かう。
わしは……働きま~す!
コリスと一緒に街を走っていたら、お目付け役のメイバイが追い掛けて来た。ひとまずコリスに乗せて、追いかけっこしながら街中を視察する。
ふ~ん。至る所にお椀みたいな物がある。地面を掘って、その土で周りを盛り上げたのか。あっちの箱は瓦礫を集めて箱にしたのかな? これなら少ない魔力で多く作れるわけじゃ。考えたのう。
じゃが、すぐに蒸発しそうじゃし、早めに使うか、一カ所に集めるかを考えないといけないな。
おっと。そろそろ追い付かれそうじゃ。次はシユウの掘った穴じゃな。
コリスが迫ると、わしはスピードを上げて門に向けて走る。街から出ると後ろ向きに、少しあおりながら走る。するとメイバイが飛び降り、二人のスピードが上がる。
それでもわしのほうが速いので合わせて走っていたら、シユウを見付けたので、わざと追い付かせる。
メイバイが先にタックルして来たので優しく受け止めるが、次のコリスはデカイので、メイバイが潰されそうになってしまった。なのでコリスは、背中で受け止める。わしのほうが力があるから出来るわけだ。
その後シユウに、どこに穴を掘ったか聞いて、現場に案内してもらう。
シユウは大きな穴を掘ってくれたんじゃな。さすが伝説級。魔力の量も強さも、人間を凌駕しておるな。でも、少し粗いか? 少し減っているように見えるから、底から雨水が染み出ているっぽいな。
このままでは、一週間も経てば無くなってしまいそうじゃ。少し手直ししておこう。
シユウにはお礼と次回作る事があれば、もう少し上手く作ってくれるように頼む。下手に出たせいか、不快感は持たずに了承してくれた。
そして牛達の食糧の木を大量に出したら、追いかけっこの継続。今回はメイバイが疲れたと言うのでお姫様抱っこで走る。
目的地はクローバー畑。到着すると、緑の絨毯が出来上がっていた。
「アレはなんニャー?」
「クローバーにゃ。これは牛の餌になる予定にゃ」
メイバイはわしの答えに、少し驚いた顔をする。
「え? ここまで来たのって、コリスちゃんの散歩じゃなかったニャ?」
「違うにゃ~。メイバイも一緒に種を蒔いたにゃろ? そろそろ種が出来ていないか見に来たんにゃ」
「遊んでただけじゃなかったんニャ!?」
「ひどいにゃ~! 溜め池とかも確認していたにゃ~」
「ごめんニャー。でも、草はあるけど、種はどこにあるニャ?」
「リータに聞いたら、たしかこの花の所にゃ。刈り取って撒き散らせば、そこで勝手に増えるって言ってたにゃ」
「この人数じゃ大変ニャー」
「みんにゃは仕事があるから、わし達でやってしまうにゃ」
そう言うとわしは、土魔法でクローバーを畑ごと持ち上げる。この場所は少し都合が悪いので、別の場所に移植して、そこで刈り取ろうという算段。車輪をいっぱい付けたから移動も楽チンだ。
畑一面の土が無くなったので、ここにはわしの魔力で作った土を補填しておく。
移動を始めたら、コリスとメイバイがクローバー畑に乗ってゴロゴロし出すから、苗が痛むと言って止める。
わしに怒られて二人はしゅんとしていたので、似たようなトロッコを作って三人で競争。と言ってもわしが動かしているから、ビリは自分だ。
そんな遊びをしながら、クローバー畑を切り分けて移植する。これは埋めないといけないので、メイバイとコリスも手伝ってくれた。
わしがやる面積が圧倒的に多いが、二人にはお礼を忘れない。コリスにまで、メイバイのマネしてポコポコされると、埋まるスピードが速くなるからだ。
移植が終わると【風の刃】を地面すれすれに飛ばし、【突風】で種をまばらに落とす。そして仕上げは、巨象の血を十六倍に薄めた水をクローバー畑に掛けてしまう。昨日の大雨もあったので少量にしたが、大丈夫だろう。
これで次に来た時には、前回より四倍広いクローバー畑になるはずだ。牛達にはまだ食べないように念を押す(脅す)事は忘れない。
作業が終われば、追いかけっこをしながら街に帰る。相変わらずわしの帰りを待っていてくれないが、昼食を食べている住人のそばを通り抜け、昼食会議に参加する。
「ヨキ。ジャガイモは大丈夫だったにゃ?」
「はい。少し土から種が出ている物があったから、それを直せば問題ありません。ただ、広い範囲だから時間が掛かっています」
「今日中に終わるにゃ?」
「任せてください!」
「それは頼もしいにゃ。次はケンフ。空からにゃにか来たりしてるにゃ?」
「遠いからいまいちよくわかりませんが、大きな鳥は街に近付いていると報告が上がっています。でも、引き返す鳥が多いみたいですね」
引き返す? これだけ餌になる人間が居るのに不可思議じゃな。じゃが、鳥さんの気持ちなんてさっぱりわからん。
「う~ん……にゃんでにゃろ?」
「シユウ殿が居るからじゃないでしょうか?」
「あ~。にゃるほど。アイツにビビって近付かないんにゃ。じゃあ、次のフェーズに移行しようかにゃ」
「次とは?」
「こちらから打って出るにゃ。まぁただの狩りだけどにゃ」
「なるほど。そうなると、人員の再配置が必要になりますね」
「問題はそこだにゃ~。ケンフは……似合わないにゃ」
「も、申し訳ありません」
「適任者が現れるまで、わしが受け持つにゃ。ひとまず、街の防御に必要な数を多くとって、徐々に外に出す人員を増やそうにゃ。それぐらいの人数管理は出来るにゃろ?」
「はっ!」
「次はズーウェイ……」
残りの報告も聞いていくが、建築担当のダーシーが来ていなかったので、あとで会いに行く事にする。
会議が終了すると、コリスはお昼寝の時間。水魔法をぶっかけて、綺麗にしてから寝室に送り込む。
コリスと別れると、ダーシーがどこに居るかを尋ねながら街を歩き、居るであろう屋敷に向かう。その屋敷の前には猫耳族のファリンが居たので、声を掛ける。
「こんにゃちは」
「ね、猫王様! こんにちはで御座います」
「そう緊張しにゃいでくれにゃ~。言葉遣いぐらいで怒ったりしにゃいから、普通に話してくれていいんにゃよ?」
「そ、そんな不敬な事は出来ません!」
う~ん……わしってそんなに怖いのか? どう見てもぬいぐるみ……王様にしか見えないから怖いんじゃな。そりゃ王様は怖いわ。そうに違いない。
「じゃあ好きに話してくれにゃ。それで、ダーシーは中に居るにゃ?」
「はい」
「お昼に顔を見なかったけど、ちゃんとごはんは食べているにゃ?」
「いちおう私が持って行きました。食べながら仕事をしていましたから、体は大丈夫だと思います」
「相変わらずだにゃ。でも、教育のほうはちゃんとやっているにゃ?」
「最初は真面目に教えていたのですが、どうも自分でやらないと発作が出るようでして、午前中のみを教育の場、兼、指示に変えました」
「ふ~ん。それで問題無いにゃらいいけど、誰の発案にゃ?」
「わ、私です……申し訳ありません!」
ファリンは慌てて深く頭を下げるので、わしは体を起こして優しく笑って見せる。
「ファリンさんが、それが効率がいいと思ったんにゃろ? 謝る事じゃないし、上手くいくにゃら、あにゃたの手柄にゃ。いや、元奴隷だったのに自分から発案するにゃんて、わしは嬉しいにゃ~」
「そ、そんな……」
「ひとつだけアドバイスしておくにゃ。ダーシーに、二人だけ助手を付けるにゃ。そうすれば、見て覚えられるから早く成長するにゃ。真面目でやる気がある子供を選んでくれにゃ」
「は、はい! 探しておきます」
「それと、会議にはファリンさんが出てくれにゃ。報告だけだから簡単にゃ。頼むにゃ」
「……わかりました」
「あとは……ダーシーの体調管理と身だしなみはわしの命令だから、ファリンさんが強く言ってかまわないからにゃ。それも頼んだにゃ。それじゃあ、わしは行くにゃ~」
ダーシーに会いに来たけど、会わずに帰る。大工病にかかっているなら、邪魔せず帰るほうが無難だと思ったからだ。
それから、その他、街の修復班の視察も邪魔しないようにこっそり行うと、気になる事も終わったので、コリスの巣に潜り込んでお昼寝が出来る。
だが、残念な事に、シェルターの入口でリータとメイバイとすれ違ってしまった。二人が黙ってわしの後ろをついて来ているので、わしも黙って仮住まいの扉を開く。
そしてコリスを無難に起こして畑に向かう。それでも二人は、わしの後ろからついて離れない。
わしがサボろうとしてるじゃと? そんな事は考えてないッス!
二人がわしに聞こえるように非難するので、心の声で返すだけだ。しかし、時々殺気が来るので、心を読まれているみたいだ。
そうこうすると、畑の中に目的の人物を発見した。目的の人物はシェンメイの妹のジンリー。姉よりデカイから、楽に発見できた。
「ジンリー。こんにゃちは」
「猫王様! こんにちはです。……私なんかに、何かご用ですか?」
「忙しくて、なかなか話す機会が取れなかったから、話に来たんにゃ」
「話ですか?」
「ずっと気になっていたんにゃけど、ジンリーはいつまで居るにゃ?」
「え? ここに居てはダメなんですか……」
「ダメにゃんて言ってないにゃ。わしとしたら、居てくれるとすんごく助かるにゃ。ただ、人族を嫌っているように見えたから、不思議に思っていたんにゃ」
「それは……」
ジンリーの話では、この街に留まっている理由はわりと単純だった。里から出たかったらしい。地下深くで密閉された里は、体の大きなジンリーには窮屈に感じていたそうだ。
普段は狩りの仕事で外に出ていたが、森の木も邪魔で広い空も見えなかったから、いつか大パノラマの空を見たかったらしい。
「ふ~ん。それでどうにゃ?」
「すごく綺麗です! 里の外は、こんなにも広いから伸び伸び出来ます!!」
なるほどな。里の者にも不満があったんじゃな。たしかに薄暗いし、端から端まで埋まっていては、気が滅入るかもしれんな。
「気に入っているにゃらよかったにゃ。人族の子供はどうにゃ?」
「ここは子供がいっぱい居るので、楽しそうな声を聞くと元気が出ます!」
「シェンメイと同じで、子供が好きなんだにゃ~」
「はい! ちっさくてかわいいです!!」
そう言うこと? 自分がデカイから小さい者に惹かれておるのか? 姉妹そろって、そんな趣味じゃありませんように!
ジンリーとの話が終わると、畑の警備は任せて遠くに移動する。リータとメイバイもまだついて来ているので、コリスと一緒に振り切ろうか悩んでいる。
ガシッ!
二人はわしの不穏な考えを読み取ったのか、尻尾を握って離さない。なので、しばらく尻尾をリード代わりに散歩させられる。
その行為も納得できなかったので、止まってリータとメイバイに話し掛ける。
「さてと、これからどうしようかにゃ?」
「畑を耕すといいニャー!」
「街の木を切り倒しましょう!」
「う~ん……それって王様の仕事にゃの?」
「「え?」」
わしの質問は、二人にはよくわかっていないようなので、今日までの経緯をまとめてみる。
「わしはこの街の発展に、凄く頑張ったにゃ。木を切り倒し、畑を作り、大きな壁まで作ったにゃ。本来にゃらば、住人が長い時間を掛けてやらなくちゃいけなかったにゃ。それを王様のわし一人でやったんにゃ」
「それはそうですけど……」
「シラタマ殿は、サボリたいからそんな事を言っているんじゃないニャ?」
「まぁそれもあるにゃ」
「「やっぱり……」」
「あ、まだホコポコはやめてにゃ。その前に街を見てくれにゃ」
リータとメイバイは振り返り、街を眺める。
「どうにゃ? みんにゃ住む所もあるし、仕事もあるにゃ。それに食べ物にも困っていないし、ジャガイモの収穫の目処も立ったにゃ。まだわしの力が必要かにゃ?」
「う~ん……必要ないかもしれません」
「もう、みんなで出来るかもしれないニャ」
二人はようやくわしの言いたい事がわかって来たようだ。
「にゃ~? 与え過ぎると、みんにゃの仕事を奪ってしまうにゃ。それどころか、わし抜きではにゃにも出来なくなってしまうにゃ」
「私に生きる術を教えてくれたように、住人のみなさんにも、考えろという事ですか?」
「そうにゃ。考えもせず、言われた事だけする者は、それは奴隷にゃ。いや、もっと質が悪い者に変わるにゃ」
「要求するだけで、何もしないとかニャ?」
「そうにゃ。そんにゃ奴は、わしは愛せないにゃ」
「「………」」
わしの発言に、二人は黙り込んでしまった。そんな二人に、わしは笑顔を見せて語り掛ける。
「にゃんでも、ほどほどが一番にゃ~」
「プッ。またほどほどですか」
「あははは。ホント、ほどほどが好きだニャー」
「街は軌道に乗ったからみんにゃに任せて、次は村に手を付けようかにゃ?」
この発言には、二人の目が輝く事となる。
「あ……そうですね! 私の村みたいに困っているはずです!」
「シラタマ殿は大きな視点で見ていたんだニャ。やっぱり、やる時はやる猫ニャー」
「村が十個ぐらいでしたか……また忙しくなりますね!」
「今度は終わるまで休み無しニャー!」
「いや、ほどほどに休ませてくれにゃ~」
「「あはははは」」
「笑ってないで、こたえてくれにゃ~」
結局、休みの件は、うやむやにされてしまった……
だってその件に触れると、乾いた笑いに変わって怖かったんじゃもん!
コリスはわし達の話が難しかったのか寝息を立てていたので、わし達もそれに釣られ、このままお昼寝するのであった。
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