アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

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第十一章 王様編其の二 外遊にゃ~

301 クラーケンVS猫にゃ~

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 わしは海に浮かんでいる、巨大で白くて丸い物を見て、気を張り詰める。

 海坊主? いやいや、頭が丸いだけじゃ。そんな事より、近付いてくれたのは有り難い。アイ達には説教をしてしまったが、皆が騒いでくれたから釣れたのかもしれんのう。

「アイ。砂に足を取られないように、みんにゃを森まで下がるらせるにゃ」
「は、はい!」
「リータとコリスは、派手にゃ戦いになると思うから、みんにゃを守ってくれにゃ~」
「はい!」
「わかった~」

 皆の下がる姿を見送るとわしは海から上がり、着流しに袖を通し、腰に【白猫刀】を差して白い生き物の接近を待つ。
 白い生き物はゆっくりと浜辺に近付き、徐々に姿をあらわにする。

 やっぱりタコじゃ。クラーケンって奴じゃな。わしのやっていたゲームなら、イカの化け物しゃったが、この世界でも本場の物語りの化け物なんじゃな。
 強さは……ハハリスより強いな。腕の数は、たしか十二本だったはずじゃから、本来の数より四本プラスか。ハハリスの尻尾の数と一緒じゃが、大きさで強さの補正がされておるってところか。

 まぁ巨象に勝った事のある、わしの敵では無い。一発かましてやろう!

「【大鎌】にゃ~!」

 わしの放った風魔法、【鎌鼬】の巨大版、【大鎌】は海を切り裂き白タコに向かう。死んだ巨象すら切り裂いた魔法だ。避けられなければ、一発で終わると思ったが、白タコは避けるどころか反撃をして来た。
 辺りの水を操り、分厚い盾にしたかと思いきや、【大鎌】と接触した直後に押し出す。その大量の水は、大津波となってわしを襲う。

 攻撃自体はたいした事はないが、津波の範囲は広いので、わしは高く跳んで辺りを確認する。

 う~ん。水の盾で威力を削がれたか。貫通したように見えたが、傷は無いみたいじゃ。アイ達は……津波は森まで届いたみたいじゃが、木にしがみついてなんとか耐えたか……わ! 【突風】じゃ!

 わしが空中で辺りを見渡していると、白タコからぶっといビームが放たれる。わしは咄嗟とっさに【突風】で下降気流を起こし、津波が引いて行く地上に降り立つ。

 水鉄砲か。水色の長い棒に見えたから、ビームかと思ったわい。あの口は、墨を吐くのかと思ったが、違う使い方もして来るのじゃな。
 まだなんかして来そうじゃ。距離もあるし、防御重視。【土玉】×10!!

 わしは土の玉を辺りに漂わせると刀を抜き、白タコを注視する。すると白タコは、数本の腕を振るう。何をしているのかと思ったのも束の間、【水の刃】がわしを襲う。
 わしはひとまず横に避けてかわすが、白タコは何本もある腕を振って、【水の刃】が連続で放たれる。数の多さと足場の悪さもあって、避け切れない攻撃は刀で斬り裂き、【土玉】をガードに回して耐える。

 その後方では、戦いの余波がリータ達を襲う。だが、【水の刃】は威力が落ちているようなので、リータの盾、コリスの引っ掻きで簡単に止められている。


 数の多い【水の刃】も慣れてくれば、どうって事はない。わしは【鎌鼬】を放ちつつ様子を見る。

 【鎌鼬】では、距離があるから決め手にならんな。腕に叩き潰されておる。さすがは白い生き物。防御も強い。
 お互いこの距離では勝負はつかんし、前に出るか? あの辺りでも水深10メートルはありそうじゃから、避けたいんじゃが……
 お! 白タコのほうから前に出て来た。飛んで火に入る初夏のタコじゃ。もう少し待つとするか。

 わしは【水の刃】をかわしながら【鎌鼬】を放ち、白タコが水面から出るのを待つ。白タコは【水の刃】を放ち、【鎌鼬】を腕で掻き消しながら、徐々に距離を詰める。

 わし達の戦闘で砂浜は水で濡れ、亀裂が入り、轟音が響き渡る。

 こんなもんかな? わしも打って出る!!

 わしは砂浜ギリギリまで出て来た白タコを確認すると、【水の刃】を斬り裂きながら駆ける。すると、白タコも戦闘パターンを変え、腕を鞭のようにしならせて打ち付ける。

 その攻撃には、これじゃ!

 わしは腕を避けるや否や、【鎌鼬】をまとった刀を振るって斬り裂く。だが、白タコは痛みが無いのか、気にする事なく違う腕を振るい、わしはその都度【鎌鼬斬り】で斬り落とす。

 五本は斬ってやったんじゃが……先っぽを斬っただけでは、ダメージにすらならんのか。痛そうもしないし……
 あ、そう言えば、魚って痛覚が無いんじゃったか。タコは腕を切って逃げるって聞いた事もあったな。それに元に戻るとも……まさかね?

 わしの不穏な考えはドンピシャ。さっき斬ったばかりの腕が、完全に元の腕に戻り、わしを打ち付ける。
 わしはすごい速度で治る白タコの腕に、呆気に取られながらも刀を振るい、二本、三本と腕を斬り落とし、数えるのが面倒になった頃、それは起こる。

 しまっ!

 斬り落とした腕が、わしの足に絡み付いて来た。その一瞬の隙を突かれ、わしは重たい一撃を喰らって吹っ飛ぶのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 その少し前……リータとコリスに守られながら、皆は安心してシラタマの戦いを観戦していた。

「うっわ……なにあの速さ」
「アイさん! 前に出ないでください」
「あ、ごめん。でも、戦い方が変わったから、リータに守られなくても大丈夫よ」
「まだ何が起こるかわかりません」
「そう? 猫ちゃんは足?腕? ……それを切っているから、もう終わるんじゃない?」

 アイの質問に、リータは首を横に振って答える。

「アレを見てください」
「アレ? ……ひょっとして、治ってる?」
「みたいです」

 リータの答えに、アイ達は、ようやくこの戦闘の厳しさを直視して息を呑む。

「猫ちゃん……大丈夫よね?」
「大丈夫なのですが、私達がそばに行くと足手まといになるので、この距離は保ちましょう」
「そうね……」

 皆が眺める中、シラタマは黙々と刀を振り、腕を斬り落とす。白タコの振るう腕のスピードで、斬り落とした腕は至る所に散らばるが、シラタマは気に留めている余裕はないようだ。


 その腕が、リータ達の目の前にまで飛んで行ったとしても……


「あ……こんなに離れているのに、ここまで飛んで来たわ」
「うにょうにょして気持ち悪いニャー!」

 アイの台詞に、メイバイは手に絡み付いたタコの感触を思い出して距離を取る。アイ達の内、数人は同じ気持ちだったらしく、「ワーキャー」言いながら離れる。
 その間も、何本も腕が飛んで来て、それをずっと見続けていたリータが何か気付いたようだ。

「あの……シラタマさんが斬った腕、こっちに向かって来ていませんか?」
「本当ね……まさか、飛び掛かって来ないわよね?」
「どうでしょう? 取り囲まれている気もします……」

 リータとアイが話し合って、触手となった腕を見ていると、一本の触手が飛び掛かって来た。

「「「「きゃ~~~!」」」」
「コリスちゃん! 投げて!!」
「うん!」

 リータは驚きながらも盾を構え、飛び掛かった触手を受け止めるが、触手は盾にくっつく。そこをコリスが力付くでひっぺがし、遠くにぶん投げた。

「まだ来るわよ! みんな、武器を持って!!」
「「「「はい!」」」」

 アイの指示に皆は武器を構えるが、その時、シラタマが白タコの振った腕で吹っ飛ばされてしまった。

「シラタマ殿~~~!!」
「くっ……メイバイさん。いまは目の前に集中しましょう」
「そうね。どうせ猫ちゃんなら大丈夫なんでしょ?」

 リータに賛同したアイの質問に、メイバイは心配しつつも頷く。

「たぶん……」
「それじゃあ、さっさと片付けて、ゆっくり観戦しましょう」
「わかったニャー!」

 皆は武器をとって戦うが、剣で斬っても触手は増えるだけで動きを止めない。アイは打撃に切り替えてみるが、これもダメージにならない。
 攻撃の通じない触手は増え続け、戦いが長引くリータ達であった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 リータ達が触手との戦闘を始めた頃、わしは白タコの腕に吹っ飛ばされて着地したところであった。

 くぅ~。久し振りに、いいのをもらったな。キョリス達との修行時代以来じゃわい。まぁこの程度なら、痛いだけで済むな。
 しかし、腕が離れても動いて来るとは思わなんだ。触手ってヤツか? まだ絡まっておるし……刀をぶっ刺してやる。

 わしはサクッと触手に刀を突き刺すが、一向に離れる気配もないので、切断してから足を振って強引に振り払う。

 あれだけしても、まだ動いておる。タコの踊り食いを思い出すな。しかも、目がないのに、正確にわしの方向に動いている。何か探知する方法があるのか?
 と、謎解きしている場合ではないか。かなりの数を切り刻んだから、取り囲まれそうじゃ。弱点を探しながら、トドメに移行するか。


 わしは十個の青い火の玉を漂わせ、触手の包囲を抜けようと、白タコに直進する。白タコは触手に追われるわしに鞭を打つが、今度は斬らずに避けて、胴体に【鎌鼬】を放つ。
 白タコは腕をガードに回して受け止めるが、距離が近付いたおかげで、腕に切れ目が入った。
 しかし、明確なダメージになっていないらしく、白タコは【鎌鼬】でちぎれ掛けた腕を強引に振って、わしに投げ付ける。その腕は触手となってわしに向かい、本体の腕は完全回復する。

 この戦法では触手が増えるだけなので、すぐに変更。火の玉を飛ばし、様子を見るが、胴体は腕でガードされ、燃える腕は海に入れて消されてしまった。
 触手のほうにも火の玉をぶつけてみると、熱で表面が固くなったのか、反り返って動きを止めた。

 う~ん。火は有用じゃが、水がそばにあるのが厄介じゃな。いっそ、【朱雀】を撃ち込んで、焼きタコか、ゆでダコにするか? 生でも食ってみたいし、それはそれでもったいないか。
 あ、そうじゃ。もうひとつ試していない方法があったな。それを試してから考えるか。

 次元倉庫……収納!

 わしは白タコの腕を避けながら、迫り来る触手を次元倉庫に入れようとする。次元倉庫は、生き物を入れるには拒否権が発生するらしいので、物は試し。入ればラッキーのつもりでやってみたら、触手は消え去った。

 お! 触手は生き物と認識されないみたいじゃな。これなら生でお持ち帰り出来る。せっかく腕は取り放題なんじゃし、多く取って帰ればお金に変わる!
 まぁ生き物なんじゃから、再生はいつか限界が来るじゃろう。そこでトドメを刺せばいいだけじゃ。
 わしの懐のため、頑張るんじゃぞ~。

 うっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっ。


 わしは心の中で高笑いし、白タコの腕を長めに【鎌鼬斬り】で斬り落とす。刀だけでなく【三日月】を放ち、胴体の近い所でも斬って、次元倉庫に入れる。

 何度もその作業を続けていると、白タコの動きが変わった。

 なんじゃ? 水鉄砲……いや、タコ墨じゃ!!

 白タコは、わしに勝てないと悟ったのか、墨を霧状に吹き出して逃げようとする。

 させるか! 【大光槍】! からの、【大土槍】!!

 わしは逃げようとする白タコの上空に、巨大な光の槍を作り出し、落下させて串刺しにする。しかし、【大光槍】は魔力の消費が激しいので、動きの止まったところで消し去り、穴の開いた胴体の下から巨大な土の槍を通した。

 ふふん。これで、手も足も出まい。いや、腕は長いからわしに届くな。それに抜け出そうとしておる。もちろんそんな事はさせんぞ~。

「にゃ~しゃっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっ」

 わしは高笑いをしながら、白タコの腕を斬り続けるのであった。
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