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第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~
487 懐かしい声にゃ~
しおりを挟む「凄かったですね……」
「過去最高だったにゃ……」
わしとリータは、アマテラス達の兄弟喧嘩で地獄絵図となった夢の中から生還し、ムクりと体を起こす。
時刻は丑三つ時。御所の寝屋では、メイバイがわしの尻尾をニギニギし、オニヒメはコリスに埋もれて、皆「スピー」と寝息を立てている。
「シラタマさんが、たまにうなされている理由がようやくわかりました……」
「今度から、気付いたら叩き起こしてくれにゃ……」
「はい……」
こうしてわしとリータは、嫌な汗を濡れタオルで拭き合い、もう一度眠りに就くのであっ……
「にゃんでわしの手を胸に持って行くにゃ?」
「夢の中で触ってたじゃないですか? 触りたかったんでしょ?」
「にゃんの事かにゃ~? ひゅ~」
「もう~。チュッチュッチュ~」
リータにおもちゃにされて眠りに就く……
「にゃ! アマテラスがわしのこと、おもちゃって言ってたにゃ~~~!!」
「シーーー!」
「ムグッ……」
「みんな起きちゃうでしょ……あれ? シラタマさん??」
こうしてリータの胸の中で気絶して、わしは眠りに就くのであった。
だって、息が出来なかったんじゃもん。
翌日は、メイバイに叩き起こされた。本当に叩き起こされた。
わしもリータぐらい優しく起こしてくれてもいいのに……起こしたのですか。そうですか。
やや寝坊してしまったが、御所の食堂に顔を出すと、ちびっこ天皇と玉藻は朝餉を始めたところだったらしく、わし達が座布団に座ったら食事の手を止めた。
遅れたわし達が悪いので「どうぞどうぞ」と言いながら、わし達は高級串焼きをモグモグ。玉藻達も欲しいと言って来たので振る舞い、わし達のお盆が揃えば手を合わせて美味しくいただく。
身支度を整え、先日用意すると言っていた各国へのお礼状を受け取り、二人に別れの挨拶をしたわし達は御所を出る。そうして歩いていると、リータとメイバイがグチグチ質問して来た。
「三ツ鳥居から帰らないのですか?」
「転移して帰ったほうが、魔力の節約ににゃるかにゃ~っと……」
「じゃあ、走ってキョウを出ようニャー? 早く帰って仕事するニャー」
「朝から激しい運動をしたら、体に悪いみたいにゃ?」
「かなり長く滞在しているんですから、早く帰りましょうよ~」
「そんにゃに急ぐ必要ないみたいにゃ??」
「さっきから何言ってるニャー!」
わしはモゴモゴと言い訳しつつ、とある店の前で足を止める。
「まさか……落語を見てから帰るつもりですか……」
すると、リータが睨んで来るので、わしはモゴモゴと理由を説明する。
「えっと……しばらくここに来にゃいから、コリスがもう一回見たいかにゃ~と……だからその……リータ達はここで待っていて欲しいにゃ~と……」
「私達ニャ? ……シラタマ殿は、一人でどこかに行こうとしてるニャー??」
メイバイの質問に、わしはさらにモゴモゴとなる。
「ちょ~っと……一人で行きたいところがありにゃして……夕方までには戻るから、待ってて欲しいにゃ~」
「どこに行くのですか!!」
「どこに行くニャー!!」
わしの歯切れの悪い言い方に、二人は怪しんでいるみたいだ。
「にゃにも聞かず、行かせてくださいにゃ~! お願いにゃ~。後生のお願いにゃ~」
わしが涙目で必死にスリスリしながらお願いすると、二人は顔を見合せ、目で何かを語り合っていた。
「……わかりました」
「その代わり、必ず夕方には戻って来るニャー?」
「うんにゃ! ありがとにゃ~!!」
わしはパッと顔を明るくして、二人の手をブンブンと振り、感謝のスリスリをする。それから全員分の昼食とお財布を収納袋に入れて渡すと、わしは駆け足で離れるのであった。
* * * * * * * * *
「さっきのシラタマさん……おかしかったですよね?」
「うん……お腹痛かったのかニャー?」
シラタマを見送ったリータとメイバイは、話し合っていた。
「気になりますよね?」
「うん……気になるニャー」
「つけましょうか?」
「つけるニャー!」
先ほどのシラタマの様子がおかしかったので、リータとメイバイはあとをつける事で意見がまとまる。しかし、ひとつ問題が残っていた。
「コリスちゃん。オニヒメちゃんと一緒にお留守番できる?」
「お金の使い方わかってるニャー?」
コリスとオニヒメの存在だ。二人の思考は子供同然なので、残して行く事が心配のようだ。
「う~ん……モフモフつける~」
「つける~」
即解決。先日落語を見ていた事もあり、二人もシラタマの様子が気になったのか、リータ達に同行する事にした。なので、さっそくシラタマをつける行動に移す。
「コリスちゃんはオニヒメちゃんを乗せてあげてね」
「うん!」
「メイバイさんは匂いでシラタマさんを追ってください」
「こっちニャー!」
メイバイは鼻をヒクヒクさせると、嗅ぎ慣れたシラタマの匂いを辿って走り出す。するとリータ達も続き、猛スピード京を駆けるのであった。
リータ達が町外れに近付くと、空を飛ぶ物体に気が付いた。
「飛行機です!」
「これじゃあ、匂いを辿れないニャー」
「……いえ、逆に見付からずに追いやすいかもです」
「どういうことニャー?」
「飛行機は目立ちますし、何より私達は、かなり速く走れます」
「あ! たしかに、追いかけて走るより見付かり難いニャー!!」
「というわけで、追跡続行ですにゃ~!」
「「「にゃ~!!」」」
斯くして、リータ達は猛スピードで街道を走り、道も野原も、山も峠も関係なく走り続けるのであった。
* * * * * * * * *
う~ん……建物が少ないからようわからん。
わしは京から飛行機を離陸させると、下を見ながら目的地を探していた。
たぶんアレが堺だと思うんじゃが……せめて通天閣ぐらいあったらわかりやすいんじゃけど、この世界には無いか~……とりあえず、変わらない風景を目印にして探すか。
山並は見ても懐かしいとしか感じないし、やはり川か……あの大きな川は、淀川じゃろ? で、西に行くと神崎川じゃったか? ……それであの川が目的の川のはず。
ひとまず、河口から攻めてみよっと。
わしは飛行機を海の近く、それでいて人に見られない位置で着陸させる。
ここからは、子供時代の記憶を探り探り進んで行くしかないな。わしの前頭葉……頑張れ~~~!!
そうして、川を上流に向かって駆け出し、記憶にある風景を探すわしであった。
* * * * * * * * *
その少し前、リータ達は爆走していた。
先頭はリータ。リータは余裕で走れる速さで皆を先導していた。
その次にメイバイ。空を見上げ、リータが足元の注意を促す声を聞きながら飛行機を追跡する。
最後にオニヒメを乗せたコリス。もしもメイバイがこけた場合は、すぐさま抱き上げる事になっていたが、出番はないようだ。
皆は空を飛ぶ飛行機と同じ速度で走り続け、ほどなくして、飛行機の着陸体勢に気付き、とある川沿いにて身を隠す。
「ここからは徒歩みたいですね」
「コリスちゃんが目立ってしまいそうニャー」
「ですね……変身してくれる?」
「わかった~」
さっちゃん2にコリスが変身すると、シラタマから距離を取ってあとをつける。そうしてシラタマが止まるまで、リータ達は走り続けるのであった。
* * * * * * * * *
うぅぅ~む……見た事あるような無いような……
わしは川を上流に向かってキョロキョロしながら走り、なんとなく見た事のある光景の場所で止まる。
あの土手も見た事がある気がするけど、なにせ百年近く昔の事じゃからな~……懐かしい景色を見たらすぐに思い出すと思ったけど、そうは上手くいかんか。
ここからは徒歩に変え、キョロキョロと周りを見ていたら、わしは石に躓いて前のめりにこけてしまった。
つ~……痛くはないけど恥ずかしい! リータ達に見られなくてよかったのう。よっこいしょっと……ん?
「あはは。お兄ちゃんがこけた~」
「にいちゃん。いたいいたい?」
こ、この声は……
わしが顔を上げると、そこには、幼き日の兄弟達が笑っている顔があった。
次郎……あきこ……みんな……
「ほら、お兄ちゃん立って」
「もうお昼なんだから帰ろうよ~」
「おなかすいた~」
わしは兄弟達の急かす声に、あの日のように背負っている妹を落とさないようにゆっくり立ち上がる。
「てつのじょ~う! みんな~!!」
するとまた聞き覚えのある声が聞こえ、兄弟達は一斉に土手を見た。
「あ! おかあちゃんだ~!!」
「おかあさ~ん」
兄弟達は嬉しそうに駆け出し、わしもその先に目をやる。
お袋……
そこには、若かりし日の母親が手を振り、駆け寄る兄弟の名前を呼んでいた。
「お袋! 次郎! あきこ~~~!!」
その懐かしい顔、その懐かしい声、懐かしい風景を見たわしは、わけもわからず叫びながら駆け出したのであった。
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すっかり忘れていましたが、短編小説『ティムした裏ボスを野に帰したら行方不明になった件』がアップし終わっています。
時間に余裕のある方は、どうぞお読みください。m(__)m
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