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第十八章 日ノ本編其の四 釣り大会にゃ~
496 家康を案内するにゃ~
しおりを挟むキツネ少女お春の愛の告白は無難に先送りにし、リータとメイバイにスリスリ。別に睨まれていたわけではないけど、なんとなく擦り寄ってみた。
「……何か悪い事でもしたのですか?」
「……明日、休みたいとか言うつもりニャー?」
それが仇となって睨まれてしまった。二人は女の勘は働いたようだが、浮気がバレたわけではないようだ。
なので、「少し酔ったみた~い」と、あざとい女のような事を言いながらスリスリ。これで二人はメロメロになったので、めっちゃモフられた。
わしがやっていた事は、何も後ろめたい事を隠していたわけではない。お春やつゆに、家内と仲がいい姿を見せる事だ。これで間に入れないと思い、自分から身を引いてもらえないかと擦り寄っているのだ。
ただ、撫で回されてゴロゴロ言いまくっているので、猫が撫で回されていると受け取られて、あまり効果が無い事は、この時のわしは知る由もなかった。
少し甘えすぎて、リータとメイバイに死ぬほどモフられて毛並みの乱れたわしは、フラフラになって玉藻と家康の元へ戻る。
「双子王女からの話は勉強になったかにゃ?」
「ああ。じゃが、数が多すぎて覚えきれん」
「にゃ~? わしも覚えられないから、普通に挨拶してるんにゃ」
「そちと一緒にするな。この短時間では、という意味じゃ。この程度、各国の王の前に立つ頃には覚えておる」
「うっそにゃ~。ご老公も無理にゃろ~?」
「お主は儂を馬鹿にしておるのか? 日ノ本の礼儀作法に比べれば、少ないぐらいじゃ」
どうやら二人は、宮中祭事や将軍の政で、格式高い式典は慣れているようだ。それも百年以上こなしたのだから、西洋の挨拶なんてお手の物。わしとは違うと何度も言われてしまった。
これでも王様なんじゃ~~~!!
双子王女も加わり、あまりにも王様らしくないと言われたわしは、肩身の狭い思いをしながら宴の終了を告げるのであった。
翌日は、遣猫使を学校へご案内。トウキン校長に押し付け、エルフの留学生に行った勉強方法で、さっそく教育してもらう。
その勉強方法を、わしは玉藻と家康と共に視察。ちなみに家康は、5メートルのタヌキでは生活しづらいから、こちらに居る間はタヌキ耳太っちょおっさんバージョンで過ごすらしい。
わし達三人は教室の後ろに立っているので、まるで授業参観のように、先生からアルファベットを教えられている遣猫使を見守る。
「なるほどのう……他心通の呪具を使っておるのか」
「これにゃら、覚えるのが楽だからにゃ。エルフで実証済みにゃ~」
「エルフ?」
「あ、御老公には紹介してなかったにゃ。たしか隣の教室で、いまより高度な授業をしているはずにゃから、ちょっと覗いてみるかにゃ?」
「ああ。頼む」
先に勉強を始めたエルフ組は、遣猫使と一緒に勉強できないので、別カリキュラム。隣の教室に移動したら、エルフ四人は英会話の授業中だったようだ。
「これで、どれぐらいの期間、勉強したんじゃ?」
家康にエルフの説明をしながら授業を見ていたら、流暢とは言いにくい英語で喋るシウイン達が気になった玉藻から念話が届いた。
「二週間ちょいってとこにゃ。にゃんとか一般生活は出来そうにゃけど、もう少し掛かりそうだにゃ~」
「ほう……他所の国の言葉を喋るという事は、なかなかに難しいのじゃな」
「そうにゃ。でも、先生がいいから、かなり早く習得できていると思うにゃ。喋るのにおよそ一ヶ月。文字を覚えるのに、二ヶ月は見てくれにゃ」
「ふむ。しかし、友好条約は早いところ詰めたいのじゃが……」
「それも準備済みにゃ~。うちから条約書を朗読する者を出すから、そっちから書き写す者を出してくれにゃ。そうしたら、どちらにも書面を残せるにゃろ?」
「なるほど……そこから、妾とシラタマで話を詰めるのじゃな」
「サインしてくれるだけでいいにゃ~」
「こちらに不利な条約がなければ、さいんだけで終わるはずじゃ。それとも、不利な条約だらけなのか?」
うっ……日ノ本の技術のロイヤリティについては、エンマとホウジツに相談したら、かなり安くなってしまったんじゃよな。元々安くするつもりじゃったけど……
それ以外は、東の国と結んだ条約とほぼ一緒じゃから、玉藻も呑めるはずじゃ。また長い時間かけてやりあうのは面倒じゃから、全て呑んでくれ~!
「まっさか~。東の国の女王と結んだ条約にゃよ? あの女王が、不利にゃ条約をわしと結ぶわけないにゃ~」
「ペトロニーヌ女王か……たしかにあの者はやり手そうじゃったな。しかし、シラタマが書き改めている可能性は否定できん。昨日も日ノ本の言葉をタダにしようとしていたし……」
「信用してにゃ~」
まったく信用してくれない玉藻。どうやら猫の国でのわしの生活を見た玉藻は、人としては信用しているが、猫としては諦め、王としては信用していないようだ。家康にも、なんかコソコソ信用するなと言っているし……
ひとまず学校の見学を終えた二人は、遣猫使とは別行動。家康は猫の街観光に連れ出すのだが、玉藻はすでに終えていたので、魔道具研究所に顔を出すと言って離れて行った。
なので、家康とオープンカーでドライブ。行き先は、宮本と服部の居ない場所。すでにラサにある猫軍駐屯所に移動させたので、家康に見付かる事はないだろう。返せと言われたくないからのう。
街をタラタラ走り、農園をタラタラ走り、各種質問を答えていくのだが、家康にも思う事があるようだ。
「のう?」
「……にゃに?」
「お主は王だというのに、儂の観光に付き合っていていいのか? 仕事で忙しいじゃろう?」
「王様だから暇なんにゃ~」
「そんなわけがなかろう!!」
家康は、アイパーティのツッコミの再現。わしはなんとなく言いそうな事はわかっていたので、同じボケをして同じツッコミを受けるのであった。
それから家康はブツブツ言っていたが、わし関係は無視。猫の国関係なら丁寧に教えてあげる。当然、馬鹿デカイ白牛にも興味を持っていたが、食用ではないと説明しておいた。
だからヨダレを垂らさないでくれる? ヤマタノオロチのほうがうまいんじゃから、物欲しそうに見ないで! うちの農業従事者なんじゃ~!!
家康がシユウを食べたそうにするので、農園見学は強制終了。工房に連れて行く。
「孫次郎……」
そこには、わしが攫って来た鉄砲の名手「雑賀孫次郎」が時計作りに精を出していたので、家康の目に入ってしまった。
「ご老公が返せとか言って来なかったから、どうしたものかと思ってにゃ~。とりあえず預かっていたにゃ」
「返せと言ったら返してくれるのか?」
「いいんにゃけどにゃ~……わしを殺そうとしたしにゃ~」
「うっ……そうじゃった。申し訳なかった」
白猫ぬいぐるみ殺害事件の黒幕、家康は平謝り。なので、わしは笑顔で許す。
「その件は、わしが挑発したから気にしてないにゃ。ただ、失敗したから罰があるのかと思ってにゃ。殺したりしないにゃら、家に帰してあげたいにゃ」
「そうか……わかった。儂の命令なのじゃから、罰があるならば、儂が受けるのが筋じゃ。孫次郎には手を出さんと約束しよう」
「にゃはは。そう言ってくれてよかったにゃ。孫次郎~? 嫁に会えるにゃ~」
わしが声を掛けると、孫次郎は嬉しそうな顔をしたが、家康に今ごろ気付いて土下座をして謝っていた。それを家康は、「全て不問とする」と言って立たせていたので、わしとの約束は本当に守ってくれるようだ。
なので、奴隷紋の解除。これで自由の身なのだが、家康から帰りはもうしばらく掛かるので、それまでは工房で働いているようにと、新しい命令を受けていた。
ただ、孫次郎を見せたせいで、宮本と服部を思い出したようで、どうしているかと聞かれてしまった。
どう答えていいか悩んでいると、返せとも殺すとも言わないからと諭されたので、猫の国の客人対応で教えを乞い、給金を払っていると説明する。
すると、この二人も罰は無しとするから、帰りたい場合は引き取ってくれる事となった。まぁわしも二人を縛っておきたくないし、技術を全て吸い取ったら帰しても構わない。時間が出来たら話をすると言っておいた。
工房見学も終えると、役場に帰ってランチ。ちょっと遅くなったので、玉藻は腹をさすっていた……。客なのに、王様を待たないとは、ふてぇ野郎だ。
まぁ心の広いわしはその事には触れず、何をして来たかと聞きながらモグモグ。どうやら玉藻は、ノエミから新型魔道具製造の進捗状況を聞いて来たようだ。なので、お金の話をして来たから、ここはモグモグ。無視してやった。
「無視するな! 技術交換料を払うと言ってたじゃろうが!!」
「まだわしが食べてるにゃろうが! 揺らすにゃ~~~!!
食事ぐらいゆっくり食べて、王様の仕事をしたくないわしは、玉藻にどんだけぐわんぐわんと揺らされてもお金の話をしないのであった。
それから食後のデザートを食べてコーヒーを飲んでいると、また玉藻がお金の話をして来たので、全て条約書に書いてあると言って、その時に話し合おうと答えを先延ばしにする。
それでも納得できないからか、玉藻がわしに物凄く接近するので、リータとメイバイからちゃんと話をしろとお達しが下った。だが、わしも忙しい身。家康の案内があると言って……
「それなら私達がやります!」
「シラタマ殿は、国の話をするニャー!」
言ったのだが、奪い取られたので、コリスとオニヒメを連れて我が家の縁側に移動する。
「妾も連れて行け!」
わざと忘れた玉藻もついて来てしまったので、仕方なく縁側でコリス達とゴロゴロしながら話し合う。
「それが、話をする態度か……」
「ちゃんと条約書に書いてると言ってるにゃろ~? それに、玉藻でお金の話が出来るにゃ?」
「どういうことじゃ?」
「玉藻じゃ話にならにゃいと言ってるんにゃ。公家はお金に無頓着だからにゃ~。日ノ本に不利にゃ条約でも呑んでしまう心配をしてるんにゃ」
「うっ……そこを突かれると痛い」
「にゃ~? この話は各国を回ったあとにしたほうが効率的にゃ」
「たしかにそうかもしれんが……」
玉藻を言いくるめてやったので、わしは次の言葉を発する。
「じゃ、そんにゃわけで、おやすみにゃ~」
「おいおいおい! 王が真っ昼間から寝るな!!」
「ゴロゴロ~」
当然納得のいかない玉藻は、わしをツッコミながら揺するが、テコでも寝てやったのであったとさ。
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