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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~
518 犬と猫と視察団にゃ~
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猫軍は、頭を抱えて震えているフーゴ達を避けて前進。一塊となって、大蟻との戦闘を始める。
初戦は弓矢と魔法。大蟻に突き刺さり、吹き飛ばすが、大蟻に恐怖心は無く、仲間の死骸を乗り越えて前進する。
近接戦になると、各将軍や隊長の指示で大蟻を薙ぎ払い、猫兵が出過ぎた場合は、魔法使いに牽制させて穴を塞ぎ、乱戦になる事を避ける。
最初の頃は大量の大蟻に怯えていた猫兵だが、何度も経験している戦闘だ。ザコの大蟻くらい、我が猫兵はものともせずに蹴散らしている。
……猫軍も猫兵も、名前はどうにかなりませんかね~? 自分で言うのは恥ずかしいんじゃけど~?? ……もう居ない!?
リータ達に話し掛けてみたが、すでに猫ファミリーは大蟻に突撃していた。
外で待機している大きな黒蟻には、わしを置いてさっさと走り去った猫ファミリーと、エルフを除く猫の国最強パーティで対応。
猫ファミリーには物足りない敵なので、一匹倒すのに物の数分で撃破。そして、黒い絨毯を食い破るように進み、次の黒蟻に向かう。
最強パーティの構成は、ソウハを隊長に任命し、その下に、ケンフ、シェンメイ、宮本武志、後衛にワンヂェン。
猫ファミリーと違ってそこまで上手くはいかず、辿り着くにも時間が掛かり、黒蟻との戦闘に持ち込んでもすぐには倒せない。どうも、三人いるバトルジャンキーが黒蟻と一対一で戦いたいらしく、そのせいで時間が取られているようだ。
一人目の対戦相手は、宮本武志。ケンフ、シェンメイ、ソウハ、ワンヂェンに守られて、一対一で大蟻と戦う。さすがは侍の剣の使い手とあって、一方的に斬り付けるのだが、攻撃が軽すぎてトドメまでは持っていけないようだ。
なので、時間制限が来たら、ソウハの指示で一斉攻撃。最初からそうしてくれていたら楽に倒せるのだが、バトルジャンキー揃いでは致し方ない。
しかし、ソウハの命令には従う事を約束させているので、そこまで危険な事にはなっていないようだ。
ただ、わしがソウハの事を信頼し過ぎるので、ケンフとシェンメイが尻尾を垂らしている事が多い。バスや腕時計、武器に魔道具、数々のプレゼントをしているので、嫉妬もしているようだ。
わしはというと、予期せぬ事態の為に、後方待機。もうクイーン程度ならリータ達の敵でもないので、前に出る必要はないだろう。ぶっちゃけ、あんな大蟻の大群に突っ込まなくて有り難い。気持ち悪いんじゃもん。
なので、ウンチョウとリェンジェと共に、呆けているフーゴ達を見張っている。
「た、助かった……」
猫軍に殺されると思っていたフーゴ達は、素通りされて、激しい戦闘に突入したら安堵の表情を浮かべる。
「まだにゃ~」
「ヒッ!」
わしはフーゴを安心させないように刀を抜いて、真後ろの地面に突き刺す。「ドスッ!」と鳴る音でフーゴは悲鳴をあげ、ゆっくりと振り向いた。
「こ、これは……大蟻??」
そう。大蟻は時々こちらに現れていたので、わしとウンチョウとリェンジェは、剣を突き刺して殺していたのだ。
「お前達も働けにゃ。これぐらいにゃら出来るにゃろ」
「い、いや……」
「さっきので助けるのは最後にゃ。死にたかったら、どうぞおかまいにゃく」
わしが興味の無さそうな目でフーゴ達を見るが、立ち上がろうともしない。それでもまた大蟻が一匹近付いたら、わし達は距離を取る。
「き、来た! 誰かアイツを殺せ~~~!!」
「「「「「うわ~~~!!」」」」」
高々大蟻一匹に、大袈裟に騒ぐフーゴ。偽Aランクパーティも、慌てふためいて見える。しかし、このままでは噛まれてしまうので、覚悟を決めて全員で大蟻に向かって行った。
「アレで、本当にハンターのBランクなのですか?」
「猫軍の一番若手でも、一人で大蟻ぐらい殺せますよ」
あまりにも不甲斐ない偽Aランクパーティに、リェンジェとウンチョウはおかしく思っているようだ。
「う~ん……わしの知り合いのDランクハンターより酷いにゃ。だから、アイツらは参考になりそうにないにゃ~」
わし達が話し合っていると、何度も大蟻に剣を突き刺してようやくトドメを刺したようなので、わしはフーゴ達に近付く。
「にゃあにゃあ? お前達は本当にハンター協会の人間にゃの??」
「そ、そうですが……なにか?」
「いや~……偽物だと言われたほうが納得がいってにゃ~」
「この高貴な顔を見て、どうしてわからないのですか!」
「そのダサイ髭のせいでもあるにゃ」
「なっ……あなたよりマシです!」
カール髭より、わしの髭のほうがよっぽど立派だと思うんじゃけど……ピンッと立ってるし。てか、侮辱したら、ちょっと元気が出たな。
でも、アレを見たらどう思うんじゃろう?
「クイーンとキングのお出ましにゃ~。ハンター協会の人間だと言うのにゃら、戦ってみたくにゃい?」
「「「「「ぎゃああぁぁ~~~!!」」」」」
穴から飛び出た巨大な白蟻二匹を見たフーゴ達は、遠くにも関わらず、腰を抜かしてしまった。おそらく、わしに投げ込まれる心配をしているのかな? そうとしか考えられない怯えようだ。
そんな中、クイーンには、リータ、メイバイ、オニヒメで対応。キングにはコリスが向かったようだ。
オニヒメ以外、何度も戦った事がある相手なので、弱点を熟知しているからすぐに倒してしまうだろう。
その間も、わし達の元へ大蟻はチラホラ現れていたので、腰を抜かしているフーゴ達を見ていたら、何回か噛まれていた。
しかし、高々ザコのひと噛み。多くの大蟻にのし掛かられて噛まれたならばひと溜まりもないだろうが、単体ならばたいした事はない。大蟻はそれで大きな隙が出来るから、一人を犠牲にしている内に何度か剣で斬って振り払っていた。
皮の小手やレッグガードの上からだったので怪我もたいした事はないから、わしは治さない。ウンチョウとリェンジェと一緒に、ニヤニヤ見ているだけ。なんなら、三人でカメラを回して記念撮影もしておいた。
クイーンとキングが現れて数分。早くも猫ファミリーは二匹の前に辿り着き、その五分後には、楽勝で倒していたようだ。それからは残りの黒蟻に向かい、こちらも沈黙。
戦い始めておよそ三十分……巨大な白蟻と黒蟻の動く姿は見えなくなった。
「もう終わりそうだにゃ~」
「はっ! 掃討戦に移行させます」
これより猫軍は、ウンチョウの命令を聞いて散り散りに動き、大蟻を一匹残らず駆逐するのであった。
仕上げはわし。大蟻を片っ端から次元倉庫に入れ、【玄武】を走らせて巣を埋めてしまう。ウンチョウ達に見張らせていたフーゴ達は、あとで話を聞いたら、大蟻よりわしに怯えていたらしい。
それからキャットトレイン改に揺られて帰り、猫穴温泉に着いたら、勝利を祝して大宴会だ。
猫軍は慣れたといっても、とんでもない大群との戦闘なので、大蟻駆除のあとは労いの為に毎回行っている。
わしのポケットマネーから高級肉が振る舞われるので、いまでは志願者も多く、次回開催を首を長くして待っている者も多いようだ。
そのせいか、わしが人族兵の輪を回りながら声を掛けても、戦争に対しての恨みの声が聞こえなくなっている。逆に、街や村に住む家族の暮らしが楽になったと、感謝して来る声が多いので、うっとうしい。
わしは王であって、神ではない。猫神様って拝まないでくれる? 王様と呼べ!!
どうも、家族や猫耳族やウンチョウが、わしを神のように崇めるから、人族兵にも猫神様として浸透しているようだ。王様と訂正しても、次回には猫神様に戻っているから、わしはあまり大蟻駆除に参加したくないのであった。
うっとうしい猫兵の労いはほどほどにして、反省会をしているソウハ達の元へ寄ってみる。
「宮本先生。初体験の、黒い生き物はどうだったにゃ?」
「いや、先日、ソウハ殿に譲ってもらった」
「そうにゃの?」
「今回ほど大きくなかったがな。しかし、大きいと勝手が違うものだ。それに硬い。殿の言う通り、本当に硬い生き物が居たのだな」
「あ~……その刀では、ちと厳しいにゃ。今度、黒鉄で出来た刀を徳川から巻き上げて来てあげるにゃ」
「黒刀をか……アレは、タヌキ族にしか持つ事を許されていないのだが……」
「わしが言ったら大丈夫にゃ。ご老公とは親友だからにゃ。にゃははは」
「それは有り難い。拙者も振ってみたかったのだ」
わしが宮本にプレゼントをすると言っていたら、犬と猫が反応する。
「俺も! 俺にも、何かください!!」
「あたしも、新しい胸当てが欲しいのよね」
ケンフとシェンメイだ。宮本を優遇している事が納得できないようだ。
「シェンメイには白魔鉱の斧をあげたにゃろ~。胸当てはわしは作れないんにゃから、双子王女に言ってくれにゃ~」
「うっ……」
シェンメイは双子王女との仲がいまいちよくない……というより、口下手でいつも肝心な事を言えないまま終わるので、わしは何かと用事をつけて双子王女に振る事が多いのだ。
「ケンフは……素手で戦うのに、装備は必要にゃの??」
「くぅ~ん……」
ケンフには、魔道具だけで十分だ。わしのあげた猫の手グローブもぜんぜん使ってくれないしな! せっかく恥を忍んでフレヤに頼んだのに、神棚に飾りやがって……
「「「くぅ~ん」」」
「お前たちはにゃにか活躍したにゃか~~~!!」
ついでに寄って来たムキムキ三弟子は蹴散らして、わしは別の輪に加わって酒を飲むのであった。
「このフーゴ・シュテファン・モルトケの活躍で、あの大群を打ち破ってやったぞ! わはははは」
「「「「「ぎゃははは」」」」」
しばらく他所で飲んでいたわし達が、フーゴ達の輪に近付いたらふざけた事を言っていた。なので、ウンチョウとリェンジェの額には怒りマークが浮かんでいる。
わしは怒りを通り越して、呆れ顔。ため息しか出ない。
「はぁ……お前達が殺した大蟻は、五匹だけにゃろ~」
「猫王……貴様の悪行、必ずやハンター協会に報告させていただきますからな!」
地獄から生きて帰ったフーゴは、何故か最初の尊大な態度が戻った。おそらくだが、森の中ではないので、もう殺されないと思っているようだ。
「貴様ぁぁ! 王に対して、非礼だろう!!」
「我らの王を侮辱したのだ! ころ……」
「ストーップにゃ~~~!!」
ウンチョウとリェンジェが今にもフーゴ達を斬り捨てようとするので、わしは大声で止める。
「もういいにゃ」
「「しかし!!」」
「黙れと言ってるんにゃ!」
「「は、はい……」」
ウンチョウとリェンジェが口を閉ざすと、わしはフーゴ達に向き直る。
「好きにゃように報告しろにゃ。その代わり、わしの国はハンター協会との関わりは一切絶つからにゃ」
「フッ……こんな田舎、こっちから願い下げです」
「あと、わしもハンター稼業は辞めるから、金輪際、獲物を卸さないにゃ」
「フンッ……王がハンターだったとは、傑作ですね」
「じゃ、お互い納得したし、さっさと荷物をまとめろにゃ。明日、朝一のキャットトレインで帰っていなかったら、わしはお前を殺すからにゃ」
「ええ。わかりました。行くぞ!!」
わしが殺すと言うと、フーゴは一瞬怯んだが、すぐに強がりを言って旅館の自室に帰って行った。
「王よ……あまりにも、甘い処置ではありませんか?」
「そうですよ。せめて牢に入れ、ハンター協会の謝罪を要求すべきです」
ウンチョウとリェンジェが意見するが、わしはニヤニヤ笑う。
「二人はまだ、わしの性格がわかってないにゃ~。ちゃんと嫌がらせするから、わしに任せておけにゃ」
「「嫌がらせ??」」
「こ~んにゃ事を考えてるにゃ~……」
「「「にゃ~はっはっはっはっ」」」
わしが考えを述べると、ウンチョウとリェンジェは納得し、悪い顔で笑うのであった。
「また悪巧みニャー?」
「二人もあまりシラタマさんのやり方は見習わないほうがいいですよ」
「「「にゃ~はっはっはっはっ」」」
その会話をメイバイとリータに聞かれて呆れられてしまったが、わし達は笑い続けてやったのであったとさ。
初戦は弓矢と魔法。大蟻に突き刺さり、吹き飛ばすが、大蟻に恐怖心は無く、仲間の死骸を乗り越えて前進する。
近接戦になると、各将軍や隊長の指示で大蟻を薙ぎ払い、猫兵が出過ぎた場合は、魔法使いに牽制させて穴を塞ぎ、乱戦になる事を避ける。
最初の頃は大量の大蟻に怯えていた猫兵だが、何度も経験している戦闘だ。ザコの大蟻くらい、我が猫兵はものともせずに蹴散らしている。
……猫軍も猫兵も、名前はどうにかなりませんかね~? 自分で言うのは恥ずかしいんじゃけど~?? ……もう居ない!?
リータ達に話し掛けてみたが、すでに猫ファミリーは大蟻に突撃していた。
外で待機している大きな黒蟻には、わしを置いてさっさと走り去った猫ファミリーと、エルフを除く猫の国最強パーティで対応。
猫ファミリーには物足りない敵なので、一匹倒すのに物の数分で撃破。そして、黒い絨毯を食い破るように進み、次の黒蟻に向かう。
最強パーティの構成は、ソウハを隊長に任命し、その下に、ケンフ、シェンメイ、宮本武志、後衛にワンヂェン。
猫ファミリーと違ってそこまで上手くはいかず、辿り着くにも時間が掛かり、黒蟻との戦闘に持ち込んでもすぐには倒せない。どうも、三人いるバトルジャンキーが黒蟻と一対一で戦いたいらしく、そのせいで時間が取られているようだ。
一人目の対戦相手は、宮本武志。ケンフ、シェンメイ、ソウハ、ワンヂェンに守られて、一対一で大蟻と戦う。さすがは侍の剣の使い手とあって、一方的に斬り付けるのだが、攻撃が軽すぎてトドメまでは持っていけないようだ。
なので、時間制限が来たら、ソウハの指示で一斉攻撃。最初からそうしてくれていたら楽に倒せるのだが、バトルジャンキー揃いでは致し方ない。
しかし、ソウハの命令には従う事を約束させているので、そこまで危険な事にはなっていないようだ。
ただ、わしがソウハの事を信頼し過ぎるので、ケンフとシェンメイが尻尾を垂らしている事が多い。バスや腕時計、武器に魔道具、数々のプレゼントをしているので、嫉妬もしているようだ。
わしはというと、予期せぬ事態の為に、後方待機。もうクイーン程度ならリータ達の敵でもないので、前に出る必要はないだろう。ぶっちゃけ、あんな大蟻の大群に突っ込まなくて有り難い。気持ち悪いんじゃもん。
なので、ウンチョウとリェンジェと共に、呆けているフーゴ達を見張っている。
「た、助かった……」
猫軍に殺されると思っていたフーゴ達は、素通りされて、激しい戦闘に突入したら安堵の表情を浮かべる。
「まだにゃ~」
「ヒッ!」
わしはフーゴを安心させないように刀を抜いて、真後ろの地面に突き刺す。「ドスッ!」と鳴る音でフーゴは悲鳴をあげ、ゆっくりと振り向いた。
「こ、これは……大蟻??」
そう。大蟻は時々こちらに現れていたので、わしとウンチョウとリェンジェは、剣を突き刺して殺していたのだ。
「お前達も働けにゃ。これぐらいにゃら出来るにゃろ」
「い、いや……」
「さっきので助けるのは最後にゃ。死にたかったら、どうぞおかまいにゃく」
わしが興味の無さそうな目でフーゴ達を見るが、立ち上がろうともしない。それでもまた大蟻が一匹近付いたら、わし達は距離を取る。
「き、来た! 誰かアイツを殺せ~~~!!」
「「「「「うわ~~~!!」」」」」
高々大蟻一匹に、大袈裟に騒ぐフーゴ。偽Aランクパーティも、慌てふためいて見える。しかし、このままでは噛まれてしまうので、覚悟を決めて全員で大蟻に向かって行った。
「アレで、本当にハンターのBランクなのですか?」
「猫軍の一番若手でも、一人で大蟻ぐらい殺せますよ」
あまりにも不甲斐ない偽Aランクパーティに、リェンジェとウンチョウはおかしく思っているようだ。
「う~ん……わしの知り合いのDランクハンターより酷いにゃ。だから、アイツらは参考になりそうにないにゃ~」
わし達が話し合っていると、何度も大蟻に剣を突き刺してようやくトドメを刺したようなので、わしはフーゴ達に近付く。
「にゃあにゃあ? お前達は本当にハンター協会の人間にゃの??」
「そ、そうですが……なにか?」
「いや~……偽物だと言われたほうが納得がいってにゃ~」
「この高貴な顔を見て、どうしてわからないのですか!」
「そのダサイ髭のせいでもあるにゃ」
「なっ……あなたよりマシです!」
カール髭より、わしの髭のほうがよっぽど立派だと思うんじゃけど……ピンッと立ってるし。てか、侮辱したら、ちょっと元気が出たな。
でも、アレを見たらどう思うんじゃろう?
「クイーンとキングのお出ましにゃ~。ハンター協会の人間だと言うのにゃら、戦ってみたくにゃい?」
「「「「「ぎゃああぁぁ~~~!!」」」」」
穴から飛び出た巨大な白蟻二匹を見たフーゴ達は、遠くにも関わらず、腰を抜かしてしまった。おそらく、わしに投げ込まれる心配をしているのかな? そうとしか考えられない怯えようだ。
そんな中、クイーンには、リータ、メイバイ、オニヒメで対応。キングにはコリスが向かったようだ。
オニヒメ以外、何度も戦った事がある相手なので、弱点を熟知しているからすぐに倒してしまうだろう。
その間も、わし達の元へ大蟻はチラホラ現れていたので、腰を抜かしているフーゴ達を見ていたら、何回か噛まれていた。
しかし、高々ザコのひと噛み。多くの大蟻にのし掛かられて噛まれたならばひと溜まりもないだろうが、単体ならばたいした事はない。大蟻はそれで大きな隙が出来るから、一人を犠牲にしている内に何度か剣で斬って振り払っていた。
皮の小手やレッグガードの上からだったので怪我もたいした事はないから、わしは治さない。ウンチョウとリェンジェと一緒に、ニヤニヤ見ているだけ。なんなら、三人でカメラを回して記念撮影もしておいた。
クイーンとキングが現れて数分。早くも猫ファミリーは二匹の前に辿り着き、その五分後には、楽勝で倒していたようだ。それからは残りの黒蟻に向かい、こちらも沈黙。
戦い始めておよそ三十分……巨大な白蟻と黒蟻の動く姿は見えなくなった。
「もう終わりそうだにゃ~」
「はっ! 掃討戦に移行させます」
これより猫軍は、ウンチョウの命令を聞いて散り散りに動き、大蟻を一匹残らず駆逐するのであった。
仕上げはわし。大蟻を片っ端から次元倉庫に入れ、【玄武】を走らせて巣を埋めてしまう。ウンチョウ達に見張らせていたフーゴ達は、あとで話を聞いたら、大蟻よりわしに怯えていたらしい。
それからキャットトレイン改に揺られて帰り、猫穴温泉に着いたら、勝利を祝して大宴会だ。
猫軍は慣れたといっても、とんでもない大群との戦闘なので、大蟻駆除のあとは労いの為に毎回行っている。
わしのポケットマネーから高級肉が振る舞われるので、いまでは志願者も多く、次回開催を首を長くして待っている者も多いようだ。
そのせいか、わしが人族兵の輪を回りながら声を掛けても、戦争に対しての恨みの声が聞こえなくなっている。逆に、街や村に住む家族の暮らしが楽になったと、感謝して来る声が多いので、うっとうしい。
わしは王であって、神ではない。猫神様って拝まないでくれる? 王様と呼べ!!
どうも、家族や猫耳族やウンチョウが、わしを神のように崇めるから、人族兵にも猫神様として浸透しているようだ。王様と訂正しても、次回には猫神様に戻っているから、わしはあまり大蟻駆除に参加したくないのであった。
うっとうしい猫兵の労いはほどほどにして、反省会をしているソウハ達の元へ寄ってみる。
「宮本先生。初体験の、黒い生き物はどうだったにゃ?」
「いや、先日、ソウハ殿に譲ってもらった」
「そうにゃの?」
「今回ほど大きくなかったがな。しかし、大きいと勝手が違うものだ。それに硬い。殿の言う通り、本当に硬い生き物が居たのだな」
「あ~……その刀では、ちと厳しいにゃ。今度、黒鉄で出来た刀を徳川から巻き上げて来てあげるにゃ」
「黒刀をか……アレは、タヌキ族にしか持つ事を許されていないのだが……」
「わしが言ったら大丈夫にゃ。ご老公とは親友だからにゃ。にゃははは」
「それは有り難い。拙者も振ってみたかったのだ」
わしが宮本にプレゼントをすると言っていたら、犬と猫が反応する。
「俺も! 俺にも、何かください!!」
「あたしも、新しい胸当てが欲しいのよね」
ケンフとシェンメイだ。宮本を優遇している事が納得できないようだ。
「シェンメイには白魔鉱の斧をあげたにゃろ~。胸当てはわしは作れないんにゃから、双子王女に言ってくれにゃ~」
「うっ……」
シェンメイは双子王女との仲がいまいちよくない……というより、口下手でいつも肝心な事を言えないまま終わるので、わしは何かと用事をつけて双子王女に振る事が多いのだ。
「ケンフは……素手で戦うのに、装備は必要にゃの??」
「くぅ~ん……」
ケンフには、魔道具だけで十分だ。わしのあげた猫の手グローブもぜんぜん使ってくれないしな! せっかく恥を忍んでフレヤに頼んだのに、神棚に飾りやがって……
「「「くぅ~ん」」」
「お前たちはにゃにか活躍したにゃか~~~!!」
ついでに寄って来たムキムキ三弟子は蹴散らして、わしは別の輪に加わって酒を飲むのであった。
「このフーゴ・シュテファン・モルトケの活躍で、あの大群を打ち破ってやったぞ! わはははは」
「「「「「ぎゃははは」」」」」
しばらく他所で飲んでいたわし達が、フーゴ達の輪に近付いたらふざけた事を言っていた。なので、ウンチョウとリェンジェの額には怒りマークが浮かんでいる。
わしは怒りを通り越して、呆れ顔。ため息しか出ない。
「はぁ……お前達が殺した大蟻は、五匹だけにゃろ~」
「猫王……貴様の悪行、必ずやハンター協会に報告させていただきますからな!」
地獄から生きて帰ったフーゴは、何故か最初の尊大な態度が戻った。おそらくだが、森の中ではないので、もう殺されないと思っているようだ。
「貴様ぁぁ! 王に対して、非礼だろう!!」
「我らの王を侮辱したのだ! ころ……」
「ストーップにゃ~~~!!」
ウンチョウとリェンジェが今にもフーゴ達を斬り捨てようとするので、わしは大声で止める。
「もういいにゃ」
「「しかし!!」」
「黙れと言ってるんにゃ!」
「「は、はい……」」
ウンチョウとリェンジェが口を閉ざすと、わしはフーゴ達に向き直る。
「好きにゃように報告しろにゃ。その代わり、わしの国はハンター協会との関わりは一切絶つからにゃ」
「フッ……こんな田舎、こっちから願い下げです」
「あと、わしもハンター稼業は辞めるから、金輪際、獲物を卸さないにゃ」
「フンッ……王がハンターだったとは、傑作ですね」
「じゃ、お互い納得したし、さっさと荷物をまとめろにゃ。明日、朝一のキャットトレインで帰っていなかったら、わしはお前を殺すからにゃ」
「ええ。わかりました。行くぞ!!」
わしが殺すと言うと、フーゴは一瞬怯んだが、すぐに強がりを言って旅館の自室に帰って行った。
「王よ……あまりにも、甘い処置ではありませんか?」
「そうですよ。せめて牢に入れ、ハンター協会の謝罪を要求すべきです」
ウンチョウとリェンジェが意見するが、わしはニヤニヤ笑う。
「二人はまだ、わしの性格がわかってないにゃ~。ちゃんと嫌がらせするから、わしに任せておけにゃ」
「「嫌がらせ??」」
「こ~んにゃ事を考えてるにゃ~……」
「「「にゃ~はっはっはっはっ」」」
わしが考えを述べると、ウンチョウとリェンジェは納得し、悪い顔で笑うのであった。
「また悪巧みニャー?」
「二人もあまりシラタマさんのやり方は見習わないほうがいいですよ」
「「「にゃ~はっはっはっはっ」」」
その会話をメイバイとリータに聞かれて呆れられてしまったが、わし達は笑い続けてやったのであったとさ。
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異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る
ムーン
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完結しました!
魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。
無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。
そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。
能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。
滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。
悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。
悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。
狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。
やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。
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