アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

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第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~

589 桜を見る会にゃ~

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 お、おお~。桜じゃ……ソメイヨシノにヤマザクラ……この世界に来た当初は、もう見られないと思っておったが、久し振りに見れて感動じゃ~。うっ……なんだか泣けて来た。

 各国の王族にまざり、桜景色にわしも感動に打ち震える。感動の涙を流していた人もチラホラ居たらしいが、わしが一番泣いていたみたいだ。
 それから雅楽ががくの音が聞こえて来たら皆は気を取り直し、案内の者に続いて歩いて行く。わしは涙が引っ込まなかったので、リータに抱かれて連れて行かれた。

 しばし歩き、日ノ本が用意してくれたテーブル席に案内されると、各国に分かれて席に着いた。
 そこで玉藻達の間に立ったちびっこ天皇からの挨拶の続き。しゃくに書かれているであろう英語のカンニングペーパーを読み上げる。

「先日は、日ノ本の危機に多大な支援をしていただき、誠に感謝する。いまでは各国の王のおかげで民も笑顔を取り戻し、元の暮らしに戻りつつある。重ね重ね、誠に有り難う御座いました」

 ちびっこ天皇が頭を下げると、玉藻、お玉、家康、秀忠も遅れて続いた。

「しんみりした話はここまでにして、桜に馳走、酒を楽しんでくれ! では、桜を見る会の開始だ! かんぱ~~~い!!」
「「「「「かんぱ~い!」」」」」
「「「「「かんぱいにゃ~!」」」」」

 顔を起こしたちびっこ天皇の乾杯の音頭で始まる宴。各国のテーブルには豪華な懐石料理が並び、キツネやタヌキや人間の舞妓がお酌。酒が飲めない者にはお茶が振る舞われる。
 目の前には、三種族の神職の神楽かぐら。桜と神々しい舞いに、王族達は見とれて拍手を送っている。
 ちなみに『桜を見る会』の費用は、移動費を含めて全て日ノ本持ち。名前は外国人を招く会の名称なので、本来の役割通り。現代日本の有権者をよいしょするような会ではないのだ~!


 当然わしたち猫ファミリーも、桜を見ながら楽しんでいた。

「綺麗ですね~」
「あの花は、なんて名前ニャー?」
「アレは桜にゃ。一週間後には全て散ってしまうはかない花なんにゃ」
「たった一週間ですか!?」
「じゃあ、急いで写真に撮るニャー!」
「にゃはは。焦る事ないにゃ。毎年この時期になったら咲いてるにゃ~」

 リータとメイバイが驚いて桜に突撃していこうとするので、わしは笑いながら止める。

「満開も綺麗にゃけど、吹雪のように花が散る桜も綺麗なんにゃ。そして葉桜となり、また来年の英気を溜める……一年で人の一生を思い描かせてくれる木なんにゃ」
「へ~……散るのは悲しいですけど、なんだか物語のある木なんですね」
「花吹雪も撮るニャー!」
「花吹雪じゃなくて、桜吹雪にゃ。数日ここに滞在するし、撮れるかもにゃ~」

 わしが桜についての知識を披露していたら、各国の挨拶回りをしていたちびっこ天皇達がやって来た。

「シラタマ王も、楽しんでくれているか?」
「うんにゃ。素晴らしい景色にゃ~」
「シラタマの言う通り、各国の王も喜んでくれてホッとしたよ」
「まだ疑ってたにゃ!?」

 実は『桜を見る会』は、わしの発案。ちびっこ天皇に何か各国の王族を喜ばせる事が出来ないかと聞かれたので、桜並木を見せたら一発だとアドバイスしたのだ。
 しかし、あまり信用していなかったらしく、本日、王族の笑顔が見れて、ようやく信用してくれたみたいだ。

「すまんすまん。ヤマタノオロチといい、シラタマには感謝してもし足りない」
「その件はもう受け取ってるからやめてくれにゃ。てか、こんにゃに同時に満開にするのは大変だったにゃろ?」
「そうなんだ。木を冷やせる神職を派遣して開花を遅らせていたんだ。でも、西の地に無いと言っていたのに、どうして特徴まで詳しく知っているのだ??」

 おっと。桜の知識がありすぎていらん事を言ったな。元の世界でも桜の木を冷やして、桜花賞なんか満開じゃったからな~。こっちは魔法を使えばなんとかなるのか。

「そりゃ、これだけの木を育てるのは大変だからにゃ。苗木があったらうちにも分けて欲しいにゃ~」
「そういうことか……苗木なら、友好の証に各国に贈るぞ。ボクが大人になった時には、世界中で花開いているだろう」
「お~。それは楽しみだにゃ~。頑張ってここにも負けない桜並木を作るにゃ~」

 ちびっこ天皇は話し込んでいるわけにもいかないのか、わしとの話を終えると玉藻達を連れて違うテーブルに向かって行った。

「天皇陛下は忙しそうですね~」
「ここ最近のわしに比べたら、少ないぐらいにゃ~」
「シラタマ殿が忙しいのって、ここ最近だけだったニャー」
「誠に……あんなに仕事をするシラタマなんて、初めて見たぞ」
「ひどいにゃ~。建国の時も浜松の時も、お昼寝なしで頑張ったにゃ~……にゃ?」
「「にゃ??」」

 リータとメイバイと喋っていると誰か違う声が聞こえたので不思議に思ったら、二人も疑問の声を出した。

「玉藻虫にゃ!?」
「だからわらわを虫扱いするな!!」

 声の正体はミニ玉藻アダルトバージョン。わし達と話そうと分身を残して行ったみたいだ。

「てか、御所にこんにゃ綺麗な桜の名所があったんだにゃ~」
「いや、ここは五条城じゃ」
「にゃ? 三ツ鳥居は御所に運んだのに、移動してたんにゃ」
「御所でやろうとしていたんじゃが、徳川が是非とも使ってくれと言って来たらしくてのう。桜の木の本数で負けていたのは知っていたから、こちらに移したみたいじゃ」
「へ~。ずいぶん仲良くなったんだにゃ~」
「妾の代からしたら、到底考えられなんだわ」

 それから徳川家がこれほど桜を用意していた説明を聞きながら桜観賞を続け、お腹いっぱいになると歩きながら桜の木を見上げる。
 その時、「桜の木の下には人の死体が埋まっているから綺麗に咲くのだ」的な怪談をしてみたら、嘘つき扱いされてしまった。

 だからお伽噺とぎばなしみたいなもんですって~。てか、京は何度も戦禍に巻き込まれたから、本当に埋まっているかもしれないんですって~。
 ……え? 京の中では戦はなかったの?? 玉藻が京を襲おうとしたヤツは蹴散らしたのですか。そうですか。

 玉藻のせいで歴史が変わっていたので、ますますわしは嘘つき扱い。元の世界のお伽噺だと何度も言っていたら、お茶会が開かれていたのでわし達もそこにまざろうとする。
 そこで東の国王族が揃っていたので、さっちゃんと女王の間にわしは座らされてしまった。

「さっちゃんに茶の心がわかるのかにゃ~?」
「お茶に心なんてあるわけないじゃない」
「わびさびと言ってにゃ……おっと、先生からの有り難いお話が始まったにゃ」

 危うくいらぬ知識を披露しそうになったわしは、美人画に描かれていそうな先生からの茶道講座が始まったのでお口チャック。女王が聞き耳を立てていたから助かった。
 先生の話は茶道のちょっとした成り立ちとマナー程度だったので短く、すぐにお茶をて始めた。外国人相手だから、おいしいところしか話さなかったっぽい。
 もしも深く知りたい場合は、入会料を取ると言われてパンフレットも受け取った。英語で書かれていたから、これはマジの勧誘なのかもしれない。

 お茶が入るとまずは見本から。先生の飲む姿は美しく、流れるような動きに皆は魅了されている。女王まで「サティに習わせようかしら?」と呟いていた。
 それから皆にもお茶が振る舞われ、作法を忘れている者には先生から優しく指導。わしは二度ほど観光地で茶道を経験した事があったがほとんど作法を忘れていたので、思い出しながらやったら一番上手いと褒められた。

「なんでシラタマちゃんが一番なのよ~」
「わびさびの心を持っているからにゃ」
「だからさっきから言ってるわびさびってなんなのよ~」
「わびさびはわびさびにゃ」
「ひょっとしてシラタマちゃん……意味わかってないんじゃない??」
「説明が難しいだけなんにゃ~」

 日本人特有の感性なんて西洋人にはなかなか伝わらず、わしが通ぶっていると受け取られてしまった。しかも全員で笑いやがる。

 なので仕返しだ!!

「や、やめて……いまは触らないで……」
「にゃはははは。わしを愚弄した罰を身を持って受けるにゃ~。ちょんっ」
「いや~~~!!」

 全員正座で足が痺れていたので、わしは笑いながらちょんちょん触りまくる。誰もわしを止められないので調子に乗りまくったら、あとで十倍返しだ!! 死ぬほどモフられた。
 この事もあって、茶道は実は拷問の一種なのではないかと王族の間に噂が広がり、茶道教室の生徒は全然増えなかったのであった。


 皆にモフられたわしは気絶。連日の仕事の疲れもあり、桜の木の下で穏やかに眠った。そんな事をしていたら、今日はお開き。各国の王族は各々に割り振られた旅館にバスで移動して、VIP待遇を受けるらしい。
 わしはというと、目覚めたら御所にあるお食事処。猫の国組と東の国組は、御所が滞在場所になったらしい。
 理由はおそらく……

「さっちゃん! どうだ我が城は!? ママ上もよくいらしてくれました!!」

 ちびっこ天皇が、さっちゃんを連れ込みたかったことと、いまだに女王のママ設定が抜けていなかったこと。猫ファミリーには近付いて来ないから確実だ。
 ちなみに猫の国組がここに滞在する理由は、一番仲がいい国だから。いちおうちびっこ天皇とも話があったから割り振られたようだ。マザコンエロガキはまだ寄って来ないけど……

 その代わり、玉藻が寄って来たので話をする。

「陛下は楽しそうだにゃ~」
「うむ。準備も張り切っていたらしいし、成功して嬉しいのじゃろう」
「あの顔がにゃ~」

 ちびっこ天皇の顔がエロかったり子供だったりコロコロ変わっているので、どうもいまいち信用ならない。その事を酒を飲みながら話をしていたら、さっちゃんがわしの所に逃げて来た。

「もう~。フィアンセが困っているのに、どうして助けてくれないのよ~」
「いつからフィアンセになってるにゃ~」
「いつって……お母様の誕生祭から?」
「まだその冗談続いてたにゃ!?」

 さっちゃんの冗談はきっちり否定しておかないと、誰とは言わないけど、また死ぬほどモフられる。わしは必死にフィアンセを断るが、結局はモフられて、本日二度目の気絶。
 わしが寝ている間に夜の会食は終わり、寝ている内にわしは揉み洗いされていた。


 その深夜、リータとメイバイの間で目覚めたわしは、二人を起こさないように抜け出すと、コリスに埋もれているオニヒメの布団を避けて、御所をブラブラ歩く。
 そうして一本の綺麗なしだれ桜が咲いていた場所で腰を下ろし、一人で酒をチビチビ夜桜を楽しんでいた。

 さすがに寝過ぎたな。みんなしてあんなに撫で回さんでも……しかし、久し振りの桜は、やはりいい。さらに御所の雰囲気と相俟あいまって、おもむきのある景色じゃ。
 そう言えば若かりし日に、女房と京都で桜観光したっけ。あの時はどこを回ったんじゃったか? たしか高台寺で、こんな桜を見たような……
 他人の空似……桜の空似か。フフ。いまさら女房との思い出なんて考えるとは、どうかしておる。さっちゃん達の話のせいかな?

「にゃはははは」

 一人で笑っていると、桜の花びらがさかずきにはらりと落ちた。わしはその酒を一気に飲み干し、思い出と共に噛み締めるのであった。
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