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01 異世界に飛ぶにゃ~
しおりを挟む我輩は猫又である。名前はシラタマだ。着流しを着た白猫のぬいぐるみに見えるだろうが、猫の国では王様と呼ばれている。
「お会いできて光栄です……勇者様!!」
この水色のロングヘアーを揺らすドレスを着た美女が言うような勇者ではない。
馬車がゴブリンの群れに襲われている現場を助けたわしは、水色の瞳で見詰める美女の言葉にたじたじとなるのであった……
* * * * * * * * *
時は遡り、猫の国の首都、猫の町にある王様のお家、キャットタワー10階の王族寝室で寝ていたわしは、べティというカーリーヘアの幼女に撫で回されていた。
「ねえねえ~?」
「ゴロゴロ~?」
「寝てないで遊びに連れて行ってよ~」
「ゴロゴロゴロゴロ~」
「なんて言ってるのよ~!」
「ゴロゴロゴロゴロ~!?」
べティの撫で回しがさらに激しくなったので、わしは仕方なく目を開ける。
「暇にゃら仕事したらいいにゃろ~」
「今日は休みなの。てか、こんな幼女を働かせて王様が寝てるって、どういうことよ?」
「わしも休みだからにゃ~」
このべティ、実はただの五歳児ではない。わしと同じく転生者で、魂年齢は百歳超えの同年代。他国で暮らしていたところを、魔法と料理が超上手かったからスカウトして来たのだ。
白い生き物はこの世界では恐怖の対象なので、立って歩く白猫のわしを見て最初は死ぬほどビビッていたが、同郷の転生者と説明したらひょいひょいついて来たのだ。
「あたしもUFO見た~い!」
「揺らすにゃ~~~!!」
そして、王様のわしにも物怖じせずにおねだりして来るのでうっとうしい。このままでは熟睡できないので、仕方なくワガママをきいてしまうわしであった。
「う~ん……うるさ~い」
わし達が揉めて……わしが一方的に揉まれていたら、一緒に寝ていた者が目を覚ましてしまった。
「ごめんにゃ~。べティも謝れにゃ~」
「ごめんね~。この猫がぜんぜん起きなかったの~」
この二本の尻尾で目を擦っている体長2メートル以上の白いリスは、猫の国の王女コリス。本当は10メートルを超すリス両親からわしが預かっているだけなのだが、国民から王女と認識されているので、戸籍はわしの養女となっている。
「UFOでお昼寝するけど、コリスもついて来るにゃ? あの柔らかいベッドで寝ようにゃ~」
「うん! きもちいいの!!」
コリスもついて来ると決まったところで、妖精がパタパタと飛んで来てわしの頭に乗っかった。
「ノルンちゃんも里帰りするんだよ~」
この妖精の名前はノルン。見た目は20センチくらいの幼女の姿をしているが、実はゴーレム。とある賢者の最高傑作で、ちゃん付けで呼ばないといつまでも訂正して来る面倒なヤツだ。
「んじゃ、出掛けると伝えて来るから、待っておいてにゃ~」
寝室から出て、一番近くに居た人物に外出と夜には戻る旨を伝えたら、四人? いや、二匹と一体と一人? ……見た目がややこしい面子ばかりなので、全員人換算で四人で! このメンバーで転移した。
わしは遠い場所に一瞬で飛べる転移魔法を使えるので、次の瞬間には真っ暗な空間に到着。そこで手をバタバタとしたら、わし達が来たのを感知した施設の装置が電気を付けくれた。
「わ~お。これがUFO……」
「正式名称は『天の羅摩船』にゃ~」
この真っ白な空間にポツンと置いてある乗り物は『天の羅摩船』という名称の次元船。見た目は白銀のUFOなのだが、実はマジもんの神様の乗り物。
とある賢者が掘り起こして保管していたモノを、わしがこの施設で発見したのだ。ちなみにノルンはここで仲間になったので、ノルンにとっては実家みたいなものだ。
機能は、空を飛ぶなんて朝飯前。宇宙空間でもへっちゃら。何光年も先への瞬間移動だって楽勝。それよりも凄い機能は、次元を超えることができること。平行世界だって異世界だって行けちゃうのだ。
次元を超えるにはこの世界を管理するスサノオノミコトから渡航券なるものを貰わないといけなかったのだが、わしはふたつも貸しがあったので、家族と友達までは移動していいことになっている。
そのUFOを初めて見たべティは感動している。この前、わしの親友と一緒に連れて来てあげたのだが、正規ルートからべティだけここまで連れて来てあげられなかったので、転移魔法でショートカットしてあげたというわけだ。
一通りべティが外観を楽しんだら、ノルンに頼んでUFOを操作してもらう。このUFOのマニュアルはノルンの頭に入っているので、頼ったほうが楽チンなのだ。
ノルンがわけのわからない言葉を呟くとUFOから階段が現れ、わし達は内部に入る。そこでノルンにもう一度頼みごと。白銀のベッドを出してもらって、わしとコリスはダイブ。
このベッドは人をダメにするソファーより柔らかくわし達を包み込んでくれるので、人ではないがすぐに睡魔がやって来た。
「それでそれで~? これってどうやって使うの~??」
しかし、べティがわしのお昼寝を邪魔するので、少しだけ相手にしてあげる。
「ノルンちゃんに聞けにゃ~。わし、呪文も知らないんにゃ~。あ、でも、魔力が溜まってないから、たいしたことできないからにゃ?」
「え~! 空ぐらい飛べないの~??」
「知らないにゃ~」
べティの質問に答えてあげたいところだが、面倒くさい。説明はノルンに任せ、わしはダメになって目を閉じる……が、すぐにべティに起こされた。
「にゃに~?」
「これって、シラタマ君の魔力を補充できないの? いっぱいあるんでしょ??」
「いや……できるのかにゃ??」
わしにはその発想が無かったのでノルンを見た。
「そこの板に手を触れてたら送り込めるんだよ」
「にゃんですと!? そんにゃのできるにゃら早く言ってにゃ~」
「シラタマが聞いて来ないからだよ。あと、説明書をちゃんと読まないから悪いんだよ」
わしだって暇だったらUFOのマニュアルを熟読したのだが、同時に発見した古代の書物の編纂で忙しかったから仕方がない。
「どうせノルンちゃんだよりで読む気なかったんでしょ?」
「ノルンちゃんのマスターは、怠け猫なんだよ」
「あ、あの時は超忙しかったから忘れてただけにゃ~!」
「「嘘つき……」」
幼女と妖精に残念な目を向けられたわしは、必死の言い訳をするせいで土坪に嵌まって行くのであったとさ。
「と、とりあえず、わしの一日分の魔力を補充してみますにゃ~」
二人に説教されたわしは、仕事をして名誉を挽回する。今日は燃費の悪い転移魔法を使っていたので、減った分は次元倉庫という魔法に溜めていた魔力で補填。白銀の板に肉球を触れながら魔力を送り込む。
「う~ん……目一杯注ぎ込んでみたけど、これでどれだけ回復してるにゃ?」
「ちょっと待つんだよ」
ノルンが白銀の板に乗りながら呪文を唱えると、目の前にグラフのような物が浮かび上がった。
「あっ! すんごい回復してるんだよ!!」
「本当にゃ!? どれぐらい回復したにゃ!?」
ノルンが興奮しているから、わしはすぐにでもUFOが使えるようになると思ったのだが……
「総量の0.037%なんだよ!」
「「少にゃ!?」」
1%にもまだまだ足りなかったので、わしとべティはガッカリするのであったとさ。
「つまり、わしが毎日来て魔力を注ぎ続けたら、満タンまで10年掛かるところを半分ぐらい短縮できるってことにゃんだ……」
要約するとノルンの説明はこんな感じだったので、わしとしては超面倒くさい。やってらんない。たしかに元の世界には早く行きたいけど、有り余る時間があるからやる気が起きない。
「あ、そうにゃ。空飛ぶぐらいにゃらできるようになったかにゃ?」
「うんだよ。月に行くぐらいまでは大丈夫なんだよ」
「月!? あたしも行く!!」
月と聞いてべティが抱きついて来たので、わしは押し返しながら喋る。
「ちゃんと聞いてたにゃ? まだ往復分のエネルギーが無いにゃ~」
「シラタマ君が補充し続けたらいいじゃな~い」
「面倒なんにゃ~」
「『この一歩は』っての、やってみたいのよ~」
「にゃに一番最初に降りようとしてるんにゃ~」
さらにべティが厚かましいお願いをして来るので、違う方法で落ち着かせる。
「じゃあ、UFOが動くようになったら、べティを船長に任命するにゃ」
「い、いいの??」
「キャプテンべティ……それまでにノルンちゃんから操縦方法を学んでおいてくれにゃ~」
「やった! このキャプテンべティに任せておいて!!」
チョロいべティのおかげで静かになったので、わしは本来の目的通り、人をダメにするベッドでぐうたら眠るのであったとさ。
それからどれぐらい時間が経っただろう……
「ちょっとシラタマ君。ちょっとちょっと……」
べティがゆさゆさ揺すってわしを起こそうとしていた。
「ムニャムニャ。今日のごはんはにゃんだったかいの~? ムニャムニャ」
「ボケるなら起きてからボケなさい!!」
「ゴロゴロゴロゴロ~!?」
しかし、まったく起きる気配が無かったので、わしは雑に起こされた。
「にゃに~?」
「それがさあ~……あたしはね。あたしは触ってないのよ。あ、ノルンちゃんも触ってないからね?」
「だからにゃに~??」
「まず、冷静になってってこと。それと、あたし達に非がないってのも理解してね」
「怒られるようにゃことでもしたんだにゃ……」
「だから違うんだって~。想定外の事態が起きて、あたし達も困ってるのよ~」
べティが念を押して何かを伝えようとしているが、困っている内容がわしにはわからない。
「もう一度確認をするけど、このUFOのエネルギーってスッカラカンだったわよね? 瞬間移動や次元を超えるなんてことできないのよね??」
「そうにゃけど……いったいにゃにをやらかしたんにゃ~」
「冷静にね? いま、外を見られるようにするけど、怒ったりしないでね??」
「わかったからさっさとしろにゃ~」
「言質取ったからね? 絶対に怒ったらダメだからね??」
べティは執拗に確認を取ると、白銀の板に触れながら呪文を唱えた。
「にゃ~~~??」
すると、360度どころか上も下も透明になり、まるで空でも飛んでいるような世界が広がったので、ブルッと寒気が来た。
「あ、壁紙を空に変えたんにゃ~」
「そう思いたいんだけど、違うんだな~。外を見れるようにしただけよ」
「あ、外に出たにゃ? でも、どうやってあそこから出たんにゃ??」
「あたしもどうやって出ようかと考えていたんだけど……ま、そこのことは置いておいて、あそこ見て」
べティが指差す方向を見ると、どんよりとした森が広がっており、うっすらとだが建物のような物が見える。それが何かと尋ねようとしたら、今度は逆側を指差すので確認すると、大きな外壁に囲われた町があった。
「にゃんかお城みたいにゃのがあるんにゃけど……てか、木とか岩とか浮いてにゃい??」
そう。それだけならいいのだが、UFOから見た景色は、この世の物とは思えないような景色が広がっていたのだ。
「そうなのよね~……ここってどこなんだろ?」
「それはわしのセリフにゃ~~~!!」
べティがあまりにも冷静に喋っているので、わしが代わりに焦りながらツッコムのであった……
*************************************
ひと月程度のお付き合いになると思いますが毎日更新しますので、ブックマーク等、宜しくお願いいたします。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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