15 / 38
15 勇者誕生にゃ~
しおりを挟む「はい? 勇者ってどういうことですか??」
白い大型犬を連れて頭に妖精を乗せたモブっぽい少年は、わしが勇者と叫んでもピンと来ていない。
「にゃ……ああ。ちょっと熱くなっちゃったにゃ。時間を取らせて悪いんにゃけど、少しだけわしに付き合ってくれないかにゃ?」
「えっと……夜ではダメですか? お金にあまり余裕が無いので仕事をしないわけには……」
「急ぎなんにゃ。今日の稼ぎはわしが出すから、にゃにとぞ!!」
わしが頭を下げると、少年は困っているようだが承諾してくれる。
「わかりましたから、頭を上げてください。一日ぐらいならなんとかなりますので、お金も結構です」
「それはダメにゃ。前金にゃけど、これで十分にゃろ」
「金貨!? こここ、こんなの貰えません!!」
「とりあえず、ここじゃ邪魔になるから向こう行こうにゃ~」
こんな場所でお金の押し付け合いなんかしていたら町の外に出る冒険者の邪魔になるので、わしは少年の手を引いて列から離れる。その時、少年のポケットにこっそり金貨を入れたので、押し付け合いはわしが引いて終わりにしてあげた。
「そんじゃあ、改めにゃして……わしはシラタマと申すにゃ~」
「僕はハルトです。この子は妖精族のモカで、こっちは白狼種のレオです」
16歳になったばかりというハルトが緑色の髪をした妖精と大型犬だと思っていた白いオオカミも紹介してくれたので、わしもパーティメンバーを紹介しようとべティ達を呼び寄せた。
「チェッ……なんで今まで気付いてなかったのに、今日に限って気付くのよ……」
皆の紹介が終わったらべティがグチグチ言っていたので、わしは質問してみる。
「今まで気付いてにゃいって……どういうことにゃ??」
「この子達、何度もすれ違ってたよ?」
「そうにゃの? ……にゃっ!!」
「あっ! また電球出た!!」
「ホンマにゃ!?」
べティに指摘されたことを思い出したらわしの頭の上に電球が浮かんだらしいので、慌てて上を向いて確認。しかし、これに時間を掛けると思い出したことを忘れそうなので、慌てて回想にふける。
ハルトと初めてすれ違ったのは、冒険者の登録が終わってギルドを出た時。次は教会から帰る時。その次が魔王城から帰って来た日の町の門。その全てにべティは気付いていたから、いつも遅れていたのだ。
「にゃんでそのとき教えてくれないんにゃ~」
「だって~。あたしが勇者やりたかったんだも~ん」
「せめて反省しろにゃ~」
どうしてもべティは勇者役をやりたかったようで報告する気はなかったとのこと。わしが見付けたことに対して文句まで言いやがる。
「にゃ~にゃ~」文句を言いたいところであったが、ハルトがキョロキョロして困っているので、先ほど紹介したアオイを前に立たせる。
「わしに勇者とか言われても信じられないだろうにゃ。このアオイさんはお城で働いている人にゃから、王女様が神託で聞いた勇者の特徴を教えてくれるにゃ~」
「え? 詳しい特徴は聞いてないんですけど……」
「にゃんで聞いてないにゃ!?」
サトミは勢い余って勇者を探しに出たので、誰にも特徴を説明してなかったっぽい。わしが苦情を言った時に居た執事と武闘王ぐらいしか知らないと思われる。
「まぁいいにゃ。王女様に会いにお城に行くにゃ~」
「おおお、お城ですか!?」
「大丈夫にゃ。金貨もう一枚あげるからにゃ?」
「お金の問題じゃないんですぅぅ」
予定変更。勇者を拾ったならば、お城に届けるのが筋だろう。ハルトは庶民だから慌てているが、わしはまた金貨をポケットに押し込み、城に連行するのであった。
「「「魔王討伐は??」」」
「キャンセルにゃ~!」
「「「そんな~~~」」」
落胆するべティ&ノルンとアオイも、コリスに拘束させて連行するわしであったとさ。
何度も「首、刎ねられません?」と心配するハルトを「わし、他国の王様だから」と宥めて歩いていたら、ハルトはわしに対しても緊張。白狼種のレオはハルトにスリ寄ってアニマルセラピーをしていると思われる。
「あなた、見掛けない顔ね」
「あなたじゃなくて、ノルンちゃんだよ」
「あなたも人族と一緒に暮らしてるの?」
「あなたじゃなくて、ノルンちゃんだよ」
偽物妖精ノルンと本物の妖精モカは、なんか会話が噛み合っていない。てか、ノルンは自立式ゴーレムなんだから、妖精に知り合いが居るわけがない。
そうこう各々喋っていたら、城に到着。門兵にアオイの顔を見せて王女との面会を要望してみたら、アポイントを取れとのこと。
緊急事態だと何度も念を押し、アオイをこの場で殺すと脅したら、なんとか人を走らせてくれた。
「なんで戻って来てるんですか!?」
わしの名前を聞いたであろうサトミは息を絶え絶え走って来て怒鳴るので、耳がキーンと来た。
「勇者を見付けたからにゃ~」
「はい??」
簡潔に説明してもサトミはとぼけた声を出すだけなので、ハルト、レオ、モカを見せて説明する。
「ハルト君は、東からやって来たと言っていたにゃ。王女様の言っていたパーティ編成にゃし、間違いないにゃろ?」
「たしかにそうですけど……魔王と戦いたくないが為に嘘を言っているのでは?」
「にゃんでわしが嘘つかなくちゃいけないにゃ~」
せっかく勇者を連れて来てあげたのに、サトミは信じてくれない。わしが勇者じゃなかったから、騙された被害者意識があるのかもしれないが、簡単な解決方法はある。
「勇者の剣を抜いたら本物だとわかるにゃろ?」
「はあ……もう一度シラタマ様も試してくれません?」
「だから勇者はこっちにゃ~」
サトミはまだわしを勇者だと疑っているので、ハルトの次にわしが挑戦することで納得させ、用意してもらった馬車に乗り込む……が、人数制限に引っ掛かったので、わしの畳敷きバスに全員を乗せてあげた。
「和の国の畳、いいですよね~。うちにもひと部屋あるんですよ~」
「王女様がコロコロ転がるにゃ~。みんにゃ迷惑してるにゃ~」
サトミが傍若無人に振る舞うと、べティやコリスはいつも通りなんだが、ハルトがヤバイ。
ハルトはバスの一番奥に突っ立って、ローリング王女アタックに当たらないようにしているので、急ブレーキを掛けたらサトミにエルボードロップしてしまいそうだ。
もうここはコリスにモフモフロックをしてもらい、サトミを拘束してハルトに座るように促すわしであった。
バスはノロノロ走り、教会に着いたら今にも吐きそうなハルトから下ろす。アオイに水筒を渡して看病させている間に皆を降ろし、バスは次元倉庫へ。
ハルトはまだ少し気持ち悪そうだが、規制線の張られている教会の裏庭に連れて行った。
「今度こそ抜いてやるわ!」
「べティは引っ込んでろにゃ~」
往生際の悪いべティは、ハルトに勇者の座を譲りたくないと言わんばかりに勇者の剣を抜きに行って「ふんぬ~!」とか言っているけど抜ける素振りがない。なので、わしが羽交い締めにしてべティを排除。
べティをコリスに預けたらハルトを呼び寄せるが、岩には登ったがなかなか勇者の剣を握ろうとしないので、わしは緊張を解こうとする。
「こにゃいだここまで来てたらしいんにゃから、ちょっとは興味あるにゃろ?」
「はい……挑戦は自由と聞いていましたので、記念に挑戦しようかと……でも、しばらくは立ち入り禁止と言われましたので諦めました」
「それはわしがやらかしたからにゃ。本当はその日の内にハルト君が勇者になっていたのに、わしのせいですまないにゃ~」
「そ、そんな……僕なんて……」
「軽い気持ちで挑戦してくれたらいいだけにゃ。ダメでも、誰も文句は言わないからにゃ」
わしの言葉にハルトは頷いたけど、サトミを見たら首を横に振っていたので、ハルトに見せないようにした。だって、文句言いそうな顔してたんだもん。
「次はわしが挑戦するから、ちゃちゃっとやっちゃってにゃ~」
「はあ……いきます!」
わしがわざと順番を出して急かすと、ハルトはようやく勇者の剣に手を掛け、力を込めた。
「「「「「お、おお……」」」」」
すると、岩に刺さっていた勇者の剣は、まるでプリンにでも刺さっていたかのように抵抗なくスッと抜け、その刀身は光り輝いた……
「にゃはは。勇者ハルトの誕生にゃ~。にゃはははは」
皆が感嘆の声を出す中、この記念すべき勇者ハルトの誕生を、わしは笑いながらカメラに収めるのであった。
「にゃ~? わしが言っていた通りにゃろ~??」
辺りがざわざわしている中、わしはハルトを連れてサトミの前に移動したら……
「ゆ、勇者様……お待ちしておりました!」
「にゃっ!?」
「おっふ……」
サトミはわしを押し退けてハルトにハグ。さすがにサトミの胸に顔を埋められては、ハルトは力が抜けたのか勇者の剣を落とした。
「にゃったく……」
蚊帳の外に置かれたわしは、サトミが落ち着くのを待たないといけないのかとやれやれって仕草をしていたら、べティがそうっと二人に近付いていた。
「勇者の剣を盗もうとするにゃ~」
「ち、ちがっ!? 落ちてたから拾った人の物かと思って……」
「そんにゃわけないにゃろ~」
「間違えた! ちょっと持ってみたいと思っただけよ!!」
「もう遅いにゃ~」
「ふんぬ~!!」
わしが止めているのにべティは勇者の剣に触れて持ち上げようとしているが、うんともすんとも言わないようだ。
「ゼーゼー……何これ? あの子、こんなに重たい物を振れるの??」
「振れるから勇者なんにゃろ。勇者以外には振れない魔法でも掛かってるんじゃにゃい?」
「くっそ~! てか、こんなの誰が作ったのよ!!」
「さあにゃ~? 神様かもにゃ~??」
たしかに製作者は気になるので、わしは勇者の剣をひょいっと持ち上げて魔力視という魔法でよく見てみる。すると、膨大な量の漢文が勇者の剣に浮かび上がったので、すぐに解除した。
UFOにもこれに似た漢文が無数に浮き上がるのだから、勇者の剣の製作者は間違いなく神様。勇者にしか持てないってことは、何か目的があってここに突き刺されていたのだろう。
ちなみにあとで刺さっていた場所も見てみたら、同じように漢文が浮かんでいたから、わしの馬鹿力でも抜けなかったのだと納得した。
「つぅ~……やっぱり神様の落とし物にゃ。UFOと一緒で漢文が浮かび上がっているにゃ~」
わしは勇者の剣の情報の多さで頭に痛みが走ったが、頭痛を我慢してべティに教えてあげているのに口をパクパクしてる。
「お魚さんのマネしてるにゃ?」
「なっなっなっ……」
「だからにゃに~??」
「なに簡単に持ち上げてるのよ!!」
どうやら勇者以外誰に持てない剣を、わしが力業で強引に持ち上げているのがべティは納得いかないのであったとさ。
1
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
精霊のお仕事
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】
オレは前世の記憶を思い出した。
あの世で、ダメじゃん。
でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。
まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。
ときどき神様の依頼があったり。
わけのわからん敵が出てきたりする。
たまには人間を蹂躙したりもする。?
まあいいか。
やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる