猫王様の千年股旅

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猫歴50年~72年

猫歴72年その1にゃ~

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 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。イヤな予感が止まらない。

 さっちゃんが倒れてからというもの、食が一気に細くなり日に日に痩せ細っていくのだから、そろそろなんだろう。
 わしはできるだけさっちゃんの下へ顔を出し、仕事が手につかない。子供たちには「いつも通りじゃね?」とか言われたけど、今回はマジなんです。

 というわけで、シャーマン頼り。わしは1人で足を運んでみたけど、シャーマンの顔を見た瞬間に逃げ出したから、呪いのスタンプが送られて来た。聞くの怖いの。
 だがしかし、もうあまり時間がないかもしれない。わしはリータとメイバイに両脇を抱えられ、キカプー市にやって来た。

「みんなどうしたの?」

 ただ、その2人まで足取りが重く止まってしまったので、イサベレは振り向いて不思議そうな顔を見せた。

「オニヒメちゃんの時は覚悟を決められたのですが……」
「その時、占いは当たったニャー。今回も助けることができないニャ……」

 どうやらリータとメイバイは、わしと同じく怖じ気付いている様子。絶対的な死を聞くことは、二度目のほうが怖く感じるのかもしれない。

「そういえばイサベレは、ペトさんの時もそこまで悲しんでないように見えたにゃ。にゃんか理由があるにゃ?」
「何代も見送っているから。初めての女王様、初めての王女様、みんな死んだ。友達も上司も部下もみんな死んだから」
「そりゃそうだよにゃ。近しい者をそんにゃに見送っていたら、心が麻痺しちゃうにゃ。その苦痛、痛いほどよくわかるにゃ~」
「そのわりにはいつも怖がったりしてる。よく考えたら、同じくらい生きてない?」
「怖いのはシャーマンに聞きに行く時だけにゃ~」

 前世では百歳まで生きたのだから、わしとイサベレの魂年齢はほぼ同年代。死者を見送ることは慣れていても、死の日時を聞くのはまだまだ初心者。二代目シャーマンぐらい付き合いが浅ければナンボでも聞けるんじゃけどな~。
 そんな感じで言い訳&立ち話をしていたら、町外れから砂煙が近付いて来た。三代目シャーマンが全速力でダッシュして来たのだ。

「サンドリーヌさんのことですよね!? 彼女死にますから早く聞いたほうがいいですよ~~~!!」
「簡単に死ぬとか言うにゃ~~~!!」

 今回は逃げるつもりはなかったのに、シャーマンはわしが逃げないようにフライングで言うものだから大喧嘩になるのであったとさ。


 シャーマンから全てを聞いたわしたちは話し合い、猫ファミリーには伝えないことに決めた。もちろんシャーマンのことはトップシークレットなので、東の国にも日時は教えない。
 というより、わしたちでも苦しいのだから、ご家族には言えないというほうが正しい。シャーマンとは違うのだよ。

 さっちゃんの死ぬ日時を聞いたのだから、リータたちが訪ねるのは最低限に。わしはいつもお昼寝しに行っていたから心のケアを任されたので、だいたいさっちゃんのベッドで寝てる。

「ねえ? 昔話してくれない??」

 そんなこと言われると勘繰ってしまうので、わしはどうしようかと悩む。

「起きなさい!!」
「ゴロゴロゴロゴロ~~~!?」

 いや、正確な日時を聞いてるから、安心して寝ていたのでさっちゃんからめっちゃモフられて起こされた。

「昔話にゃ~……さっちゃんの暗殺事件とかって覚えてるにゃ?」
「ええ。衝撃的だったもの」
「そりゃそうだにゃ。自分の命が狙われてるんだもんにゃ」
「そっちじゃないわ。シラタマちゃんよ。野営では魔法でテーブル出したりお風呂を出したり。挙げ句の果てにはあの当時はなかった車まで出したじゃない? 猫が立って喋っているだけでも不思議なのに、それ以上に驚かされることばかりやるから忘れられるワケないじゃない」
「そ、そうにゃんだ……ちにゃみに黒幕は覚えてるにゃ?」
「えっと……シラタマちゃんに掻き消されて忘れたわ」

 それは痴呆じゃないかとツッコミたかったけど、わしのことは出るわ出るわなので、暗殺は本当に些事となっていたみたいだ。わしも同じ立場なら忘れてる自信はある。

「ほ、ほら? ソフィーたちの写真もあるにゃよ~??」
「アルバム? 懐かしいな~……ウフフ。お婆ちゃんまである」

 なんだかわしの話ばかりになったので、さっちゃんが王女様だった頃の専属騎士、白猫騎士団のアルバムで話を逸らす。
 団員は、ソフィー、ドロテ、アイノ。それに加えてエリザベスとルシウスだ。皆とはかなり仲が良かったので、毎年何度か集まって写真もたくさん撮っていたから、年老いて行く姿も残っているのだ。

「ソフィー……長く私に仕えてくれた騎士……」
「まぁ……仕方ないよにゃ……」

 さっちゃんは若かりし日の凛々しい女騎士姿のソフィーの写真を、目に涙を溜めながら撫でた。わしはその言葉に、ちょっといらんこと言っちゃった。
 ソフィーはわしが最後に会った時に、婚期を逃してしまったから渋々騎士を続けてたって言ってたんじゃもん。
 それでも忠誠は忘れてなかったし、さっちゃんに仕えることは最大級の誉れだとも言っていたから、後者が本音だと思う。と、信じてる。

「ドロテ……懐かしい顔ね……」
「まぁ……早くに辞めたもんにゃ……」

 ドロテと最後に会った時は、思ったより早く結婚して騎士を抜けられたことを嬉しそうに語っていた。たぶんさっちゃん暗殺事件の連絡役をしていたから、後ろめたさがあったのだろう。
 ただ、わしが訪ねた時は決まってさっちゃんは元気かと聞かれたから、本当はずっと仕えたかったのだと思っている。と、信じたい。

「アイノ……自分だけモフモフと結婚したズルイ子……」
「懐かしんでる最中にゃんだから、恨み節はやめてあげにゃい?」

 アイノには「モフモフ紹介して」とわしは泣き付かれていたので、ウサギ族を紹介した経緯があるからわしも恨みの対象みたい。
 ただ、ヒモウサギと結婚したからアイノは仕事は辞められなかったので、けっこうな歳まで城の魔法研究所で働いていた。それでも幸せそうだったから、まぁいっか。

「写真が残っていてよかった。記憶が鮮明に蘇るわ。でも、お墓の写真は必要ないかな~? 違うことも考えちゃう」
「いや、ほら? 形ある物はいつかなくにゃるから……千年後もあるか不安にゃろ?」

 このアルバムはわし用に作っていた物を焼き増ししたから、不要な物もそのままだったのでさっちゃんを不安にさせてしまった。なので、ビデオに残っている一番若い頃の白猫騎士団の面々を大画面テレビに映してあげた。

「そうそう。こんな声だった……いろんな所に行ったよね……」
「楽しかったよにゃ~」

 ソフィー、ドロテ、アイノの3人は、猫歴40年中程までに全員他界している。葬儀にはさっちゃんと一緒に、わしたち猫ファミリーで付き合いのあった者は立ち合った。
 ちなみに3人にもわしの秘密を語り、最後の言葉は「サンドリーヌ様を頼みます」と託されたのだ。

「んじゃ、また明日お昼寝しに来るにゃ~」
「うん。また明日……せめて会いに来ると言ってくれない?」

 わしが死ぬ前に好きだった言葉「また明日」と告げて立ち去ろうとしたけど、いらない言葉がくっついていたのでさっちゃんにツッコまれるのであった……


 それからもわしはでき得る限りさっちゃんの下へ足を運び、思い出話とお昼寝。話すのも辛くなる前には、アンジェリーヌから聞いたさっちゃんと親交のある人を訪ね、それとなく顔を見せるように促す。
 猫ファミリーの場合は個別で連れて行って、さっちゃんと思い出話をしていた。

「リータ……今までありがとう。シラタマちゃんのこと頼んだわね」
「はい。立派な猫にしてみせます」
「もう立派な猫にゃよ?」
「うん。猫にしか見えないわね」
「違います違います! 立派な王様の間違えなんですぅぅ~」

 リータの場合はガッチガチ。死の日時を言ってしまわないかと緊張していたのか、変なことばかり言ってた。

「メイバイ……今までありがとう。シラタマちゃんのこと頼んだわね」
「はいニャー。立派な猫にするニャー」
「立派に猫として育ってるにゃ~」
「ウフフ。リータと同じこと言ってるわよ」
「間違えたニャー! 人間ニャー!!」
「もう、手遅れにゃ……」
「王様! 王様ニャー!!」

 メイバイの場合は、シドロモドロ。いったいわしをどうしたいんじゃろう……

「イサベレ。長きに渡り、東の国を守ってくれて感謝する。その力で、シラタマちゃんのことも支えてくれ」
「はっ!」
「……もうちょっとにゃんかにゃい?」
「イサベレはイサベレのままね。ウフフ」
「さっちゃんが女王口調になるからにゃ~」
「あ……えっと……孫……玄孫やしゃごみたいでかわいかったです」
「「無理するにゃ~」」

 イサベレの場合は口数が少な過ぎ。わしが間に入ってペラペラ喋っちゃったよ。

「コリスちゃん……今までありがとうね。楽しかったわよ」
「ううん……私こそ名前をくれてありがとう。一生大事にする……」
「そうだにゃ……あ、わしは改名していいよにゃ?」
「ダメに決まってるでしょ」
「さっちゃんから貰ったのにヒドイ! 人でなし!!」
「人ではないんにゃけど……」
「コリスちゃん、シラタマちゃんが改名しようとしたら絶対止めてね。頼んだわよ」
「うん!!」

 コリスの場合は、死の日時は伝えていないのに野生の勘で気付いているのか今にも泣きそうなので、わしが時々介入。
 しれっとこの不名誉な名前を捨てようとしたら、2人に止められたので改名できそうにないな。百年後辺りにコリスに賄賂でも渡してもう一回試してみよっと。


 それからもわしは猫ファミリーの誰かをお供にして訪ねていたら秋となり、さっちゃんの抱き枕になってあげていた。

「シラタマちゃんって……」
「にゃ~?」
「私の死ぬ日、わかってるでしょ?」
「にゃんのこと?」
「だっておかしいわよ。ここ最近、私が会いたい人ばっかり会いに来てるのよ。私がわからないとでも思ってるの?」

 さっちゃんはまだ全てが見えていないのだから、わしはとぼけ通す。

「そんにゃ神様みたいにゃことはできないにゃ~。猫にしか見えないにゃろ?」
「そう……」

 やはりカマを掛けていただけ。わしの勝利だ。

「小説のアメリカ横断ってのあるじゃない? その巻でサンダーバードと戦ってるじゃない? どうやって見付けたの??」
「アレは確か……偶然じゃにゃかった? ちょっと小説確認するにゃ」
「そう、飛行機で飛んでる時に出くわしたことになってるの。でも、シラタマちゃんの日記にはシャーマンに聞いたとなってたわよね?」

 わしは小説の内容を忘れていたから確認しようとしたけど、さっちゃんが正解を告げたのだから冷や汗ダラダラだ。

「つまり、そのシャーマンの占いはなんでも当てられるから、シラタマちゃんは隠していたのよ。こんなこと知られたら、誰でも欲しがるでしょうね~? アンジェに言っちゃおっかな~??」

 さっちゃん、もう棺桶に両足が入っているのに、頭脳は明晰。いつの間にか女王の顔になっているので、ペトロニーヌの顔と重なってわしはプルプルだ。

「もしそれが真実にゃとして、誰が信じるにゃ~」
「フランは難しいけど、アンジェは信じるでしょうね。だってシラタマちゃん、めちゃくちゃだもの」
「にゃにとぞご内密に……お願いしにゃすっ!」

 それでもとぼけてみたけど無理っぽい。土下座するしかないわしであったとさ。
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