秘密の多い薬屋店主は勇者と恋仲にはなれません!

白縁あかね

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一章 勇者様の秘密

3話 イケメンだってギルティだよ!

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「はぁ……こちらが勇者様ですね?それではアフターケアを始めますので、一階で待機をお願いします。終わったらお知らせしますね」


 ヴァンさんの所業にため息がでる。


「治らなかったら、あんた達ただじゃおかないよ」


 捨て台詞を吐いて、御一行は部屋を出ていった。オレ悪くないのに……。アレが勇者様御一行だなんて、世も末だ。トーマの舌打ちはこのせいだな。


 とにかく治すか。顔に手を添えて患部を確認する。これはもうハイヒール案件だな……歯砕けてるし、よく見たら耳の先も欠けてるじゃん!やりすぎはヴァンさんじゃないか。オレの事言えないよ。


 ハイヒールポーションはオレ特製で、なポーションだ。要するに、千切れた先がなくても問題ない。僧侶が泣き喚く理由がここにある。どんなに優秀な僧侶にも、欠損部位までは再生できない。できるのは百年に一度生まれるかどうかの聖属性の使い手だけらしいが、今の所直せる人はいないのが現状だ。なので、ハイヒールポーションは表向きには販売せず、こっそり必要な時にだけ使っている。
 一般の僧侶が使う光属性の回復魔法は、繋げる事はできても、繋げる先が無ければ意味がない。このまま回復魔法を使っても、歯抜けの勇者ができあがるのだ。


 ハイヒールポーションの蓋を開けて、勇者らしき男の口に突っ込む。


「んぐ……」


「ポーションです。ゆっくりでいいので飲んでください」


 驚いた。こんな状態で意識があったのか。寝てると思っていきなり突っ込んじゃったよ。オレは慌てて怪しい物じゃないと声をかけた。
 男の顔が段々と縮んでくる。萎んでいく風船みたい……相当腫れあがってたなこれ。


「いい調子ですよ。はい、これでお終いです。体起こしますね」


 ポーションを全て飲ませて、口から瓶を抜く。男の上半身を起こして背中にクッションを差し入れた。


「これは……どうなって……」


「私特製のポーションです。状況が状況でしたので、断りもなしに飲ませてしまいました。申し訳ありません。はじめまして、勇者様。私は薬屋のアーシェ、冒険者ギルドからアフターケアの依頼を受けて来ました。ちょっと診せてくださいね。どこか痛む所はありませんか?」


 よしよし、ちゃんと喋れるようになったな。目もしっかりとオレを見てるし、問題なさそうだ。


 すっかり勇者然とした爽やかな面になったな。さっき迄のホラーが嘘の様だ。さらさら金髪に綺麗な碧眼。お世辞抜きに整った顔だ。こりゃモテるだろうよ。ヴァンさん、よくこの顔面を容赦なく殴れたな……。いかんいかん。見惚れてる場合ではないな。


 そっと顎を持ってちょいっと口を開けた後、ランタンの灯りでキラキラと輝く勇者の金髪を耳にかけた。よし、歯と耳も問題なさそう。
 パッと見でもわかる。たぶんコイツは強くなるぞ。魔力は多いし、体格にも恵まれている。


「あぁ……大丈夫。ありがとう、アーシェ……素敵な名前だね、アーシェ」


 おや?勇者様、なぜオレの両手を握るの?なぜそんな目でオレを見つめるの?なぜちょっと息が荒いの?
 段々と勇者の顔が近づいてくる。明らかなパーソナルスペースへの侵犯。なのに不思議と不快感は湧かない。って、いやいやいや!これはダメでは!?


「アーシェ……僕は」


「全快したようでよかったです!それでは!オレは!!これで失礼しますね!」


 『オレは』を強調して、勇者の手を振り払い、ポーションが入ったカゴを引っ掴む。すげー力が入ってたけど、オレに勝てる訳ないでしょ!
 逃げるように扉を開けて廊下に出た。


「あ!アーシェ!待って!」


「ではまた!明日も頑張ってくださいねー」


 バタンと扉を閉めて、急いで一階に降りる。
 ヤバいヤバいヤバい!勇者ロリコンだった!


 バーで葬式の様な雰囲気を醸し出している御一行に声をかける。


「勇者様がお目覚めになりました!お顔も綺麗に治しましたから、ご確認くださ……」
「アーシェ!待ってくれ!」


 ひぃぃ!追いかけてきた!?
 二階から勇者が叫びながら飛び降りる。裸足って!必死か!!


「カイル!無事でよかったわ!」

「あんた、大丈夫なのかい!?」

「うわぁぁん!良かったです勇者様ぁ!」


 そこに勇者様御一行のお姉様方が突撃していく。いいぞ!そのまま勇者を取り押さえるんだ!


「ご確認いただけましたね!?ではこれで失礼致します!何か不都合がありましたら冒険者ギルドへお願いしまーす!」


 オレは勇者を振り切り、宿屋を飛び出して店まで全力疾走した。


 イケメンだからって何でも許されると思うなよ!ロリコンは行動起こしたらギルティなんだからな!!




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