16 / 58
一章 勇者様の秘密
13話 勇者襲来
しおりを挟むーーーカンカンカン。カンカンカン。
んん…うるさい。
目を擦り重い上半身をのそりと起こす。ふと部屋を見渡すと、もう日が沈んで真っ暗になっていた。
部屋の照明用魔石に魔力を飛ばすと、部屋がふんわり明るくなる。
ドアノッカーを叩く音?こんな時間に訪ねて来るなんて、急患かな?ギルドにもポーションはストックしてるはずだけど、森から一番近いうちに直接来る冒険者も稀にいるからなぁ。とりあえず早く出ないと。寝て着崩れた服を軽く整えながら階段をおりる。
今思うとこれまた何でだったんだろうなーと不思議に思う。だって、いつもならあり得ないんだ。何の確認もなしに玄関を開けるなんて。まぁ開けてしまった今考えても意味はないんだけど……。
「アーシェ、急にごめんね。でも、どうしても君に謝りたくて……」
目の前に立つ、月明かりでキラキラ輝く金髪を眺めながらそんな事を考えているうちに、ふわっと爽やかな香りをたてながらその金髪がオレの目の前に落ちてくる。
「え、何を……?」
「いや……急に言われても困るよね、ごめん。昨日、その……僕の気持ちを君に押し付けてしまう様な行動をしてしまって、本当に申し訳ないと思ってるんだ。でも……」
何これ?勇者がオレに頭を下げている。
「ちょっ!まっ待ってください!オレは何も謝ってもらう様な事はありません。だから、勇者様もお気になさらないでください」
そう、オレが何のために昼間から今まで寝てたと思ってんだよ。忘れたいのよオレは!昨日は何もなかった!それで話は終わりだ。
そもそも今日は起きられない程度に殴りつけたはずなのに…… 頑丈か!
「それはできない。僕は今までこんな気持ちになった事がなくて、最初はワケもわからずただ君と離れたくない一心であんな無遠慮に触れてしまった。でも今は違う。」
勇者が顔を上げて、真剣な眼差しでオレを見つめる。いや……だからその目ダメだって。
「アーシェ、僕は君が好きだ。だから、君との全てをなかった事になんてできない。昨日は本当に申し訳なかった」
また勇者がオレに向かって頭を下げる。
えっと……結局オレが迫られたって感じたのは勘違いじゃなかったって事?それは……良かった。うん、でもその気持ちは受け入れられないんだ。オレは……
「こんな所で何してるにゃ?」
「えっ?」
「ケ……ケイト。おかえり」
頭を上げた勇者の横をすり抜け、オレの肩に飛び乗って来る。ケイトは真っ黒な体をオレの顔に擦り付け、チラリと勇者を見た。
「ふにゅ。これが噂の勇者かにゃ?ふーむ、とりあえずこんな所じゃにゃんだし、中に入れてあげれば?」
「えっ、で……でも」
「いや、その必要はないよ。僕が急に押し掛けて来たのに、お邪魔なんてできないから」
ピクっとケイトが耳を振るわせる。オレからぴょんと飛び降りると、部屋の中へと歩き出した。
「いいから入れにゃ。お前に訊きたい事ができたしね」
「訊きたい事?」
「じゃあ……とりあえずどうぞ。大したおもてなしはできませんけど……」
二人きりにされたらたまらない。急いでケイトに続いてリビングに向かうと、後ろからおずおずと勇者が付いてきた。
「ごめんね、お邪魔します」
「……どうぞ。お茶入れるから座っててください」
リビングの椅子を軽く引いて、続きにあるキッチンでお茶用にお湯を沸かす。
勇者が席に着くと、テーブルに飛び乗ったケイトがジッと勇者を見ていた。
「えっと、訊きたい事って……」
「ご主人様が戻ってきたら話すにゃ」
何やらオレも行かないと話しをする気がないらしい。
急いで沸いたお湯を茶葉の入ったポットに入れて、とりあえずカップ二つと一緒に持ってリビングに戻った。
「お茶はもう少し待ってくださいね。ケイト、話って?」
テーブルにティーセットを置いて、自分も勇者の前の席に着いた。
「ふにゅ。じゃあ単刀直入に訊くにゃ。お前、何者にゃ?」
ケイトは鋭く目を細め、勇者をジッと見つめながら口を開いた。
「えっと、何者って……?」
「とぼけても無駄にゃ。普通の人間ならにゃんでボクと話せるにゃ?契約者でもないのにおかしいにゃ」
そこでオレもやっと気づいた。そうだよ、むしろ何で今まで気付かなかったオレ!
普通、人間にはケイトがいくら喋ってもニャーニャー言ってるだけに聞こえるはずなんだ。それなのに勇者はケイトと会話している。どう考えてもおかしい。
オレは咄嗟にテーブルの下で身構えた。
「えっ?いや、僕はずっと普通の人間だと思って生きてきたんだけど……違うの?……ですか?」
「ふにゅ。まず人間かそうじゃないかと言われたらボクにもわからんにゃ。でも普通の人間じゃないのは間違いないにゃ。それが嘘じゃないにゃら自分が何者か知らないって事かにゃ?」
え、何それ。ちょっと勇者が不憫に思えてきた。
「うん……。僕は赤ん坊の頃におばあちゃんに拾われて育ててもらったから、自分の両親を知らないんだ。おばあちゃんも僕は降ってきたとしか言わなかったから。大雑把な人だったから、説明にもなってないよね……実際僕にもよくわからなかったんだ」
降ってきたって何?そんな事ある?木の上に放置されてたのが偶然おばあさんが通りがかった時に落ちたとか?
「ふーん。じゃあちょっと観てみるかにゃ?まず人間かどうか、それから軽いルーツくらいはわかるかもしれないにゃ」
「お、お願いします!」
「じゃあちょいと失礼して。もしかしたら気持ち悪くなるかもしれにゃいけど、リラックスして受け入れるにゃ。弾いたら観えないからにゃ」
ケイトは勇者の前に座ると、目を光らせて鑑定魔法をかけた。勇者の体がふんわりと光に包まれていく。
「にゃ!?んとまぁ……予想外にゃー」
途端にケイトは全身の毛をボワッと膨らませて、勇者をマジマジと見つめた。
24
あなたにおすすめの小説
冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない
北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。
ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。
四歳である今はまだ従者ではない。
死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった??
十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。
こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう!
そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!?
クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる