秘密の多い薬屋店主は勇者と恋仲にはなれません!

白縁あかね

文字の大きさ
22 / 58
三章 二人だけの秘密

19話 例の疑惑を確認してみた

しおりを挟む



 ーーーカンカンカン。カンカンカン。


 やっぱり来たか……。とてつもなく居留守を使いたいが、流石に約束を破るのは良くない。ぐぬぬ……。


「いらっしゃい、今日お店は休みですよ。どんなご用件でしょうか?」


 悪足掻きだって?大いに結構。素知らぬふりで、訪ねてきた勇者を出迎えた。


「アーシェ、昨日トムさんの演習が終了したんだ。だから、その……君の都合さえ合うのなら、今日一緒に過ごせたらと思って。どうかな?急に来ちゃったし、都合悪い?」


 ぐっ!そうじゃん!別に今日と約束した訳じゃなかったんだし、予定入れておけば良かったんじゃん!
 律儀にお店まで休みにしてやる事なかったんだ……。いやもうほんとどうしたの最近のオレ!
 そんな捨て犬みたいな目で見るなよ!断りづらいなぁもう!


「いえ……都合は別に、悪くはないですけど。特に何も考えていなかったので、どうしたものかと……」


「そっか!良かった。じゃあ……アーシェの事が知りたい。いつも休日は何をして過ごしてるの?」


「いつもですか?うーん、ポーションの素材を採りに行ったり、庭の手入れをしたり……って、こんな所でなんですから、中にどうぞ」


 一緒に過ごすのはもう諦めた。今日を逃れたとしても、どうせいつかはしなきゃいけないなら、すぐ終わらせてしまおう。それよりまず、オレは勇者に確認しておきたい事があった。


「ありがとう、お邪魔します」


 前と同じ様に席をすすめる。
 お茶を用意して、お互いの前に置くと、対面で椅子に座った。


「えっと、色々話す前に、勇者様に確認したい事があるんですけど……。その、オレはこんななりしてますけど、実は成人しててですね、十八歳なんです。」


「そうなんだね。僕と同じだ。ふふ、何だか嬉しいね。」


 何が嬉しいんだ。それより年齢に対して特に反応なし?うーん……お前ロリコンじゃないの?


「あ、もしかして勘違いしてるのかな……。オレ、男なんですけど」


「ん?うん、そうだね?」


 性別も反応なし……ショタコンでもないと?
 もしかして見た目幼ければ年齢性別はどうでもいいとか?


「あー。見てもらった方が早いですね。勇者様には特に効果がないみたいなので見せますけど、他の人には黙っててくださいね?」


 年齢相応に体を成長させる。見た目も変えられるけど、オレは年齢操作しかしていない。本当に便利だよな、思念体。


 オレが子どもの見た目をしている理由はズバリ、人と深く関わりを持たないためだ。
 子どもなら可愛いがられて終わりだが、大人は、その……性的な対象として見られる事がある……。
 男が多い冒険者相手の商売だから問題ないと思っていたが、たまにいるんだよね……しつこく口説いて来る変態が。それがめんどくさくなって、見た目の年齢を下げている。


 勇者には意味がなかったので、バレても問題ない。むしろ、あの容姿でないとダメなら勇者とのこんな関係は終わるだろう。もしかしたら諦めてくれるかもしれない。だから一緒に過ごすだのなんだのの前に確かめておきたかった。
 流石の勇者もびっくりしたみたいで、パチクリと目を開いている。


「アーシェ、その姿は……」


「オレの本当の姿です。騙して申し訳ないとは思いますが、お気に召さなければ今日はお帰りいただいても……」
「綺麗だ……」


 ……は?はぁ!?
 い、今何て言った!?はーっ!?
 言われ慣れない台詞に顔が熱くなる。オレは今とんでもなく間抜けな顔をしているかもしれない。


「あっ、ごめん……つい。あまりにも綺麗だったから。あれ、また言った?」


 こっいっつっ……!わざとか!わざとなんかお前!
 そういえばコイツ、タラシ野郎だったな。いつもそんな調子で女どもをタラシ倒してんだろ。ふんっ、オレには関係ないけどな!どこでタラそうがどうでもいいんだからな!!


「ケホンッ。いえ、大丈夫です。言われ慣れない言葉だったもので、驚いただけですから。それより、本当は十八歳で年相応な見た目の男ですが……」


「あぁ、他の人には秘密なんだよね。教えてくれてありがとう。絶対に言わないよ。どんな見た目でも君は素敵だけど、成長した君は、なんて言うかその……とても魅力的だから、僕も秘密にしておきたいしね」


 どんな見た目でも、す、すて……すてーき、だと!?よくそんな小っ恥ずかしい事をしれっと言うな!?
 いや、そこじゃなくて。どんな見た目でも良いって事?何それ、見せ損じゃないか。諦めてくれるかと思って見せたのに逆効果?
 むしろ見せたせいでこっちがダメージ受けたわ!


「そ、そうですか。そうしていただけると助かります」


「うん、約束するよ」


 何故か勇者がモジモジしている。色々言われて困ってるのはオレの方なんですけど。


「あの、何か?」


「あっ、うん!その……僕には秘密じゃなくなったんだし、二人きりの時だけでもその姿でいてほしいなって思って」


 えっ。今日以降二人きりなんて状況ありませんけど?


「別に構いませんよ」


 だってそんな日はもう来ないからな。


「っ!ありがとう!ふふ、嬉しいな」


「いえ、そんな大した事じゃないですし……。それに、すれ違う程度の間とか、すぐ近くに人がいたりする所では戻しませんよ?」


 何がそんなに嬉しいんだか……。めちゃくちゃ笑顔じゃん。イケメンが爆発したらすごい破壊力なんだな。


「わかった。その方が二人だけの秘密って感じでワクワクするね」


 いやーっ!更に笑顔ーっ!!眩しすぎて直視できませんわ!
 少し緩くなったお茶をすすって、再び熱くなってきた顔を誤魔化す。
 別に昔からオレを知ってる人は知ってる事だし、二人だけの秘密なんて大袈裟なんだよ。
 だいたい、そんな機会はもうないんだからな!!




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...