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三章 二人だけの秘密
21話 妄想は真顔でするタイプ sideカイル
しおりを挟むあー!めちゃくちゃ可愛かった!!
僕自身にあんな欲求があった事にも驚いたけど、そんな事を考えてる余裕もない程に可愛かった……。
目を閉じて、長い睫毛を振るわせながらキスを待つあの表情……よく軽く重ねるだけで耐えたと褒めてほしいくらいだ。
いや……結局その後からは全く我慢なんてできなかったよね。
だって可愛いが過ぎたでしょ。口を塞ぐと鼻で息をする事すら知らない無垢なアーシェ……。きっと初めてだったんだろうな。あ、ダメだ。思い出しただけで涎が……。
僕も初めてだったんだけどね。知識だけはそこそこにあった。
情報源は住んでた村の男の人達。夜に酒場に行くと色々教えてくれた。成人は十八歳だけど、飲酒は十六歳から合法だ。女性はこうすると喜ぶとか、どこが気持ちいいと思うだとか、結構生々しい話は夜の酒場でしか聞けなかった。あの時は深く考えずに、ただの知識欲で聞いていただけだけど、聞いておいて良かったよね。
男同士でも愛し合う事ができると教えてくれたお姉さんの様なお兄さんに、実践で試してみないかと誘われたけど、そこまでしてもらうのも悪いし断った。
今思うと、アーシェ以外にそんな事できる自信がない。
教えられれば行為自体はできても、気持ちは全く動かなかったと思う。
アーシェも少しは心動いてくれただろうか。
あの反応からして、アーシェも僕を……好き、までじゃなくても、少なくとも好意は抱いてくれていると思う。だからこそ僕を拒めなかったんじゃないかな。
アーシェは気づいてたのかな?言葉の端々で僕を求めていた事に。そこに付け入ったのだから、最低なのは僕の方だよね。
きっとアーシェにはまだまだ僕に言えない事があるんだと思う。無理に聞き出す気はないから黙ってるけど、色々気になるよね?
何で急に成長する?何でアーシェもケイトさんと話せる?何であんなに強いの?
成人の姿が本来の姿って言ってたから、急に成長と言うか、普段は若返っているって事かな。何でそんな事できるんだろうね?
ケイトさんの事も、きっと契約ってやつをしてるからかな。でもなんで契約したんだろうね?そもそもケイトさんって何だろう。
こんな土地柄だし、街の人達みんな強いけど、アーシェは別格に強い。
色々予想はできても答えには辿りつかない。
いつか教えてくれると嬉しいな。
僕の好き……と言うより、人からの好意を受け入れない様にしている、のかな。街の人達とはとても仲良さげに見えたけど、あの人達はどこまでアーシェの事を知っているんだろうか。
あえて親し気にする事で相手を寄せ付けない様にも見えるし、本当に信頼して仲良くしている様にも見える。
実際、人によって使い分けているんだろうな。
僕といるときは何も気にせずアーシェの好きな様に過ごしてほしいけど、これまでずっとしてきた事を変えるのは難しいのかもしれないね。
「……かしいと思わないかい?カイル」
「えっ。ごめん、何かな?」
急に話を振られて視線を上げる。
時間は夕食後。僕の部屋はみんなが持ってきたランタンが煌々と輝き、とても明るくなっている。
部屋には椅子が一つしかない為、当然僕は壁にもたれて立ち、女性三人には座ってもらっている。マーサが椅子、他の二人がベッドの縁に腰掛けていた。
「聞いてなかったのかい?この街の連中の事さ。おかしいと思わないかい?」
「何が?」
「何がって……今までの街なら、勇者が来たとなったら街を挙げてのお祝いムードで、毎晩ドンチャン騒ぎだったじゃないさ!なのにこの街ときたら、待ってただ何だと言うわりに、全然嬉しそうにもしやしない!」
リサが興奮気味に叫び、他の二人はうんうんと頷いている。
どうしても話しておきたい事があるって言うから部屋に入れたのに、何を言ってるんだろうね?意味がわからない。
そもそもお祝いしてくれるのは街の好意であって、こちらが強制するものじゃない。それに、今まではそれぞれの街で困っている魔物を退治したお礼だったりしたからだろう。
でも、この街に来てから僕達は何をした?何もしてない。むしろ教えてもらっている立場だろう。
それで何で祝ってもらえると思うんだ。
「いや……この街の人達からしたら、むしろ残念だったと思って当然だと思うよ?だってやっと来たと思ったら自分より弱かったんだし……」
「何をおっしゃいます!勇者様は勇者様の価値をわかっていらっしゃらないのですか!?貴方様はこの世でたった一人の勇者様……尊きお方なのですよ!居てくださるだけでもありがたい事なのです!なのにこんなっ……」
今度はエマが食い気味に叫ぶ。
ますます意味がわからない。
勇者の選別方法聞いてないの?ただ戦って勝ち残っただけだ。この街の人が一人でも参加していれば、僕は勇者でも何でもなかっただろう。
尊いって言われる様な選ばれ方はしていない。
「エマ、気持ちはわかるけど落ち着きなさい。カイル、期待に添えなかった事は理解できるけれど、少し接し方に敵意を感じるのが気にならない?」
「ふん!どいつもこいつも、強いかもしれないけど結局は魔王には立ち向かわない腰抜け達じゃないか。なのにあの態度は何なんだい!」
マーサの言う事はわかる。初めて模擬戦をした時の子ども達とトーマさんの態度は露骨だった。あの時は僕個人が嫌われてしまったのかと思ったけど、どうやら街全体が歓迎ムードではないらしい。でもやっぱりリサは言い過ぎだと思う。
「……やっぱりおかしいと思いませんか?これだけの人数が力を持ちながら、何故防戦一方なんです?話を聞く限り、これまでに魔王城へ攻め入った事もない様ですし。それに私、ずっと気になっている事があるんです……。あの薬屋さん……」
「……何が気になるの?」
自分でも思った以上に冷たい声が出た。
エマがビクッと肩を跳ねさせる。
「ひっ……だって、どう考えてもおかしいんです!あの方がここへいらっしゃった時、正直言って、勇者様は手の施しようのない状態でした!傷は塞がっても、無くなったものが元に戻るなんて、聖女の力を持ってしても不可能だったはずなんです!なのにあんな短時間で……一人で治療するなんて……。もしかして……この街は既に魔王の配下に……」
ダンッ!!!
穴を開ける訳にいかないから、咄嗟に手加減はしたけど、壁が少し凹んでしまった。
僕はきっと今までにした事もない表情になっていると思う。下を向いて彼女達には見えない様にしているけど、握りしめた手が壁にめり込んでいる光景は、僕の感情を理解するには充分だったのだろう。誰も声を出そうとしない。
ふぅと一息吐き、表情をいつも通りに戻す。うまく笑えているだろうか。
「ごめんね?虫がいたから……僕、虫が苦手でさ。手を洗ってそのままシャワーも浴びたいから、今日は解散しない?じゃ、また明日」
返事を聞かないまま、添え付けのシャワー室へ向い扉を閉める。
はっ、街の人達はみんな魔王を倒してほしいって言ってるじゃないか。それに、わざわざ僕達を鍛える意味もわからなくなる。
エマの意見は一切の根拠もなく、聞くに値しない。アーシェを貶すなんて……絶対に許さないよ。
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