絵のない怖い絵本1

aoi

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「秋の音」

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僕んちはすごく田舎にあるから
今日みたいな
穏やかな夕方からは
もう、うるさいくらいの
大合唱が周囲の草むらから聞こえてくる。

僕はこの虫たちの声が好きだけど
おかあさんは嫌いなんだって。

それで、家からすぐの畑の方に一人で聞きに行くんだ。

先週いつものように夕方ちょっと出かけたら
なんだかいつもとちょっと違う気がしたよ。

目をつむって、
よく聞いていると
虫たちの声に交じって鈴の音が
ちりん、ちりん、シャンシャン
と聞こえた気がしたんだ。

だから、もっとしっかり聞きたくて
体をぎゅっとして、自分が石になったみたいに
じっとして耳をすましていたら、
聞こえて来たんだ。
鈴の音と一緒に唄が、

…ああ、秋の唄を歌っているのは ばあちゃんだ。
あの頃、ばあちゃんは僕をおぶって
散歩をしながら、秋の唄を歌っていた。

では、あの鈴の音は、杖の先に付いていた鈴の音か。
出征前にじいちゃんがばあちゃんにプレゼントしたという
簪飾りについていたらしい。

ああ、だから、おかあさんはこの音を聞きたくないんだ
悲しくなって
切なくなって
涙がこぼれてしまうから。

でも、僕は嫌いじゃないよ。
懐かしい
温かい気持ちになるから。

それから毎日聞きたくて夕方散歩に出かけたけれど、
今日は聞こえない。
ばあちゃん、また 遊びにきてね。

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