【R18】酔った勢いでしでかした拗らせ騎士の二人

天野 チサ

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そしてこうなる

やっぱり最後も飲んで締める1

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「さぁて……飲みなおすか!」

 ドン! ドン! ドーン! と、テーブルの上へ棚の奥に隠していたグラスとワインを豪快に並べた。当然、取り出したのは可愛らしいオシャレグラスなどではなく、取っ手の付いたいかついグラスが二つ。大きさはジョッキの半分ほどで、部屋でこっそり一人飲みをするにはこのサイズがなんとも最適なのだ。
 仕事に忙殺されて帰った時には、このグラスで酒を呷り一人で酔いつぶれて朝を迎えることも多々。隊での飲み会では潰れぬように気を配っているメリッサだが、それでもまごうことなき第二部隊の一員。入団以降、他の面々に劣らずお酒は大好きなのだ。
 そしてグラスの隣にそそり立つワインは、先日見つけて楽しみにとっておいたもの。飲みなおして気分を変えるにはピッタリのチョイスだろう。

「いい加減、顔を上げろよオリバー」

 ドボドボとワインを注ぎ、対面で項垂れるオリバーに差し出した。

「で、オリバーは何しに来たんだ?」

 改めてもう一度聞けば、ゴンッと鈍い音がした。目の前にはテーブルに額から突っ込んだオリバーの後頭部が見える。本当になにをしているんだろうか。そう思ったら同じことをオリバーも呟いていた。

「……いっそひと思いに飲ませてくれ」
「よくわからんが、はい、カンパーイ!」

 テーブルの下から伸びて来た手がグラスを掴むのを見て、メリッサは自分のグラスをぶつけた。そのままワインを呷れば、たまらないほど芳醇な香りが鼻から抜ける。期待以上の逸品に、これは買いだめておかねば……! と、メリッサは小さくガッツポーズをした。

「……美味い……」
「だろう!? 遠慮なく飲むといい!」

 普段は鋭い目をぱちくりと大きく瞬かせて、オリバーも呟いた。それが嬉しくて更に注げば、グイッと気持ちが良い飲みっぷりを披露してくれる。

「いいなあ。オリバーと飲むのは楽しくていい」

 先ほどの散々たる飲みと比べれば天国だ。
 思ったままをつい口に出せば、ピタリとオリバーの動きが止まった。かと思えば、ため息を吐いて口を開く。

「……訓練場での話を聞いた」
「ああ、今日のやつか」
「あの男、だいぶやらかしたらしいな」
「そうだな。私も何も言っていなかったとはいえ……あれは焦った。なかなか大変だったんだぞ」

 隊員たちが怒る気持ちもわかるが、バージルが勘違いをしているのは自分のせいだし、かといってあの場で全て明かしたらバージルが恥をかいてしまうし……等々、なんとか穏便に済ませられないかと、内心冷や汗がダラッダラだった。
 だが先ほどの許しがたき発言を思い出せば、そんな庇い立ては不要だったと、再び怒りの導火線に火が付く直前でハッと頭を振る。

「まあ、それでいて本人は気付きもせず悠々としていたのだから、相変わらずの図太さには懐かしささえ覚えた。騎士としては使えないけどな」
「ダレル隊長を貶されたとたんに酷い言い様だな」
「当然だろう」
「と、言うんだろうな。で、お前はそんな男と、騎士だという理由だけで付き合っていたのか?」
「ああー……あれな。そうなんだよなー」
「そうなのか」

 呆れたようなオリバーの視線が突き刺さる。
 バージルに対して、怒りに任せて全て吐き出してしまったわけだが──おおむね……いや全て事実なのでもはや隠すこともないだろう。

「私の故郷はとても田舎なんだが……やたらと魔獣が出没する森が近くにあってな。ある程度なら村で始末してたものの、たまにとんでもないクラスの魔獣が現れるときがあって──」
「いや、待て待て、頻繁に魔獣が出る村!? しかもそれを村で始末できてた!?」

 信じられないといった顔でオリバーが被せてくるが、わかる。メリッサにもその気持ちはとてもわかる。
 例え低レベルの魔獣だとしても、通常はそこらの村人で相手になるものではない。野生動物とは違うのだ。 

「それが普通だと思ってたんだ。私も騎士団に入ってビックリした。凄いよな、私の村」
「凄いよな。で片づけられる話かよ」
「ともかく、そんな村の人間でも手が出ないような魔獣が現れたときは、騎士団がやってくるんだ」

 ふと瞼を閉じれば、今でも鮮明に思い出せる。
 格好いい団服に身を包んだ、頼もしい背中の騎士たちが。

「私たちでは歯が立たなかった魔獣を、瞬く間にボッコボコに退治してくれる騎士団は憧れだった。もう騎士団がやって来た日は村中総出でお祭り騒ぎだ」

 血沸き肉躍る大乱闘が目の前で繰り広げられる。そんな光景に老若男女が拳を突き上げて喝采を送った。そんな村がメリッサの故郷だった。
 ここまで聞いて、オリバーがハッとしたように目を剥く。ゴクリと唾を呑む音まで聞こえた。

「お前……あの村の出身だったのか……」
「そうだ……あの村なんだ」

 入団してから知ったのだが、メリッサの故郷は騎士団内では有名だったらしい。
 考えてみれば、それはそうだろう。魔獣に怯えているはずの村人が、戦う騎士団を見にわざわざ出てきて拍手喝采のうえに狂喜乱舞。客観的に見て、ヤバい村だ。
 普通は魔獣が退治されるまで誰も家から出てこず、震えているか泣きわめいているものなのだ。と入団してから知ったメリッサは、密かに大きな衝撃を受けたものだ。

「そんな村だったものだから、人一倍騎士に対する憧れが強いんだろうな。村を出て、騎士団が常駐する街で働き始めたところでバージルに出会って、口説かれて騎士だったからオッケーした」
「……軽すぎだろう!?」
「騎士ならいいかと」
「……軽いにもほどがあるだろう!」
「今思えば好きも嫌いもなかったような気がするが……一緒にいてそこまで苦痛ではなかったからな」
「決め手が『騎士である』一択すぎる」
「まあまあ。その一択すらもなくなる訳だよ」

 付き合ってそこそこ経った頃に、街の外に魔獣が出たのだ。避難指示が出る中、村時代の名残でメリッサは胸を高鳴らせて魔獣討伐を野次馬しに行った。ちなみに、一緒に行かないかと声をかけた知り合いが半泣きで断ってきたのを、このときはまだ「なぜだもったいない」と首を傾げていたものだ。
 そうやってワクワクと騎士団の戦闘を見守っていたメリッサだが、しばらくもしないうちに頭の上には疑問符が浮かぶ。

 ──もしかしなくとも、バージル、弱くないか……?

 その一点に気が取られて魔獣討伐どころではない。
 普段自信満々で散々騎士であることを自慢……もとい誇っていたバージルは、当然強いのだろうと思っていた。だか実際に戦う姿を見てみれば、どうしたことか。

 ──控えめに言って、村の男の方が強いのでは……?

 村にいた頃、隣家の爽やかなお兄さんが、小型の魔獣程度の首なら斧を振り回して刈っていた姿がふと思い出された。あのお兄さんの前に立てばバージルの首も刈られてしまいそうだし、なにより簡単に想像できてしまった。

「──というわけで、騎士団に入ったんだ」
「……どういうわけだ!?」

 ふう。と綺麗に締めたつもりだったのに激しいツッコミが入る。
 目の前には、テーブルに着いていた肘をズルッと大きく外したオリバーがいた。

「いや、だから、バージル程度でも騎士になれるのなら私でもいけると思ったんだ。実際いけた」
「新人訓練のときの、謎のポテンシャルの高さがようやくわかった……村人全員の基礎能力が高すぎるのか……」

 メリッサは魔獣の一件以来付き合い自体どうでもよくなってきていた。つまり冷めてしまったところでバージルから別れ話があったのだ。なかなか一方的な別れを突きつけられたのだが、メリッサも落ち込むどころか、ちょうどいいとばかりに入団試験を受けるに至る。

「でもそのせいで『バージルを追いかけて騎士にまでなった』と、勘違いをさせてしまったけどな」

 しかしそれも、先ほどキッパリスッパリ正したので、もう心配はないだろう。次に会ったときはひと悶着ありそうな気もするが、そのときはそのときだ。
 景気づけとばかりにグラスをぐいっと呷る。

「お前はもっと男を見る目を養え。騎士だからで即決するな」
「ははっ、もう大丈夫だ。私自身が騎士になったのだからな」

 ドンと胸を張ったらかぶりを振られた。

「そうだけど、いや、そうでなくて……」
「オリバーは──」

 こめかみを抑えるオリバーこそ、と言いかけたところで……中庭での光景が思い起こされる。連なって昼間の激情が、再び沸々と湧き上がってきた。

「いやオリバーこそ、人のことをとやかく言えないだろう!」

 叩きつけるようにグラスをテーブルに置いて、ジロリとねめつける。突然怒りをあらわにしたメリッサに、オリバーが目を丸くした。

「たいしたことねえぜ。みたいにスカしてたくせに、なんだあれは。誰だ。お前は誰だ!」
「なんのことだよ!?」
「セシリア王女だよおおっ!」

 鼻先に指を押し付けるどころか、グリグリと鼻を押し潰しながらメリッサは詰め寄った。

「今日の昼間はなんとも幸せそうな顔してたじゃないか。なんだあの顔は。私は見たことないぞ。なんだあの顔は!」
「二度も言うか!? なんだとはなんだ」
「セシリア王女の前でずいぶんと締まりのない顔してたぞ。護衛任務を命じられて平然としていたくせに、やっぱり本当は嬉しくてオリバーもベットの上をゴロンゴロン転げ回ったんだろう!」
「お前は転げ回ったのか!?」
「当然だ!」

 そこでグイッとグラスの残りを飲み干す。ターン! と机に叩きつけたグラスを見届けたオリバーが、ドボドボとまたワインを並々と注いでくれた。もったいない飲み方ではあるが、メリッサはこうやって思いっきり煽る方が好きだし、オリバーも同じくだ。こういうところも本当に気が合う。
 くっそ、腹立たしいが本当に──

「ああー……、好き」
「はいはい。ダレル隊長がな」
「ん? …………ああ」

 メリッサと同じくワインを煽ったオリバーのグラスに、お返しを並々と注ぐ。

 ──ちょっと待て。私は今、オリバーが好きだと言ったか? 言ったのか? 言ったよな!?

 何食わぬ顔をしつつも、内情それどころではなかった。
 ワインボトルがガタガタと震えそうになるのを抑えるために全神経を総動員させたし、ぶわわわっと背中に浮かんだ冷や汗は滝のように流れる。

「そうだその今日の中庭? も、あいつと見てたとかどういうことだ」
「え? あ、た、たまたまだ。たまたまバージルと出くわして……いや、先にのぞき見てたのはあいつだからな!?」
「もう、本当に……なんなんだお前の元彼は!」

 ヒートアップしていくオリバーを横目にメリッサはそれどころではなかった。正直ちょっと待ってほしい。整理をさせてほしい。尋常ではない冷や汗でシャツがびしょ濡れになりそうだ。というかすでになっている。脇汗が気になる。
 一旦落ち着こうと、昔話で早々に空いてしまった一本目の空瓶をよけて、二本目のワインボトルのコルクを開けた。

 ──いや、だが、よくよく考えれば思い当たる節が……あるぞ。完全に性欲が爆発してるもんだと思ってたけど!

 バージルによりを戻してやる。と言われたときも、確かにその辺がひっかかった気がするが、後半の怒りでほぼ吹っ飛んだので忘れていた。しかし思い返してみれば、そもそもダレル隊長との関係なんてオリバーにも誤解されていたし、現に言われた。正確には同じようなことを言われかけた。しかし、バージルのときのように斬り捨ててやりたいほどの敵意は湧かなかった。まあ、殴りはしたけれども。

 とにかく、そのときから下地はあったのかもしれない。
 バージルはダレル隊長への偏見以上に、メリッサを見下していたのだ。身体を使って騎士団に居座るしかできない奴だと思っていたのだろうし、それしか能のない者と侮っての発言だろう。
 対して、オリバーがメリッサ自身の強さを認めてくれているのは肌で感じているし、ダレル隊長との誤解もバージルと違って恋愛関係と思っての誤解だろう。そう思えるだけの信頼がオリバーとはある。

 ──あ、でも自覚したからってどうしようもない!?

 オリバーが好きなのはセシリア王女じゃん! と、自覚して腑に落ちたところで、現実に引き戻され机に突っ伏した。

「でもオリバーの性癖理解してやれるのは私くらいなもんだぞ!?」

 突っ伏した瞬間持ち直したメリッサが顔を上げて叫べば、目の前の顔に青筋が浮かんだ。

「俺の話を聞いていたか?」
「え? ああ、悪い。中庭がどうの以降は聞いていなかった」
「お前……っ、お前! いい加減にしろよ!? こっちこそなあっ、その異常な信仰理解してやれるのは俺くらいなもんだぞ!?」
「そんなことは知っている! オリバー以外に言えるわけがない!」
「だったら、なんであんなクソにもほどがある男にフラフラ付いて行くんだお前は! 俺がどんなに、どんなに──」

 怒りで震えるように身悶えるオリバーが、ドンドンと拳をテーブルに叩きつける。「もおおおお」と唸るような声まで聞こえる。これはおそらく酔いが回っている。こんなによく喋るオリバーはそれ以外にあり得ない。ちょっと注ぎ過ぎたと反省したいところだが──いやしかし、それよりも。

「え、なんだオリバー……もしかして心配してくれたのか?」
「そりゃあするだろう!」

 何それ嬉しい。と、オリバーが酔っているのなら当然同じであるメリッサが、ときめきと共に空いたグラスに二本目のワインをこれでもかと注いでやったら、勢いよく飲み干された。見事な飲みっぷりに拍手を送ってから、ならばともう一度注ぐ。
 だがここでハッと思い出す。

「いや、待て、そんな情けも同情もやめてくれ! オリバーが好きなのはセシリア王女だろ!?」
「そこにやけに突っかかるな」
「だって玉の輿って噂になってるって……」
「任務で護衛してただけだろ!? そんな噂信じるなよ」
「何言ってんだよ間近で見ただろうあの、清楚で透明感で儚さとおしとやかの──とにかくオリバーの性癖詰め込んだ夢の化身を!」
「そんなことはわかっている! あれは、あれは──死ぬかと思った……」

 うっ。と心臓をわし掴むオリバーを見て「ほらあー」とメリッサは両手を広げる。

「まさに理想の塊がそこにはいた。だが違うんだ、それはそれ、これはこれで……」
「煮え切らないな。オリバーの性癖ど真ん中ぶち抜いてるじゃないか」
「それはわかってるんだよ。まさに至高の存在がこの世にいた……いた、いたけども……」
「ハッキリしない男だな! あれほどの理想の権化にまだ文句があるとでも!?」
「勃たねぇんだよっ!」

 オリバーの叫びがやけに室内に反響した。「だよー……だよー……」とメリッサの脳内をこだまする。

「……それはまた。ご愁傷様です?」

 すっと視線を目の前の下半身に落として呟けば、血走った目で違うと叫ばれた。

「昨日の今日で不能になってしまったのかと──」
「なってない!」

 思ったまま告げたら怒りの形相で声を荒げられたので、どうやら昨日の激しさで精根使い果たしたわけではないらしい。それは良かったと安堵する。

「でもセシリア王女に反応しなかったのか? それ男として終わってるな」
「護衛中におっ勃たせてる方が終わってるだろ」
「それこそクソにもほどがあるな!」
「確実に処される」

 ドッと笑いが起きたが、次の瞬間いやいやそうじゃないと揃って頭を振った。さらにグイッとワインを呷って項垂れたオリバーが呟く。

「メリッサにしか勃たない」

 頭を抱えた背中には哀愁が見えた。
 ──なにも、この世の終わりのように言わなくともよくないか。
 ジト目でその背を見つめていれば、メリッサの思いが伝わったのか否かオリバーが胸の内を吐き出した。

「気付いたときはさすがに、嘘だろ。と呟かずにはいられなかった。なんてったって思い描いた通りのお方が目の前にいるというのに、可愛い……で俺の感情が止まったんだ。それ以降うんともすんともしなかったのに、メリッサを前にしたらガンガン勃つ」
「直球!」
「俺の身体がメリッサにしか反応しない!」
「直っ球!!」

 しかし人のことは言えないメリッサだ。
 オリバーの手からグラスを取り上げて机に置くと、項垂れていたオリバーが顔を上げた。黒い瞳は酔いで赤く血走っているが、訝しそうにジッとメリッサを見つめてくる。クイッと指で示せば素直に立ち上がったオリバーの背を押して促し、ベッドの前で膝裏をトンと蹴った。

「は──っ!?」

 大きな身体は膝からカクンと折れ曲がり、見事ベッドにダイブする。宿舎の安いベッドが図体のでかいオリバーに悲鳴をあげた。

「素直に突き飛ばされるとは、だいぶ酔っているな」

 反論される前に言えば、案の定オリバーは言葉を詰まらせた。身体を起こそうと相手が仰向けになったところで、そうはさせるかとメリッサもベッドに乗り上げて、膝から上をベッドに乗せたオリバーの腹に跨った。

「しかし安心するがいい。私も酔っている」
「見ればわかる」
「そして私も──オリバーにしか反応しない!」

 両手を腰に添え、ことさら胸を張ってメリッサは言い切った。
 現在絶賛性欲爆発中のメリッサだが、バージルに「よりを戻してやってもいい」と言われたときの鳥肌総立ちの嫌悪感を思えばもはや確定だ。
 この感情はオリバー限定であると。
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