【R18】なんと夫には妻の心の声が筒抜けだったらしい

天野 チサ

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10 初デートです1

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 到着したカフェは人気店というのも頷ける、雰囲気のいい店であった。

 店の外には持ち帰り用のスイーツ売り場、そして店内のショーケースには焼き菓子以外にも色とりどりのケーキが並んでいて目移りしてしまう。
 内装は男性も入りやすい落ち着いたシックな色合いで、恋人同士や夫婦と思われる男女が半分を占めていた。
 ハンスがフレデリクとのデートに勧めてくれたのも納得のカフェである。

「はあー……素敵なお店ね」
「そうだな」

 あれもこれも気になって周囲を見回すルイーザとは対照的に、淡々とした様子でフレデリクは案内された席に腰を下ろした。
 
「好きなものを頼むといい」
「フレデリクはどんなスイーツが好きなの?」
「俺はどれでも。君の食べたいものを選んでくれ」

 なんだか投げやりのようにも聞こえる。だが、ここで挫けてはいけないと心を奮い立たせる。
 店員さんを呼びおすすめを聞けば、新作のチョコレートケーキと果物をふんだんに使ったフルーツタルトを一押しされたので、ひとつずつ注文した。
 このやり取りの間も、先にサーブされた紅茶をいただいている間も、フレデリクは難しい顔をしているだけだった。

 向かいに座って夫となったフレデリクの姿を見ているだけでもルイーザは満足なのだが、周囲のカップルが楽しそうに会話を交わしている中これでは少々寂しい。

 せめて普通に会話くらいはしたいと思ったところで、頼みたかったことがあったのだと思い出した。

「そうだわ。あのね、ひとつお願いがあるの」

 切り出したら、なぜかフレデリクの顔が警戒したように険しくなった。

「……なんだ?」

 出てきた声も固い。
 一体どんな無理難題をふっかけると思われているのだろうか。それほど難しい話ではないはずだ。ないはずなのだ……が、とルイーザまで緊張してきた。

「あの、お庭の隅でかまわないのだけれど、少し薬草を植えたくて」

 今は調薬師の試験を受けなくとも、いずれ機会をもらえるなら挑戦したい。そのためにも薬草には触れていたいし、どちらにせよあって困るものではないのだ。
 ただ、イクソン伯爵家として庭にこだわりがあるなら悪いので、ちゃんとお伺いを立てておきたい。

「どうかしら?」

 ルイーザとしてはその程度の気持ちだったのだが。
 フレデリクの顔が、みるみると苦渋に満ちたような苦い顔となった。

「ああ……構わない」
「え、本当に?」

 てっきり反対されるのかと思いきや、絞り出すような声で了承された。どう見ても顔と言葉が合っていない。
 やはり伯爵家へ嫁いでおきながら働きたい、しかも宮廷でバリバリとなんて快く思われないのだろうか。

「あの、別に無理にとは言わないわ。ダメならばそれで――」
「そんなことはない!」

 引こうとしたら予想外にも慌てたように強く言葉をかぶせられて、ルイーザは目を瞬かせた。

「…………そ、そう?」
「欲しい薬草があれば遠慮なく言ってくれ。すべて揃えよう」
「すべて!? いいの!?」
「もちろんだ」

 渋々の了承かと思いきや破格の対応。ならばあの苦渋の決断を下すような顏はなんなのか。
 フレデリクの情緒がおかしい気がする。
 とはいえ、植えていいならば欲しい薬草はたくさんあった。あれもこれもと思い浮かべては、つい顔が緩んだ。

「ふふっ、嬉しい。ありがとう」
「ぐっ――……」

 浮かれた気持ちのまま口にしたら、何故かなにかを堪えるような声とともにフレデリクがきつく唇を噛んでいた。
 噛み切りそうな勢いに心配になる。
 声をかけようか悩んだところでタイミングよくケーキが運ばれてきた。
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