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15 夫が大変なことになっていた2
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「結婚するならフレッドがいいと思っていた。あなたじゃないと嫌だった。調薬師はその望みが叶わない代案。薬草をいじるのは好きだから、今は許してくれるなら追々挑戦してみたいな、とは思っているけど」
フレデリクの拳に重ねた手に力を込める。
「式でハンスに助けを求めたのは、あなたが本当に素敵だったからよ」
「…………」
「私ひとりで抱えきれないくらい、あなたが素敵に見えたからよ」
真っすぐとアンバーの瞳を見つめるルイーザを、フレデリクこそその真意を探るように覗き込んでいる。
「私はずっとフレッドのことが好きだった!」
(ずぅっと大好きなのおおおぉぉぉっっ!!)
ボッと火が付きそうなくらい、フレデリクの顔が真っ赤に燃え上がった。
「こ、心も同じことを言っている……」
どころか、言葉以上である自覚もある。
「当然でしょう! これが本心だもの!」
「では、ルイーザは、本当に俺と、けっ、けけ――」
妻の気持ちが自分に向いているとハッキリ自覚したのだろう。
フレデリクは顔を赤くしたまま突然しどろもどろになった。反対にルイーザはドンと胸を張る。
「結婚したかったわ」
(だって好きだもの!)
「――……っ!」
フレデリクの顔どころか首までもが一気に赤くなった。
なんだかいい雰囲気になってきた気がして、ルイーザはここぞとばかりにズイッと迫る。
「ねぇ、フレッド。実は私、あまりに嬉しくて気持ちが昂りすぎてしまって、誓いの口づけの瞬間を覚えていないの」
「は?」
「気が付いたのは初夜直前のベッドの上よ。それまでのことを本当になにも覚えていないの」
「な、なにも?」
困惑をあらわにするフレデリクへ、深く頷く。
そんな馬鹿なと思うだろう。だが事実である。
「待て、だからそのあと式中は心の声が聞こえなかったの、か……?」
「そうね。だって気絶していたも同然だもの」
「き、気絶……」
「せっかくの結婚式だったのに、なにひとつ覚えていないのよぉ!」
(あんなに楽しみにしていたのにいいぃぃっ!)
「――……っ!」
だから、とフレデリクの両肩に手を添えた。
今なら押したらいけそうな気がする。
あのときの無念を晴らすなら、今だ。
「もう一度、誓わせて」
「誓う?」
「誓いの口づけを、もう一度!」
黒髪の隙間から、いつもは理知的な瞳が、熱に浮かされたように見つめ返してくる。
ルイーザの思いは違うことなくしっかりと伝わったらしい。両頬に骨ばった長い指が添えられた。
こんな、渇欲するような目を向けられて冷静でいられるはずもない。
近づく顔に心臓が痛いほど跳ねまわった。内側から胸を叩く音が激しすぎて、もはや自分の鼓動しか聞こえない。
恥ずかしさに目を閉じたら、唇にあたる柔らかい感触。
そして間近に感じる体温。
「ふ……ぅっ」
ルイーザの身体は喜びに震えた。
(ぃいやったああああああああぁぁぁぁっ!!)
「うわあああああああぁぁぁっ!!」
心の中で喜びのままに全力で叫んだら、フレデリクが耳を塞いで顔をのけぞらせた。
あまりの歓喜に少しばかり内なる声が大きすぎたらしい。
「……ご、ごめんなさい。あまりに嬉しくて」
「い、いや、いいんだ。こちらこそすまない」
なにかを振り払うように頭を揺らす姿に、申し訳なさを感じた。
人生で一番心が昂った瞬間だった。その分、歓喜どころか狂喜の声もすごかったことだろう。
そんな気持ちで手を伸ばしたら、逆にその手を強く引かれた。
ギュッとフレデリクの腕の中に納まる。
突然のぬくもりに心臓がドキドキと高鳴ったが、それ以上に激しく脈打つフレデリクの鼓動が全身に伝わってきた。
「では、その……ルイーザは、俺と初夜をともにしてくれるの、か……?」
戸惑いながらも期待を含ませた声に、ルイーザは喜びを爆発させずにはいられなかった。
「もちろんよ!」
(よろしくお願いしまああああすっ!!)
フレデリクはまた耳を塞いでのけ反った。
フレデリクの拳に重ねた手に力を込める。
「式でハンスに助けを求めたのは、あなたが本当に素敵だったからよ」
「…………」
「私ひとりで抱えきれないくらい、あなたが素敵に見えたからよ」
真っすぐとアンバーの瞳を見つめるルイーザを、フレデリクこそその真意を探るように覗き込んでいる。
「私はずっとフレッドのことが好きだった!」
(ずぅっと大好きなのおおおぉぉぉっっ!!)
ボッと火が付きそうなくらい、フレデリクの顔が真っ赤に燃え上がった。
「こ、心も同じことを言っている……」
どころか、言葉以上である自覚もある。
「当然でしょう! これが本心だもの!」
「では、ルイーザは、本当に俺と、けっ、けけ――」
妻の気持ちが自分に向いているとハッキリ自覚したのだろう。
フレデリクは顔を赤くしたまま突然しどろもどろになった。反対にルイーザはドンと胸を張る。
「結婚したかったわ」
(だって好きだもの!)
「――……っ!」
フレデリクの顔どころか首までもが一気に赤くなった。
なんだかいい雰囲気になってきた気がして、ルイーザはここぞとばかりにズイッと迫る。
「ねぇ、フレッド。実は私、あまりに嬉しくて気持ちが昂りすぎてしまって、誓いの口づけの瞬間を覚えていないの」
「は?」
「気が付いたのは初夜直前のベッドの上よ。それまでのことを本当になにも覚えていないの」
「な、なにも?」
困惑をあらわにするフレデリクへ、深く頷く。
そんな馬鹿なと思うだろう。だが事実である。
「待て、だからそのあと式中は心の声が聞こえなかったの、か……?」
「そうね。だって気絶していたも同然だもの」
「き、気絶……」
「せっかくの結婚式だったのに、なにひとつ覚えていないのよぉ!」
(あんなに楽しみにしていたのにいいぃぃっ!)
「――……っ!」
だから、とフレデリクの両肩に手を添えた。
今なら押したらいけそうな気がする。
あのときの無念を晴らすなら、今だ。
「もう一度、誓わせて」
「誓う?」
「誓いの口づけを、もう一度!」
黒髪の隙間から、いつもは理知的な瞳が、熱に浮かされたように見つめ返してくる。
ルイーザの思いは違うことなくしっかりと伝わったらしい。両頬に骨ばった長い指が添えられた。
こんな、渇欲するような目を向けられて冷静でいられるはずもない。
近づく顔に心臓が痛いほど跳ねまわった。内側から胸を叩く音が激しすぎて、もはや自分の鼓動しか聞こえない。
恥ずかしさに目を閉じたら、唇にあたる柔らかい感触。
そして間近に感じる体温。
「ふ……ぅっ」
ルイーザの身体は喜びに震えた。
(ぃいやったああああああああぁぁぁぁっ!!)
「うわあああああああぁぁぁっ!!」
心の中で喜びのままに全力で叫んだら、フレデリクが耳を塞いで顔をのけぞらせた。
あまりの歓喜に少しばかり内なる声が大きすぎたらしい。
「……ご、ごめんなさい。あまりに嬉しくて」
「い、いや、いいんだ。こちらこそすまない」
なにかを振り払うように頭を揺らす姿に、申し訳なさを感じた。
人生で一番心が昂った瞬間だった。その分、歓喜どころか狂喜の声もすごかったことだろう。
そんな気持ちで手を伸ばしたら、逆にその手を強く引かれた。
ギュッとフレデリクの腕の中に納まる。
突然のぬくもりに心臓がドキドキと高鳴ったが、それ以上に激しく脈打つフレデリクの鼓動が全身に伝わってきた。
「では、その……ルイーザは、俺と初夜をともにしてくれるの、か……?」
戸惑いながらも期待を含ませた声に、ルイーザは喜びを爆発させずにはいられなかった。
「もちろんよ!」
(よろしくお願いしまああああすっ!!)
フレデリクはまた耳を塞いでのけ反った。
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