異世界保育士さん

なの

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1. プロローグ

5 失踪

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「じゃあとりあえず自己紹介も済んだことだし外のことを考えよっか。一応聞いてみるけどさ、誰か心当たりはなんかある?」

 全員が首を横に振る。

「だよね。なんかこういう状況って都市伝説とか思い出すよね。」

 都市伝説と聞いて途端に顔を青ざめさせる佑太郎くん。都市伝説は怖い話だらけだから怖い話は嫌いなのかもしれない。かくいう私も嫌いだから気になるけど聞きたくない。

「とっ……都市伝説……ってなんですかっ……?」

「あれ、知らない?
 いくつかあるけど電車関係でパッと思い出すのは『きららぎ駅』ってやつかなぁ。まぁあれは降りるのがまずいっぽい感じだから今の状況とは違うけどね。

 ツブヤイッターで3人分の被害者の報告が上がってるのは見たよ。まぁ2人目は釣りらしいんだけどね。1人目と3人目は釣りとは言われてないんだよね。
 まぁ見たときが3人だっただけで今は知らないけどねーもしかしたら増えてるかもねー。

 きららぎ駅の都市伝説は……あ、これは3人目の話ね。
 気付いたら終点のアナウンスが聞こえたから慌てて降りたら知らない駅。周囲には人がいないうえについてる電気は小さいものだけで深夜だから周囲は暗い。
 ツブヤイッターで『きららぎ駅についちゃったと』現状を呟いてたらいろんな人から『きららぎ駅』のことを聞かされる。教えられれば教えられるほど深まる謎と高まる恐怖心。

『きららぎ駅は架空の駅』『閉ざされた改札』
『風化した時刻表』『どこからか聞こえる風鈴の音』『ずれた時刻』『繋がらない電話』……」

「まっ、ままままま、まって!?  その話やめよう!
 私も前にたまたま見つけて興味もっちゃって読んでみたことあるけど、きららぎ駅はガチで怖かったからやめよう!?」

 前に何か見てた時にたまたま見つけて読んだけどすっごい怖かったやつじゃん! ツブヤイッターの履歴がガチっぽくて怖い気持ちを増長させるんだよね、あれ……うぅ……。

「でもそれって確か3人目の人無事に地元駅ついてたと思うけど。」

 そ、そうなんだっけ……
 太一くんの助言(?)によりホッと息を吐く私と佑太郎くん。
 心当たりとか言っても怖い話は聞きたくなかったからよかっ……

「1人目は行方不明になってるけどな。」

「「うわあああああっ!」」

 思わず佑太郎くんと2人で叫ぶのは悪くないよね!? ちょっ、しかもくつくつと笑ってるし! あんたさっきまで無表情だったくせに何笑ってんの!

「くっ……太一やめてあげなよ、2人ともめっちゃびびってるよ。ごめんって2人とも。2人して涙目になってて可愛いけど怒らないでよ。

 大丈夫だってきららぎ駅の被害者は1人目も3人目も何かおかしいと思ったり飛び起きたりして駅で降りてる人だからさ。そもそもこの電車、というか車両から出れないからなんかあったとしても別物だよ。

 もっと悪いかもしれないけどね。」

 楽しそうにニヤニヤしてる観月ちゃんから離れて佑太郎くんとくっついて座る。謎の親近感が彼にはあるので2人でぴるぴる震えてる。くそう、いじめっこめ、爆ぜろこんちくしょう!

 ってあれ?

「ねぇ……太一くん……は?」

 気付いたら佑太郎くんの横に座っていたはずの太一くんがいない。

「えっ……え?  な、どこいった? いや、どうやって消えた?」

 驚いて思わず立ち上がると観月ちゃんも驚いたようで立ち上がってキョロキョロする。
 もちろん車内に隠れる場所はないし、隠れる理由もない。それに端と端ならまだしも近くに座ってた太一くんが動いたら絶対に視界に入るはずだ。

「えっ、あれ……桜……佑太郎、は?」

「えっ?  あれ……ゆ、佑太郎くん……まで消えちゃった……?」

 少し前に踏み出していたからか視界から佑太郎くんは消えていたから振り向けば、そこには誰もいなくて。

 太一くん、佑太郎くんと消えていく、そうすると次は……? 嫌な予感を感じて慌てて前を向けば直前までいたはずの観月ちゃんもそこにはいなくて、私だけが1人残されていた。

「えっ……?  観月、ちゃん?  ……佑太郎くん、太一くん?
 や、やだ……なんでっ、なんで皆いないの!? みんなっどこ! ひ、1人にしないでよ!?」

 叫んでも返事はなくて。
 さっきからずっと1人だったんじゃないかと思ってしまうような静寂が広がっていく。……さっきまで話してたから気付かなかったけどいつの間にか電車の音も聞こえない……。思わず怖くなって外も見れなくてその場で蹲って目を瞑る。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……。
 やだやだ……やだよぅ……。
 
 今日は新しくできたカフェにいって。家に帰ったらお母さんが作ったラーメンを食べて。明日は日曜だから1日ゆっくりして、明後日になったらいつも通り仕事にいって……。

 どうしてこんな意味のわからない状態になってるの……? さっきまで話してたのは夢だった、の……?

「うううぅ、やだよぉ……死にたくないよぉ……助けてぇ……お父さんお母さん椿ちゃん……。
 観月ちゃん佑太郎くん太一くん……さっきまで一緒にいたじゃん……夢じゃないよねぇ……?」

 我慢出来ずに滲んだ瞳からぼろぼろと涙がとめどなく溢れてくる。止めることのできないそれは、拭っているカーディガンの袖にひたすら染み込んでいく。

 聞こえるのは自分の嗚咽と鼻をすする音だけ。

『……あ、なた、だけでも……と、思っ、たので、すが……巻き込ま、れて、しまって……助け、てあげ、ら、れなく、てごめん、なさ、い……』

「ひゃあっ!?」

 どこからか声が聞こえて思わず顔を上げると、目の前にはひらひらとしたシースルーのグラデーションのようになった白いドレスを着た透き通るような肌の美しい女の人。というか透き通ってる。

「ゆ、ゆゆゆゆ幽霊!? や、やだやだやだ、こっちこないで!」

 尻もちをついてしまい、思わずそのままずりずりと後ろに下がると目の前の美人な幽霊は困ったように眉尻を下げて優しく微笑む。

『わた、しの、力、は、弱い、の、で……助ける……ことはでき、な、いけれど……せめ、て、愛され、る、力、をあな、た、に……』

 浮いているように滑らかに近付いてきて震えるわたしの頭に手を添える。恐怖のあまり力が抜けてしまって動けなくなって震える私に幽霊さんが触れるとそこから暖かい何かが身体に入っていくのを感じた。

 そう思った次の瞬間には私の意識は薄れていって、目が閉じていく。

 これで私の人生終わり……?
 意味のわからない終わり方したよ……ごめんねお父さんお母さん椿ちゃん……先生方、カフェにいけなくてごめんなさい、子供達よ、急にいなくなってごめんね……。


 最後に聞こえたのは先程よりも聞き取りやすくなった美人な幽霊の声だった。

異世界・・・でも健やかに過ごしてください、貴女たちに幸多からんことを……。』

 そこで私の意識は完璧に途切れた。







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