異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

文字の大きさ
89 / 454

086

しおりを挟む
「アルタナ王国の情勢を聞かせてもらえませんか?」

「アルタナ王国……確か3日前の情報では南の防衛線が突破されたとか……」

「3日も前の情報ですか。自分が王都や下の待合室で聞いた話ですと、既に魔物の軍勢はアルタナ王国の王都に迫っていて(ベルガーナ)王国からの物資の輸送にも影響が出ているとか」

 ナナイさんは慌てて資料を漁るが、このような重大な情報が頭に入ってない時点で負けを認めているようなものである。
 情報は鮮度が命。
 常に新しい情報を仕入れておかないといざという肝心な時に役に立たない。

「ツトム君。君はアルタナの戦況を聞いてどうするんだい? 興味本位ということならこちらとしても詳しく教える訳にはいかないが……」

 ロイター子爵が割って入ったことで勝負は決着した。

「この後にでもアルタナ王国の様子を見に行こうかと思いまして」

「!?」

 ナナイさんが悔しそうな顔をしている。
 戦地に向かう者に必要な情報を渡せないのではふがいなさで一杯だろう。

「ふむ……、2人共こちらに来てくれ」

 そう言うとロイター子爵は机の上に引き出しから出した地図を広げた。

「先ほどナナイ君が言ったように3日前に南部防衛の要であるルミナス大要塞が突破されたという知らせが届いた。例のオーガによる投石がその原因だ」

 ロイター子爵は地図上のアルタナ王国の南の地点を指差している。
 そこには東西にやや右上がりに線が引かれており、それがルミナス大要塞らしい。
 地図上の表記だけでもかなりの大きさのように思える。

「オーガによる投石と猿の魔物の情報はアルタナ王国には……」

「もちろんすぐに伝令を飛ばしている。南部3国(アルタナ王国・ベルガーナ王国・商業国家コートダール)は対魔物で同盟を組んでいてね、情報はすぐ共有する取り決めになっているんだ。君の魔法も同様にね」

「ならばどうして……」

「新魔法の習得が間に合わなかったのか、それともルミナス要塞の防御を過信し過ぎて脅威に感じなかったのか……
 いずれにせよオーガと猿は要塞の守備隊が突撃を敢行して殲滅したとのことだ。多大な犠牲と引き換えにね」

「突破されたという表現ですと要塞そのものは未だ健在なのですか?」

「それが連絡が途絶していてよくわからないんだ。敵中に孤立している訳だからね。
 魔物は北上しているので要塞への攻撃自体は緩くなっているはずだから落とされてはいないというのが大方の見方だね。
 話を進めよう。
 急報を受けたアルタナ側は王都の戦力を総動員してルミナス大要塞と王都の中間にある、ここだね、レグの街の少し南で遅滞戦闘を開始した。これが2日前の戦況だ。
 その後アルタナ軍は一部の部隊をレグの街の防衛に残し本隊は王都へ撤退した。レグの街は籠城戦に入ったそうだ。まぁ籠城戦と言ってもどこからも援軍が来る宛などないのだから実質的には王都を守る為の捨て石というところだね。
 魔物はレグの街を包囲するグループと王都へ向かうグループの2つに分かれている。
 今頃は王国と帝国から援軍が出陣しているだろう。何としてもアルタナの王都を守り抜く腹積もりのようだ。
 これまでの全体的な流れは以上かな」

 聞いていた以上に状況は悪いようだ。
 ロイター子爵は地図を示しながら説明してくれたが……

「これほど詳細な戦況を教えて下さるということは自分に何か指令でも?」

「それなんだけどね……
 君にはレグの街に残った部隊の指揮官であるレイシス姫をなんとか救出してもらいたい。
 アルタナ王の三女であるレイシス姫はイリス姫と非常に懇意にしていてね、イリス姫は早くに夫を亡くされた同じ境遇も相まってレイシス姫を妹のように想っておられるのだよ」

 姫様絡みか。

「レイシス姫の状況をイリス様は御存知なのでしょうか?」

「もちろんだ。伝令からの報告の際にその場にいらしたからね」

 レイシス姫のことが心配だろうに、そんな中でも面会者との謁見をこなして俺のくだらない願いにも嫌な顔一つせずに応じてくれたのか。
 これは是が非でもなんとかしないといけないなぁ。

「それにしてもレイシス姫はどうして王都に撤退しなかったのでしょう?」

「……私の推測なんだが、恐らくはアルタナ王の命令だと思う」

「!? 実の娘を捨て石とする街の守りに? そのような事があり得るのでしょうか?」

「1つの街を犠牲の祭壇に捧げる以上その犠牲者の中に王族がいなければ王家として国民に対する示しが付かないのだろう。君には理解し難いことかもしれないが……」

「そのような事情であるなら自分が行ってレイシス姫を救出するなんて不可能なのでは? そもそもレイシス姫が説得に応じるとも思えません」

 王族に連なる者の責務と捉えているだろうし。

「その通りだよ。事はアルタナ王国の内政問題だからね。こちらから口出ししては大問題になってしまう」

「つまりアルタナ軍を急襲してレイシス姫を攫って来いと?」

「いやいや! そんな過激な行動はしないでくれ!! そんなことをしたら大問題どころの騒ぎじゃなくなるよ」

「ではロイター様はどのようにしてレイシス姫の救出を?」

「君にはレグの街を明日まで守ってもらいたい。
 行軍を急いでいれば明日にはアルタナの王都に王国と帝国からの援軍が到着するはずだ。
 王都で魔物を撃退できれば魔物は一気に引き上げる……かもしれない」

 確かに緊急招集の時も夜間の襲撃の際も魔物は引き上げる際には一斉に引いていたから全く根拠の無いことではない。
 だけど……

「自分1人が加わった程度で街一つを守り切れるでしょうか?」

「君はこの間バルーカを襲った魔物を撃退したじゃないか」

「あの時は帝国軍が護衛してくれたのと魔物がいたのはバルーカの南側だけでしたので……」

 敵の大軍の中で孤立している街をどうやって守るのか。
 美味しそうな状況ではあるが。

「私には君に命令する権限はない。ただ願わくば、風前の灯火である街を守ってレイシス姫を魔物の囲みから救い出して欲しい」

 そうだよな。
 肖像画に描かれる姫様の表情を暗く影を落とさせるのか明るく華やかにするかの瀬戸際だからな。

「レイシス姫救出の為に微力を尽くします」

 それにもしレイシス姫の救出に成功したら姫様から肖像画以上のムフフなご褒美を期待できるかも……
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。 しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。 全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。 クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆1/19〜1/27まで、予約投稿を1話ずつ行います。 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。

アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】 それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。 剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず… 盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず… 攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず… 回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず… 弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず… そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという… これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。 剣で攻撃をすれば勇者より強く… 盾を持てばタンクより役に立ち… 攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが… それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。 Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに… 魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし… 補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に… 怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。 そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが… テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので… 追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。 そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが… 果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか? 9月21日 HOTランキング2位になりました。 皆様、応援有り難う御座います! 同日、夜21時49分… HOTランキングで1位になりました! 感無量です、皆様有り難う御座います♪

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定。

【書籍化決定!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆皆様のおかげで、書籍化が決定致しました!3月中旬頃、発売予定です。よろしくお願い致します。 ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...