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-特殊個体を置いた司令部の小部屋にて-
「ほぉ…………
これが特殊個体か。思ったほどには大きくないな」
床に置かれた2体の特殊個体は全身にダメージを負っているが、その内の1体は胸部に穴が穿たれている。
「これがあらゆる攻撃を跳ね返すという特殊個体の鉄壁の黒い肌か…………」
クリュネガー(=コートダール軍司令)は特殊個体の肌に直接触れ、叩いたり引っ張ったりしてみた。
「触れただけではこれがどうして鉄壁なのかはよくわからんな。
参謀連中は皆見たのか?」
「既にほとんどの方が来られました!」
まだ見てないのはこの司令部内にいない連中だけか。
今回のような緊急時には司令部要員はこの建物内に缶詰めとなる。
しかし全員というわけではなく、比較的年齢の高い者に限り交代での帰宅が認められている。
これは年配者の体調を慮っての措置ということになっているが、ある程度の余力を残すためでもある。
この緊急時を乗り切っても仕事は続くのだし、不測の事態に備える必要もあるのだ。
「コモロー男爵も来られたのか?」
「最初のほうに来られましたよ」
ヤハス・コモロー男爵。グラバラス帝国派遣軍の総指揮官だ。
帝国はコートダール防衛にかなりの戦力を派遣している。
特にイズフール川沿いの防御線には、全防衛兵力の2割を優に超える部隊を常時駐屯させている。これは帝国が南部三国(=ベルガーナ王国・アルタナ王国・商業国家コートダール)に派遣してる中では最大規模の戦力だ。
これだけの戦力を投入しておきながら、帝国のコートダール(他南部2国も含めて)に対する姿勢は極めて微妙だ。
帝国内において南部三国への支援を止めて、帝国単独での大陸南部への侵攻を主張する過激派が、近年急速に勢力を拡大しているのがその理由だ。
そして過激論ではないものの南部三国への派兵に反対する人達も過激派と歩調を合わせる傾向も出てきている。
帝国軍への依存度が高い我が国(=コートダール)にとっては死活問題だ。
幸い皇帝陛下をはじめ帝国上層部は保守派が占めている。
だが今回魔族側の陽動に引っかかった面があるとはいえ、帝国からの更なる増援が過激派の妨害工作によって頓挫してしまったという結果を鑑みれば、帝国内の動きは予断を許さない状況にあると言える。
「男爵は何か仰っておられたか?」
「特殊個体を倒した魔術士のことを聞かれた以外は特には」
「そうか……」
魔術士を呼んで2体の死体を収納するよう指示して部屋を出た。
-商都の軍司令部・作戦室にて-
「たかが1人の魔術士が特殊個体を倒したなどと!?」
「しかも2体もだぞ!」
「現地指揮官の報告書には砦守備隊の働きも大きかったようだが……」
「あの程度の援軍でレグザール砦を守れるのか?」
「問題は魔族側がさらに特殊個体を投入してくるのかだろう」
「そのような事態になればベルガーナから来た魔術士に特殊個体撃破を要請すればいい」
「他国の者に頼っては国防は成り立たんよ!」
「既に帝国軍なしでは防衛ラインは維持できないというのに何をいまさら?!」
「イズフール川の防衛にも目を向けるべきだ!」
「いや、注視すべきは特殊個体の動向だろう」
作戦室に戻ると参謀達が喧々諤々の議論をしている最中だった。
「「「閣下!」」」
私に気付いて敬礼しようとするのを手で制して席に着く。
「皆、こんな時間にご苦労」
既に日付は変わっている。
「途中から聞こえていたが、まずレグザール砦へは明朝冒険者を派遣する手はずになっている。それで十分かどうかは不明だが、現状ではそれ以外に打てる手はあるまい」
既に商都からレグザール砦へ援軍が出陣しているが、軍としてはほぼそれで打ち止めだ。
現在周辺の街から商都に各警備隊を集結させつつあるが、兵士としての能力はかなり低く防衛線に派遣できるような戦力ではない。
「そしてもしまた特殊個体が現れたら…………ツトム殿にお願いすることになるだろう」
「みすみす他国の者に功を成さしめてよいのでしょうか?」
長年帝国軍と共に魔物の侵攻を防いできたせいか、帝国軍に対して身内意識が醸成されているようだ。
そしてその反動か、新参のベルガーナの魔術士を拒絶する傾向が見られる。
レグザール砦指揮官の報告書を読んだ限り、現場においてはそのような傾向はなさそうだが…………
「いっそあの魔術士を我が国に引き入れてみては?」
「特殊個体を討ち取れるほどの魔術士をベルガーナが手放すわけがないだろう」
「いくら魔法が強いと言っても所詮は魔術士です。
不意を突いて拘束してしまうというのはいかがでしょう?」
過激なことを言い出す者も出て来る有様だ。
帝国の過激派に影響されてるのだろうか?
帝国からの派遣軍は全て保守派で固められてるというわけではない。
当然中には過激派もいるわけで、そのような者達と接していれば影響を受ける者がいても不思議ではないが…………
「いいか。
援軍を送ってくれたベルガーナ王国やグレドール伯爵(=バルーカ領主)には感謝しなければならない。
レグザール砦が落とされていたらどのような事態になっていたか。敢えて申すまでのことはなかろう。
このことはこの場にいる全員が共有しなければならない。
当然軍事統括官にもそのように申し上げるつもりだ。
よいな?」
「「「ハッ!」」」
「それと我が国の防衛体制にとって帝国との関係は極めて重要だが、そのことが南部三国同盟を軽視して良いということにはなり得ない。
なので今後同盟関係に楔を打ち込むかのような不穏な言動は厳に慎むように。
わかったな?」
「「申し訳ありませんでした!」」
「うむ……」
問題となる前に対処できた、と思いたいが…………
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-特殊個体を置いた司令部の小部屋にて-
「ほぉ…………
これが特殊個体か。思ったほどには大きくないな」
床に置かれた2体の特殊個体は全身にダメージを負っているが、その内の1体は胸部に穴が穿たれている。
「これがあらゆる攻撃を跳ね返すという特殊個体の鉄壁の黒い肌か…………」
クリュネガー(=コートダール軍司令)は特殊個体の肌に直接触れ、叩いたり引っ張ったりしてみた。
「触れただけではこれがどうして鉄壁なのかはよくわからんな。
参謀連中は皆見たのか?」
「既にほとんどの方が来られました!」
まだ見てないのはこの司令部内にいない連中だけか。
今回のような緊急時には司令部要員はこの建物内に缶詰めとなる。
しかし全員というわけではなく、比較的年齢の高い者に限り交代での帰宅が認められている。
これは年配者の体調を慮っての措置ということになっているが、ある程度の余力を残すためでもある。
この緊急時を乗り切っても仕事は続くのだし、不測の事態に備える必要もあるのだ。
「コモロー男爵も来られたのか?」
「最初のほうに来られましたよ」
ヤハス・コモロー男爵。グラバラス帝国派遣軍の総指揮官だ。
帝国はコートダール防衛にかなりの戦力を派遣している。
特にイズフール川沿いの防御線には、全防衛兵力の2割を優に超える部隊を常時駐屯させている。これは帝国が南部三国(=ベルガーナ王国・アルタナ王国・商業国家コートダール)に派遣してる中では最大規模の戦力だ。
これだけの戦力を投入しておきながら、帝国のコートダール(他南部2国も含めて)に対する姿勢は極めて微妙だ。
帝国内において南部三国への支援を止めて、帝国単独での大陸南部への侵攻を主張する過激派が、近年急速に勢力を拡大しているのがその理由だ。
そして過激論ではないものの南部三国への派兵に反対する人達も過激派と歩調を合わせる傾向も出てきている。
帝国軍への依存度が高い我が国(=コートダール)にとっては死活問題だ。
幸い皇帝陛下をはじめ帝国上層部は保守派が占めている。
だが今回魔族側の陽動に引っかかった面があるとはいえ、帝国からの更なる増援が過激派の妨害工作によって頓挫してしまったという結果を鑑みれば、帝国内の動きは予断を許さない状況にあると言える。
「男爵は何か仰っておられたか?」
「特殊個体を倒した魔術士のことを聞かれた以外は特には」
「そうか……」
魔術士を呼んで2体の死体を収納するよう指示して部屋を出た。
-商都の軍司令部・作戦室にて-
「たかが1人の魔術士が特殊個体を倒したなどと!?」
「しかも2体もだぞ!」
「現地指揮官の報告書には砦守備隊の働きも大きかったようだが……」
「あの程度の援軍でレグザール砦を守れるのか?」
「問題は魔族側がさらに特殊個体を投入してくるのかだろう」
「そのような事態になればベルガーナから来た魔術士に特殊個体撃破を要請すればいい」
「他国の者に頼っては国防は成り立たんよ!」
「既に帝国軍なしでは防衛ラインは維持できないというのに何をいまさら?!」
「イズフール川の防衛にも目を向けるべきだ!」
「いや、注視すべきは特殊個体の動向だろう」
作戦室に戻ると参謀達が喧々諤々の議論をしている最中だった。
「「「閣下!」」」
私に気付いて敬礼しようとするのを手で制して席に着く。
「皆、こんな時間にご苦労」
既に日付は変わっている。
「途中から聞こえていたが、まずレグザール砦へは明朝冒険者を派遣する手はずになっている。それで十分かどうかは不明だが、現状ではそれ以外に打てる手はあるまい」
既に商都からレグザール砦へ援軍が出陣しているが、軍としてはほぼそれで打ち止めだ。
現在周辺の街から商都に各警備隊を集結させつつあるが、兵士としての能力はかなり低く防衛線に派遣できるような戦力ではない。
「そしてもしまた特殊個体が現れたら…………ツトム殿にお願いすることになるだろう」
「みすみす他国の者に功を成さしめてよいのでしょうか?」
長年帝国軍と共に魔物の侵攻を防いできたせいか、帝国軍に対して身内意識が醸成されているようだ。
そしてその反動か、新参のベルガーナの魔術士を拒絶する傾向が見られる。
レグザール砦指揮官の報告書を読んだ限り、現場においてはそのような傾向はなさそうだが…………
「いっそあの魔術士を我が国に引き入れてみては?」
「特殊個体を討ち取れるほどの魔術士をベルガーナが手放すわけがないだろう」
「いくら魔法が強いと言っても所詮は魔術士です。
不意を突いて拘束してしまうというのはいかがでしょう?」
過激なことを言い出す者も出て来る有様だ。
帝国の過激派に影響されてるのだろうか?
帝国からの派遣軍は全て保守派で固められてるというわけではない。
当然中には過激派もいるわけで、そのような者達と接していれば影響を受ける者がいても不思議ではないが…………
「いいか。
援軍を送ってくれたベルガーナ王国やグレドール伯爵(=バルーカ領主)には感謝しなければならない。
レグザール砦が落とされていたらどのような事態になっていたか。敢えて申すまでのことはなかろう。
このことはこの場にいる全員が共有しなければならない。
当然軍事統括官にもそのように申し上げるつもりだ。
よいな?」
「「「ハッ!」」」
「それと我が国の防衛体制にとって帝国との関係は極めて重要だが、そのことが南部三国同盟を軽視して良いということにはなり得ない。
なので今後同盟関係に楔を打ち込むかのような不穏な言動は厳に慎むように。
わかったな?」
「「申し訳ありませんでした!」」
「うむ……」
問題となる前に対処できた、と思いたいが…………
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