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新人魔導師、配属される
4月1日、9時12分
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憧れは、憧れのままにすべきだ。
幼いころに憧れた真っ赤な口紅も、高いヒールの靴も、実際に手に入れてしまうと、その輝きを失う。真っ赤な口紅は天音には似合わなかったうえに、毎朝化粧をする時間を取られて鬱陶しいし、高いヒールの靴は歩きにくく、靴擦れした。
どんなに欲しいと思ったものでも、実際に手に入れてしまえば悪い面を知ってしまう。そうして、輝きは失われていく。
だから、伊藤天音の座右の銘は『憧れは、憧れのままにすべき』なのだ。
この世の全てから輝きが失われていくようで、怖かったから。
夢に向かって進路を決めていく周囲を眺めながら、冷めた目をして生きてきた。
高校3年生の、12月までは。
4月1日、午前9時12分。
就職祝いに両親から貰ったばかりの時計はそう示している。念のためスマートフォンの時刻も確認したが、まったく同じ時刻を表示していた。メールの文面も読み返したが、この門の前が集合場所で間違いない。
(あと3分経っても誰も来なかったら、電話をしてみよう)
不安になりながらも天音がそう思ったとき、門の上から何かが降ってきた。
「超ごめーん!」
それは叫びながら空中で一回転し、猫のように音もたてずに着地した。
「ホントごめん! めっちゃ待ったよね!?」
何か、は少女だった。かなり華奢な体格である。3メートルはありそうな門を一回転して飛び越えてきたとは、とても思えない。
「お待たせ! 伊藤天音さん、だよね? あたし清水夏希! 一応、この第5研究所の副所長してます、よろしくね!」
黒手袋に包まれた小さな手が、握手を求めるように差し出される。
天音は思わず固まった。
今、彼女は何と言った?
目の前の少女はどう見ても13、4歳。今年で19になる天音よりもかなり年下だろう。
だと言うのに、彼女はこの国立第5魔導研究所の副所長であると、そう言ったのだ。
聞き間違いか。私は疲れているのか。固まったままの天音の顔を、夏希は気遣うように覗き込んだ。
「どーしたの? あ、緊張してるー? だよねだよね、わっかるー」
うんうんと頷く夏希を横目に、こんなはずじゃなかったと天音は軽く意識を飛ばした。
今から12年前。
とある考古学者が、「魔法は実在した」と論文を発表した。
当然、それは受け入れられることはなく、考古学者は失意のうちにこの世を去った。
しかし、その後の詳しい調査により、状況は変わっていく。考古学者が調査していた遺跡内に未発見の文字があったこと、そしてなにより、その文字を読める者と読めない者がいることが決定打となった。
文字を読める者がその文字を真似して書くと、たちまちその紙は燃えていったのである。別の文字を書けば紙は水に代わり、また異なるものを書けば紙は光を放った。このような現象がいくつも起こり、学会はついに世間に公表した。
「魔法は実在した」、と。
そこから研究は進められていき、現在では国内に5か所の国立研究所が設置された。養成学校を卒業した天音が配属されたのは、最も新しい第5研究所である。首都にある第1研究所に配属されることは叶わなかったが、養成学校を卒業したばかりの者が国立研究所に配属されることは非常に稀だ。同期よりも一歩先を行った、そう思っていたのに。
まさかこんなにも幼いこどもが現れるとは。
(この業界、人手不足とは聞いていたけど、ここまでとは……)
泣きたくなってきた。
教本全てを暗記するほどに勉強して、卒業試験でも2位で合格して。こんなに頑張ったというのに、その行く先がこれか。
涙がこぼれそうだ。
俯くと、夏希の服の袖が目に入る。
軍服を思わせる黒の衣装は、国が認定した魔導考古学研究員しか身に着けることができない。袖のラインの本数で階級が確認でき、銀のその線が増えていくことはあらゆる研究員の夢であり、目標だった。
(さ、3本!?)
3本のラインは最高位の魔導復元師―現代の魔導(古代における魔法と区別するためそう称される)に精通し、非常に強い魔力を持つ者であることを表す。そして、魔導復元師は、国内で片手で数えられるほどしかいない超エリートであり、天音からすれば雲の上の、そのまた上の存在。
(この子、一体いくつなの!?)
新生活が始まって20分ほど。
天音はすでに、ひどく疲れていた。
幼いころに憧れた真っ赤な口紅も、高いヒールの靴も、実際に手に入れてしまうと、その輝きを失う。真っ赤な口紅は天音には似合わなかったうえに、毎朝化粧をする時間を取られて鬱陶しいし、高いヒールの靴は歩きにくく、靴擦れした。
どんなに欲しいと思ったものでも、実際に手に入れてしまえば悪い面を知ってしまう。そうして、輝きは失われていく。
だから、伊藤天音の座右の銘は『憧れは、憧れのままにすべき』なのだ。
この世の全てから輝きが失われていくようで、怖かったから。
夢に向かって進路を決めていく周囲を眺めながら、冷めた目をして生きてきた。
高校3年生の、12月までは。
4月1日、午前9時12分。
就職祝いに両親から貰ったばかりの時計はそう示している。念のためスマートフォンの時刻も確認したが、まったく同じ時刻を表示していた。メールの文面も読み返したが、この門の前が集合場所で間違いない。
(あと3分経っても誰も来なかったら、電話をしてみよう)
不安になりながらも天音がそう思ったとき、門の上から何かが降ってきた。
「超ごめーん!」
それは叫びながら空中で一回転し、猫のように音もたてずに着地した。
「ホントごめん! めっちゃ待ったよね!?」
何か、は少女だった。かなり華奢な体格である。3メートルはありそうな門を一回転して飛び越えてきたとは、とても思えない。
「お待たせ! 伊藤天音さん、だよね? あたし清水夏希! 一応、この第5研究所の副所長してます、よろしくね!」
黒手袋に包まれた小さな手が、握手を求めるように差し出される。
天音は思わず固まった。
今、彼女は何と言った?
目の前の少女はどう見ても13、4歳。今年で19になる天音よりもかなり年下だろう。
だと言うのに、彼女はこの国立第5魔導研究所の副所長であると、そう言ったのだ。
聞き間違いか。私は疲れているのか。固まったままの天音の顔を、夏希は気遣うように覗き込んだ。
「どーしたの? あ、緊張してるー? だよねだよね、わっかるー」
うんうんと頷く夏希を横目に、こんなはずじゃなかったと天音は軽く意識を飛ばした。
今から12年前。
とある考古学者が、「魔法は実在した」と論文を発表した。
当然、それは受け入れられることはなく、考古学者は失意のうちにこの世を去った。
しかし、その後の詳しい調査により、状況は変わっていく。考古学者が調査していた遺跡内に未発見の文字があったこと、そしてなにより、その文字を読める者と読めない者がいることが決定打となった。
文字を読める者がその文字を真似して書くと、たちまちその紙は燃えていったのである。別の文字を書けば紙は水に代わり、また異なるものを書けば紙は光を放った。このような現象がいくつも起こり、学会はついに世間に公表した。
「魔法は実在した」、と。
そこから研究は進められていき、現在では国内に5か所の国立研究所が設置された。養成学校を卒業した天音が配属されたのは、最も新しい第5研究所である。首都にある第1研究所に配属されることは叶わなかったが、養成学校を卒業したばかりの者が国立研究所に配属されることは非常に稀だ。同期よりも一歩先を行った、そう思っていたのに。
まさかこんなにも幼いこどもが現れるとは。
(この業界、人手不足とは聞いていたけど、ここまでとは……)
泣きたくなってきた。
教本全てを暗記するほどに勉強して、卒業試験でも2位で合格して。こんなに頑張ったというのに、その行く先がこれか。
涙がこぼれそうだ。
俯くと、夏希の服の袖が目に入る。
軍服を思わせる黒の衣装は、国が認定した魔導考古学研究員しか身に着けることができない。袖のラインの本数で階級が確認でき、銀のその線が増えていくことはあらゆる研究員の夢であり、目標だった。
(さ、3本!?)
3本のラインは最高位の魔導復元師―現代の魔導(古代における魔法と区別するためそう称される)に精通し、非常に強い魔力を持つ者であることを表す。そして、魔導復元師は、国内で片手で数えられるほどしかいない超エリートであり、天音からすれば雲の上の、そのまた上の存在。
(この子、一体いくつなの!?)
新生活が始まって20分ほど。
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