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新人魔導師、配属される
同日、19時49分
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夜の夏希は、大抵素の表情をしている。本人曰く、普段のあれは「仕事の一環」らしい。退勤時間である18時を回ると、スイッチが切れたように笑顔が消える。ずっと明るい顔をしているのは疲れるとぼやいていた。
初めこそそのギャップに驚いていたものの、一月もすれば慣れるものだ。そのうち、笑顔の夏希を見ていると違和感すら覚えるようになる。配属されたばかりのころを思い出して、双子は思わず笑ってしまった。その姿を見て、後ろで恭平が「何笑ってんの、怖」と1ミリも怖がっていない様子で言った。
月が昇り始めた時刻、双子と恭平は副所長室へやってきていた。
「報告」
「伝えに来たよ」
「オレは巻き込まれただけ」
引きずられてきたのであろう恭平が、疲れた顔をして言った。よく見ると、その両手の周りには双子の魔力が漂っている。拘束魔導を使われたのだろう。やろうと思えば振りほどけたはずなのに付き合ってやるあたり、妙なところで律儀な男だ。
「魔導嫌いでガリ勉のクソ真面目ちゃん以外の報告で頼む。いい加減聞き飽きてきた」
机の上に足を投げ出した行儀の悪い格好で夏希は応じた。その細い足の傍には、研究所には似つかわしくない黒猫が1匹いて、夏希の態度の悪さを叱るように足に猫パンチを繰り出している。
「謙虚な振りをした自信家」
「自分に酔ってる」
「音がヤバいです。あと、オレと気が合わないと思います」
三者三様の意見を述べる。合わせたわけではないが、どれもこれも辛口な意見だ。
「ああ」
知ってる。うんざりした表情の夏希は、つまらなそうにレポートの採点をしていた。書かれた数字を見る限り、天音が雅に叱られることはなさそうだ。
「え、覗き見?」
「趣味悪い」
「盗み聞きですか?」
「お前ら全員減給」
「すごい」
「流石の慧眼」
「部下のこと、しっかり見てくれる素敵な上司ですね!」
手のひらを返して褒め始める3人。現金なものである。
「あたしが聞いたわけじゃねぇよ。もう報告されたんだ」
擦り寄ってきた黒猫を撫でる夏希。どうやら、もう仕事をする気はなくなってしまったらしい。
「明日から、何させるの?」
「私たち、何するの?」
残るは調査班だが、正直研修することはほとんどない。調査班に必要なのは、実際に遺跡に行って発掘することだからだ。教本全てが頭に入っているような「優等生」には必要ないだろう。早くもやることがなくなってしまった。
「それなら決まってる」
「え、発掘許可でも下りたんですか?」
魔導考古学省から発掘許可が下りるのは、早くて1週間ほどだ。もし下りていたとしたら、信じられない早さである。
「いや、それは申請中」
「じゃあ、何するの?」
「一緒に遊ぶ?」
「ここは保育園じゃねぇんだよ」
くつくつと悪役じみた笑い声を上げながら、夏希は信じられないことを口にした。
「自習!」
「職務放棄だ」
「サボタージュだ」
瞬間、双子が夏希を責め始める。
それを宥めたのは、夏希ではなく恭平だった。
「なんか、考えがあるんでしょ? オレにはわからないけど」
「まあな」
「夏希、そればっかり」
「教えてくれてもいいのに」
いつも言葉を濁す夏希に、たまにはこちらにも教えてくれと双子が強請る。
彼女はいつもそうだ。その優れた頭脳から導き出されるアイディアは、並の人間には理解できないとは言え、たまには共有してくれてもいいだろう。
「仕方ねぇな……」
頭を搔きながら、面倒臭そうにしている。その割には、申し訳なさそうな雰囲気も漂っているので、普段からあまり話さないことを気にしていたのかもしれない。
「アイツの魔導適性値が下がってる」
「え」
アイツ、とは天音のことだろう。初めの確認の時以外に、夏希が天音の名を呼ぶことはなかった。これは研究員全員に言えることだが、正式配属となるまであまり名前は覚えないようにしている。去っていく人数が圧倒的に多いからだ。
「まあ、まだ研究員になれるだけの数値はある。ただ……魔導生成値の低下が著しい」
「彼女もともといくつでしたっけ?」
「62」
「わーお」
生成値88の恭平からすれば信じられない数値である。双子はつまらなそうに猫を撫でだした。話に飽きてきたらしい。
「で、今は?」
「51」
「3日でそんな下がります?」
魔導師は日々適性値を計ることを義務付けられている。新人には伝えないことになっているが、地下への扉や各階の入口が適性値を計るゲートの代わりをしていて、通った人間のデータを記録する。これは適性値低下による退職者を見つけるため、そして、侵入者を検知するためでもあり、非常に重要なシステムだ。
このシステムによると、天音は3日間で11も数値が落ちていることになる。本来ならありえないレベルだ。
「明日この話をして、アイツがどう出るかを見る。生成値を上げるためにどうしたらいいか聞かれたら教えてやるし、反対に、何もしないならとっとと退職させる。やりたくないことムリヤリさせてるワケだしな。辞めたいなら辞めさせてやる。魔導考古学省の魔導調査師希望なら推薦状も書いてやる。これなら問題ないだろ」
「むしろ至れり尽くせりじゃないですか? そんなする必要ある?」
「お前、あたしよりよっぽどドライだな……」
「だってそうでしょ。あの清水夏希が、そこまでする必要ないと思います」
「それを決めんのはあたしだ、恭平」
そう言われると、恭平は不満そうな顔をしながらも「はぁい」と返事をした。どうやら、恭平は透と同じような意見のようだ。
「和馬は残る、透と雅は退職、葵は転属。お前たちはどれに賭ける?」
「転属」
「退職」
「退職」
はるかのみ転属、残り2人は退職に賭けるようだ。双子だからといって、全て同じ意見というわけではないのである。
「さーて、どうなるコトやら」
上手くいけば、和馬の1人勝ちだ。
自身の答えは言わぬまま、夏希はにんまりと笑った。
初めこそそのギャップに驚いていたものの、一月もすれば慣れるものだ。そのうち、笑顔の夏希を見ていると違和感すら覚えるようになる。配属されたばかりのころを思い出して、双子は思わず笑ってしまった。その姿を見て、後ろで恭平が「何笑ってんの、怖」と1ミリも怖がっていない様子で言った。
月が昇り始めた時刻、双子と恭平は副所長室へやってきていた。
「報告」
「伝えに来たよ」
「オレは巻き込まれただけ」
引きずられてきたのであろう恭平が、疲れた顔をして言った。よく見ると、その両手の周りには双子の魔力が漂っている。拘束魔導を使われたのだろう。やろうと思えば振りほどけたはずなのに付き合ってやるあたり、妙なところで律儀な男だ。
「魔導嫌いでガリ勉のクソ真面目ちゃん以外の報告で頼む。いい加減聞き飽きてきた」
机の上に足を投げ出した行儀の悪い格好で夏希は応じた。その細い足の傍には、研究所には似つかわしくない黒猫が1匹いて、夏希の態度の悪さを叱るように足に猫パンチを繰り出している。
「謙虚な振りをした自信家」
「自分に酔ってる」
「音がヤバいです。あと、オレと気が合わないと思います」
三者三様の意見を述べる。合わせたわけではないが、どれもこれも辛口な意見だ。
「ああ」
知ってる。うんざりした表情の夏希は、つまらなそうにレポートの採点をしていた。書かれた数字を見る限り、天音が雅に叱られることはなさそうだ。
「え、覗き見?」
「趣味悪い」
「盗み聞きですか?」
「お前ら全員減給」
「すごい」
「流石の慧眼」
「部下のこと、しっかり見てくれる素敵な上司ですね!」
手のひらを返して褒め始める3人。現金なものである。
「あたしが聞いたわけじゃねぇよ。もう報告されたんだ」
擦り寄ってきた黒猫を撫でる夏希。どうやら、もう仕事をする気はなくなってしまったらしい。
「明日から、何させるの?」
「私たち、何するの?」
残るは調査班だが、正直研修することはほとんどない。調査班に必要なのは、実際に遺跡に行って発掘することだからだ。教本全てが頭に入っているような「優等生」には必要ないだろう。早くもやることがなくなってしまった。
「それなら決まってる」
「え、発掘許可でも下りたんですか?」
魔導考古学省から発掘許可が下りるのは、早くて1週間ほどだ。もし下りていたとしたら、信じられない早さである。
「いや、それは申請中」
「じゃあ、何するの?」
「一緒に遊ぶ?」
「ここは保育園じゃねぇんだよ」
くつくつと悪役じみた笑い声を上げながら、夏希は信じられないことを口にした。
「自習!」
「職務放棄だ」
「サボタージュだ」
瞬間、双子が夏希を責め始める。
それを宥めたのは、夏希ではなく恭平だった。
「なんか、考えがあるんでしょ? オレにはわからないけど」
「まあな」
「夏希、そればっかり」
「教えてくれてもいいのに」
いつも言葉を濁す夏希に、たまにはこちらにも教えてくれと双子が強請る。
彼女はいつもそうだ。その優れた頭脳から導き出されるアイディアは、並の人間には理解できないとは言え、たまには共有してくれてもいいだろう。
「仕方ねぇな……」
頭を搔きながら、面倒臭そうにしている。その割には、申し訳なさそうな雰囲気も漂っているので、普段からあまり話さないことを気にしていたのかもしれない。
「アイツの魔導適性値が下がってる」
「え」
アイツ、とは天音のことだろう。初めの確認の時以外に、夏希が天音の名を呼ぶことはなかった。これは研究員全員に言えることだが、正式配属となるまであまり名前は覚えないようにしている。去っていく人数が圧倒的に多いからだ。
「まあ、まだ研究員になれるだけの数値はある。ただ……魔導生成値の低下が著しい」
「彼女もともといくつでしたっけ?」
「62」
「わーお」
生成値88の恭平からすれば信じられない数値である。双子はつまらなそうに猫を撫でだした。話に飽きてきたらしい。
「で、今は?」
「51」
「3日でそんな下がります?」
魔導師は日々適性値を計ることを義務付けられている。新人には伝えないことになっているが、地下への扉や各階の入口が適性値を計るゲートの代わりをしていて、通った人間のデータを記録する。これは適性値低下による退職者を見つけるため、そして、侵入者を検知するためでもあり、非常に重要なシステムだ。
このシステムによると、天音は3日間で11も数値が落ちていることになる。本来ならありえないレベルだ。
「明日この話をして、アイツがどう出るかを見る。生成値を上げるためにどうしたらいいか聞かれたら教えてやるし、反対に、何もしないならとっとと退職させる。やりたくないことムリヤリさせてるワケだしな。辞めたいなら辞めさせてやる。魔導考古学省の魔導調査師希望なら推薦状も書いてやる。これなら問題ないだろ」
「むしろ至れり尽くせりじゃないですか? そんなする必要ある?」
「お前、あたしよりよっぽどドライだな……」
「だってそうでしょ。あの清水夏希が、そこまでする必要ないと思います」
「それを決めんのはあたしだ、恭平」
そう言われると、恭平は不満そうな顔をしながらも「はぁい」と返事をした。どうやら、恭平は透と同じような意見のようだ。
「和馬は残る、透と雅は退職、葵は転属。お前たちはどれに賭ける?」
「転属」
「退職」
「退職」
はるかのみ転属、残り2人は退職に賭けるようだ。双子だからといって、全て同じ意見というわけではないのである。
「さーて、どうなるコトやら」
上手くいけば、和馬の1人勝ちだ。
自身の答えは言わぬまま、夏希はにんまりと笑った。
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