【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌

九条美香

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新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する

6月19日、弱点と制約

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 葵と透に授業をしてもらった翌日、天音の教官となったのは和馬だった。食事の仕込みをした後なのか、スパイスのようなよい香りがする。今日はカレーなのかもしれない。

「よろしくお願いします!」

 今日は資料室での授業だった。天音がノートに色々と書いていたことを、技術班の2人が伝えたのだろう。既に机や椅子、紙、ペン、ホワイトボードなどが用意されていた。机の上には、今日の授業で使うと思われる論文が乗っている。

「はい、お願いします。今日は俺の固有魔導と、固有魔導の持つ性質について、お話しできたらと思います」

 まるで講演のような始まりの言葉だった。スライドでもあればプレゼンのように見えたかもしれないが、生憎電子機器の使えないここではホワイトボードに手で書く以外の選択肢がない。

「まず、俺の固有魔導ですね。体を透明にできます。身に着けている服まで透明にできますが、手に持っているものまでは透明化できません。あと、魔導探知値が高い人だと、すぐに見つかります。固有魔導にも弱点があるんです」
「え……弱点なんて、教えてしまっていいんですか?」
「いいですよ、どうせ皆知ってますし。ついでに他の人のもバラしちゃいますね。透くんは、自分より強い人の底上げはできないです。武村さんは自分自身のカルテは見えません。こんな感じで、弱点や欠点は必ずあるんです。だから天音ちゃんの固有魔導にも、弱点や欠点があるはずです。今日はそこを探せたらいいなと思って論文とかを用意してみました」
「ありがとうございます。これは今読んだ方がいいですか?」
「いえ、折角なのでそれは後でにしましょう。内容を簡単に説明するので、その後、一緒に考えていけたらなと思います」

 ちらりと論文を見ると、執筆者に清水零とあった。所長が書いたものか。書くように命令されたに違いない。だが、確実に正確な内容であることは想像できる。

「所長のその論文には、かつての御伽話や民話を例に、魔法の持つ制約について書かれています。12時を過ぎたら魔法が解けるという時間の制約、誰かに見られたり知られたりしてはいけないという秘密の制約、あとは真実の愛が解除条件などといったロマンチックなものも挙げられますね。弱い者が強い者に敵わないのは当然として、それ以外にもこれだけの制約があるんです。占い師が自分のことはよく視えない、というのも制約の1つかもしれませんね」

 キーワードをホワイトボードに書きながら、和馬は話していく。天音の手元の動きをよく確認して、メモをとる時間を作ってくれている。

「あと、よくあるのは、体力の消耗ですね。これは所長ですけど、変身は疲れるそうです。まあ、あの人の疲れる、なんで他の人なら寝込むレベルでしょうけど……あ、あと、知らない動物や、生物以外のものには変身できないらしいです。強力な分、制約も大きいことが多いですね。だから天音ちゃんもかなり多くの制約があると思います」
「私の、制約……」

 一体、どんなものだろう。固有魔導を使えない今、制約なんて思いつきもしなかった。ペンが止まった天音に、和馬は柔らかく微笑む。

「それを一緒に考えましょう」
「は、はい!」

 和馬はホワイトボードに制約、と書いた。「体力を使う」、「知らない、または想像できないものは復活させられない」、という2つが挙げられた。零の固有魔導から考えたらしい。

「こういうの、ありそうじゃないですか?」
「確かに! ありそうですね」

 それを見ながら天音はしばし考えて、「1人のときでないとできない」、「1度発動したら暫く使えない」、「発動まで時間がかかる」の3つを挙げた。それらは全てメモとして控えたが、まるで創作ノートのようになってしまった。

「うん、かなり思いつきましたね」
「そうでしょうか……」
「あとは、天音ちゃんの研究テーマかつ好きなものでもある、ファンタジー小説の中の描写を見てみるのもいいんじゃないかなと思います。完璧な能力はないと思うので」
「それもそうですね」

 自分のこと、と考えすぎてしまうのもよくない。この授業の後に、漫画や小説を見て探してみよう。

「一応、授業は終わりにしますけど、質問はありますか?」
「あ、じゃあ1つだけ。成長と共に制約が緩くなることってありますか?」
「ありますよ。例えば、5分しか使えなかった人が、訓練して10分発動できるようになったりします。ただ、『時間の制約』というもの自体は変わることはないですね」
「そういうものなんですね。わかりました、ありがとうございます」
「いえ。他は大丈夫そうですか?」
「はい、今のところは」
「わからないことがあったら、誰にでも質問していいですからね。じゃあ、残りは自習時間にします」

 和馬は教師のように言うと、「夕飯の仕込みしよう」と去っていった。

(あれ? あの香り、夕飯のカレーの匂いじゃなかったんだ)

 食堂にいることが多いから何かの香りが移っていたのだろうか。そのときは疑問に思ったが、やるべきことが多かったせいか、天音はすぐに忘れてしまった。
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