【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌

九条美香

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新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する

6月25日、誕生日

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 毎月のように発掘調査をしているせいか、天音も流石に慣れてきた。第1研究所は毎日発掘を続けているらしいが、天音には到底ついていけないだろう。今のペースくらいがちょうどいい、と心の底から思った。毎日調査をしていれば、慣れるのは早かったのかもしれないが、やることが多すぎて倒れそうだ。

「そういえば、次は7月1日でしたっけ。何処に行くんでしょう?」

 読んでいた小説が一区切りついたので、天音は顔を上げた。いつの間にか夏希がティーカップを傾けていたので声をかける。最近、彼女が何時何処にいても驚かなくなってきている。傍にいた由紀奈も同じようで、軽く体を跳ねさせるだけに進化した。

「あぁ……1回目と同じトコだ。由紀奈にとっちゃ初めて行くトコだな。県内の丙種遺跡だ」
「同じところですか?」
「まぁ、あそこに資料があるコトは確認できたが、回収できたモンが少ねぇからな。あと、1回調査に行った遺跡は、魔導考古学省の申請許可がなくとも、担当職員が許可出せば行けるから邪魔されにくいってのがホントの理由だ」

 確かに、魔導考古学省にスパイがいるであろう今、その場所へ申請を出すことは危険だ。出さなくて済むのならその方法をとったほうがいい。

「ついでに、天音の固有魔導の訓練もそこでしようと思ってな。県内なら第1や魔導考古学省のヤツらが見に来てるなんてコトもねぇし」
「え、どうしてですか……?」

 雅から出された課題のプリントを埋めていた由紀奈が、手を止めて質問した。癖なのか、はたまた真面目なだけなのか、ペンを置いて利き手を小さく挙げている。

「基本的に、第1研究所の研究員はその地域にしか興味がねぇんだよ。魔導発見の地、首都ってのはある意味ステータスと化してるしな。魔導考古学省の連中も同じだ」

 さらに言うと、旧都は旧都で、かつて陰陽寮があった地としてのプライドがあり、余程のことがなければ転属は希望しないらしい。北部、南部もそれぞれの地域に愛着とプライドがあるため、大抵他所の研究員や遺跡に興味がないのだ。

「それに比べて、ウチはあちこちから引き抜いたヤツばっかだからな。この県に愛着があるわけでもねぇし。恭平だけだろ、この県好きなの」
「え、意外ですね」
「アイツ、誕生日が県民の日らしいぞ。『オレの誕生日が休みってコトはオレ生誕祭なのでは?』とか言ってた」
「言いそうですね」

 思わず笑ってしまった。残念なことに、研究所自体は魔導考古学省の休日と同様なので、県民の日が休みになることはないが。

「あれ、ということは、恭平さんは今おいくつなんですか…?」
「今年で18。成人してない最年少なコト、地味に気にしてたらしい。つっても酒は飲めねぇけど」

 意外とカワイイトコあるよな、と夏希は揶揄うように言った。正直見た目は恭平より年下にしか見えないのだが、ここはあえて何も言わないでおく。

「そうなんですか……って、私、何もお祝いしてないです……」
「お前だってしてもらってないだろ。ここじゃ、夕飯が必ず好きなものになるって決まりなんだよ。お前のときは間に合わなかったから、来年な」
「来年……」

 当たり前のようにそう約束されて、心がじんわりと温かくなった。来年。1年後、天音はここにいると、言外に保障されたような気がして、受け入れられたことが嬉しかった。由紀奈も同じようで、そっと胸に手を当てている。

「由紀奈ちゃん、誕生日いつ? 私、お祝いしたいな」
「あ、えっと、ご、5月3日……」
「ごめん過ぎてた!」
「悪ぃ、お前も来年な!」

 慌てだす天音を見て、フォローするように夏希が言った。さらにこちらに目配せしてくるので、恐らく自分の誕生日を聞けということだと思い、話を振った。

「ふ、副所長の誕生日はいつですか!?」
「7月1日。発掘調査の日だよ。んで、零は12月12日」
「わ、所長の誕生日、縁起がいいですね!」

 魔導において聖なる数字とされている12が2つ並ぶ日に産まれるのは、現代社会の魔導師にとってよいことだとされている。

「魔導発見の日だし、ここの設立記念日でもあるから覚えやすいだろ。おまけに祝日になったし。一応所長だから他の研究員より豪華に祝うぜ。楽しみにしとけよ」
「副所長のお誕生日はなにをするんですか……?」
「零が張り切る」

 その一言で全てがわかってしまった気がする。恐らく、和馬を巻き込んで、自身のものよりも素晴らしい誕生日パーティーにするのだろう。

「まぁでも、こんな仕事じゃ基本的にプレゼント用意するのが難しいからな。気にしなくていいぜ」

 夏希はそう言うと、ティーカップを片付けて、魔導で何処かへ行ってしまった。そのとき、天音は彼女が恵まれた環境で育っていなかったことを思い出した。大方、誕生日を祝うという感覚がなかったのだろう。それに気づいた周囲が、夕食を豪華にしたり、パーティーを開いてみたりして、「誕生日は祝うもの」と教えたのかもしれない。

「恭平さんに、声かけてみようか。遅くなっちゃったけど、って」
「そうだね」

 ケーキもプレゼントも、クラッカーもないけれど、せめて伝えよう。2人は恭平を探すため、食堂を立ち去った。
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