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新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する

同日、服飾についての授業の時

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 葵に聞くと、透は書斎に籠っているとのことだった。ラボは今葵が使ってしまっているし、金属片などで衣装が裂けてしまってはいけない。自室では、天音が質問しに行くことができなくなってしまう。彼はそう言っていたのだという。

「もっと早くに行くべきでした……」
「まあ、そうッスね。でも、自分で頑張ろうとするのもいいコトッス」

 人任せよりはずっといい。葵はそう言って天音を励ました。

 天音はノートと論文を抱えて書斎へ行く。道中、廊下であるのにもかかわらず、何かを閃いてしまった双子が床に紙を置いて文章を書きつけている姿を目撃した。危うく踏むところだった。

「ま、増田さーん……いらっしゃいますかー」

 書斎を覗き込んで、天音は小さく声をかけた。うっすらと淡い黄色の魔力が見える。それと何故か、線香のような香りがした。そうだ、鼻の調子がおかしいから、調査が終わったら雅に診てもらおうと思っていたのをすっかり忘れていた。雅の手が空いているときにお願いしなくては。

「……はい」

 本が日に焼けないよう、薄暗くなっている部屋の奥から、部屋にも負けぬ暗い声がした。本棚の影から、透がひっそりと顔を出す。

「どうしましたか……」

 衣装を作っているというのに、彼は楽しくなさそうだった。悩んであまり眠れていなかったようで、うっすらと隈ができている。

「あ、あの! 本当にすみません! 論文、わからないところだらけで聞きに来ました!」
「あ……」

 瞬間、透の表情がぱっと明るくなった。天音が困っていることを喜んでいるわけではない。天音が質問しに来たこと、自分の論文が簡単すぎたわけではないこと。そして、自分が質問しても怒られない相手だと思われていることに対する喜びだった。

「どうぞどうぞ! どこから話します?」
「さ、最初からお願いします……」

 もう何もかもわからない状態だったので、天音はそう言った。だが、数分後、その言葉を後悔することになるとは、このときはわかっていなかった。











「……以上が内容です。どうでしょうか?」

 すっかり調子を取り戻した透は、凄まじいスピードで話し始めた。論文の概要を話し、天音の質問に答え、さらに発展とばかりに、執筆当時の資料についても話した。その時間、およそ3時間。研究発表会の原稿の6倍を話し、ようやく止まった。一応、天音のペンが止まると説明し直したり、ゆっくり話すようになった。だが、それもほんの数秒のことで、興奮したように早口で話すものだから、天音は気圧されつつ必死にメモをとった。おかげで疑問点は解消された。

「……わ、わかりました、ありがとうございます……」

 話が終わるころには、天音の手は疲れきっていた。受験期よりも、研究所に来てからの方がペンを握っている気がする。

 聞いた話を整理するため、メモを見返しながら、透に確認していく。

「ということは、中世の魔法使いたちは、表向き普通の服を着ていたけれど、今でいう魔導耐久を上げるために魔力を込めながら縫っていたことがあった。けれど、魔女狩りをする側にも、魔導適性……魔法適性が正確ですかね、そういったものがほんの少しだけある人がいて、魔力の痕跡が見える人もいた。だから見つからないように服ではなく、ペンダントやネックレスに魔力を込めて服の下に隠したりしていた、ということですよね? 適性値が低ければ、隠されたものの魔力を見つけることは難しいですし」
「そういうことです。だから僕は、魔力を込めて縫ったものと、そうでないものを用意してみました。あとはこれに装飾品をつけるのと、アニメや漫画から参考になりそうなものを探して作って行こうかと。雅さんにオススメを聞いてきたんで」

 その話を聞いて、天音は1つだけ彼にお願いしたいことがあるのを思い出した。ずっと昔から好きだったファンタジー小説、自分は小説版しか知らないが、確かあれはアニメ化もされていたはず。

「こ、これ……この小説の主人公の衣装も作っていただけませんか?」
「これは?」
「私がずっと好きだった小説で……アニメ化もされているんです。武村さんのお薦めとは違うとは思いますが、できたら作っていただきたくて……」

 それは、天音が私物として持ってきていた小説だった。まだ自分が魔導師になるとすら思っていないころ、繰り返し読んでは魔法を使いたいと願っていた。いわば、天音の原点のようなものだ。

 透は小説を受け取り、じっくりと眺めた。装飾の多いそれの作成にかかる時間を考えているようだ。

「……わかりました。任せてください」
「え」

 断られるかもしれないと思っていたので、驚いて顔を上げる。

「時間がかかりそうなので、無理かと思ってました……」
「むしろ燃えます」
「も、もえ……?」
「やってやんよ! って感じですかね。僕に任せてください。最高なのを仕上げてみせますよ」

 落ち着き始めていた透が、また静かに興奮していくのを、天音は感じ取っていた。

「装飾品を作るときだけお願いしてもいいですか? 色味とか、一緒に見ていきましょう」
「はい!」
「原稿は僕も手伝うので。お互い協力して作り上げていきましょうね。迷惑とか、考えないでください。僕たちはチームですから」

 念を押すようにそう言われて、天音は深く頷いた。頼ることを恐れてはいけない。聞かねば始まらないことも多くあるのだから。

「改めて、よろしくお願いします!」
「はい、お願いします」

 差し出された透の手を、天音は強く握った。
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