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新人魔導師、研究発表会の準備をする
7月18日、第5研究所の恋愛事情
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翌日、天音が書斎に行くと、すでに透が来ていた。1針1針、丁寧に魔力を込めながら衣装を縫っている。天音にはできない技だ。
「わっ、どうしたんですか!?」
一晩中悩み、よく眠れなかった天音の顔は想像以上に酷かったらしい。針を置いた透が駆け寄ってきた。
「原稿のことで悩んでます? 大丈夫です、所長から僕が預かりました。一旦できてるところまで確認して、お返ししますね。それまでは少し休んでてください。そうそう、休暇をとってどこかへ行くのもありですよ!」
休暇。その一言に、天音はびくりと肩を震わせた。
「えっ、何、そんなに休暇が嫌なんですか!? この社畜!」
「ち、違います! ただ、ちょっと……もうわけがわからないというかなんというか……助けてください!」
「わかりましたから落ち着いてください!」
透はどうにか天音を座らせ、深呼吸させて落ち着かせた。興奮した人間の扱いに慣れている。葵で慣れたのだろう。同じ扱いを受けているのは少しショックだった。
「それで? 何がわからないんですか?」
「……人の心……ですかね……」
「なんですかそれ。哲学ですか? 僕の知らない間に何があったんですか」
「え、ええと」
天音はどもり、詰まりながらもゆっくりと話した。恭平に休暇中一緒に出掛けようと言われたこと、それを聞いてどうしたらよいかわからなくなってしまったこと。そもそも、なぜ彼が誘ってくれたのかもわからないこと。それを考えていたら眠れなくなってしまったこと。
「……何となくはわかりました」
「増田さんは、同じ職場の異性の方と休暇中に2人で出掛けようとか誘いますか?」
「だっ、誰が班長なんかと!」
「北山さんとは言ってませんけど……」
「あー!」
透は天音の声をかき消すように叫んだ。珍しく、魔導衣以外でおかしくなっている。その様子を見て、流石の天音も気づいた。
「増田さんって、北山さんのこと好きなんですね」
「はあ!? 何で僕が、あんなだらしなくて放っておいたら寝食どころか風呂まで忘れて3日3晩そのままな人のことを好きだなんて結論になるんですか!?」
「そうやってムキになってるところが証拠かと」
天音がそう言うと、透は耳まで赤くなっていた。苛立ちを誤魔化すように舌打ちしている。俯いて顔を隠し、深い溜息を吐いた。
「……僕の話はいいんですよ。問題は恭平くんでしょう」
わかりやすく話をすり替えた透だが、天音はあえて追求しなかった。せめてもの優しさである。
「あ、はい。ええと、私の中では、異性と2人きり、というのは特別な仲でもない限りあり得ないんですけど、一般的にはどうなんでしょうかって話です」
「どうでしょうね。僕だったらしませんけど。恭平くんはちょっとコミュニケーション能力に問題があるので」
いつになくぶっきらぼうな口調で透は返す。それだけ、葵への想いを知られたのが嫌だったようだ。
「コミュニケーション能力に問題……ううん、何か、思わせぶりな発言はしてましたけど、そんなに問題あります?」
今の天音サンなら好きになれそう、みたいなことは言われたが、それ以外に天音は彼のコミュニケーション能力に問題があると感じたことはなかった。
「今でこそ丸くなりましたけどね。昔は、天才だってもてはやされて、相当天狗になってましたよ。それこそ、毎日のように副所長に決闘を申し込んだりしてました」
元々、恭平は第1研究所で特定魔導保護対象として保護されていた。だが、その性格からいくつも問題を起こし、第5研究所ができると同時に厄介払いのように異動させられたのだという。自分よりも見た目の幼い夏希に配属先を決められたことも、従うことにも納得いかなかった恭平は、自分の実力を示すために毎日決闘を申し込んだ。当然、毎回夏希が圧勝し、およそ1年に及ぶ戦闘の後に、恭平は彼女の下につくことを決めたらしい。
恭平が、「夏希が声をかけてくれて、今に至る」とざっくり説明していた裏には、そんな事情があったのだ。
「少なくとも、人との接し方がよくわかってない面はあると思いますよ」
「それは確かに……」
そう言えば、上司のカツラを剥ぎ取ったりしたことがあると言っていた。確実に人との接し方に問題がある。
「だから天音さんの問題ですね。誘われて、嫌だったんなら断ればいいでしょう。そうじゃないなら行ってみればいいんじゃないですか」
天音は腕を組み、考え込んでしまった。嫌だったか、と問われればそうではないと答えられる。ただ、驚きが勝ってしまっただけだ。
「……嫌ではなかったので、行ってみます」
しばし悩んだ末に、天音はそう言った。恭平が誘ってくれた理由はわからない。けれど、折角声をかけてくれたのだから、行ってみようと思う。
「恭平さんと話をして、休暇の日程を決めてきます」
「はい、いってらっしゃい。基本的に希望どおりの日程に申請できますから、安心してくださいね」
透はひらひらと手を振って天音を見送った。
「……一大事だな。よし!」
揶揄うネタができたとばかりに、透は2つの折り鶴を用意した。1つは和馬のもとに、もう1つは零のもとに飛ばす。
「多分恭平くんは気づいてないだけで天音さんのこと好きだぞ、これ」
本人たちの知らぬ間に、作戦会議開始である。
「わっ、どうしたんですか!?」
一晩中悩み、よく眠れなかった天音の顔は想像以上に酷かったらしい。針を置いた透が駆け寄ってきた。
「原稿のことで悩んでます? 大丈夫です、所長から僕が預かりました。一旦できてるところまで確認して、お返ししますね。それまでは少し休んでてください。そうそう、休暇をとってどこかへ行くのもありですよ!」
休暇。その一言に、天音はびくりと肩を震わせた。
「えっ、何、そんなに休暇が嫌なんですか!? この社畜!」
「ち、違います! ただ、ちょっと……もうわけがわからないというかなんというか……助けてください!」
「わかりましたから落ち着いてください!」
透はどうにか天音を座らせ、深呼吸させて落ち着かせた。興奮した人間の扱いに慣れている。葵で慣れたのだろう。同じ扱いを受けているのは少しショックだった。
「それで? 何がわからないんですか?」
「……人の心……ですかね……」
「なんですかそれ。哲学ですか? 僕の知らない間に何があったんですか」
「え、ええと」
天音はどもり、詰まりながらもゆっくりと話した。恭平に休暇中一緒に出掛けようと言われたこと、それを聞いてどうしたらよいかわからなくなってしまったこと。そもそも、なぜ彼が誘ってくれたのかもわからないこと。それを考えていたら眠れなくなってしまったこと。
「……何となくはわかりました」
「増田さんは、同じ職場の異性の方と休暇中に2人で出掛けようとか誘いますか?」
「だっ、誰が班長なんかと!」
「北山さんとは言ってませんけど……」
「あー!」
透は天音の声をかき消すように叫んだ。珍しく、魔導衣以外でおかしくなっている。その様子を見て、流石の天音も気づいた。
「増田さんって、北山さんのこと好きなんですね」
「はあ!? 何で僕が、あんなだらしなくて放っておいたら寝食どころか風呂まで忘れて3日3晩そのままな人のことを好きだなんて結論になるんですか!?」
「そうやってムキになってるところが証拠かと」
天音がそう言うと、透は耳まで赤くなっていた。苛立ちを誤魔化すように舌打ちしている。俯いて顔を隠し、深い溜息を吐いた。
「……僕の話はいいんですよ。問題は恭平くんでしょう」
わかりやすく話をすり替えた透だが、天音はあえて追求しなかった。せめてもの優しさである。
「あ、はい。ええと、私の中では、異性と2人きり、というのは特別な仲でもない限りあり得ないんですけど、一般的にはどうなんでしょうかって話です」
「どうでしょうね。僕だったらしませんけど。恭平くんはちょっとコミュニケーション能力に問題があるので」
いつになくぶっきらぼうな口調で透は返す。それだけ、葵への想いを知られたのが嫌だったようだ。
「コミュニケーション能力に問題……ううん、何か、思わせぶりな発言はしてましたけど、そんなに問題あります?」
今の天音サンなら好きになれそう、みたいなことは言われたが、それ以外に天音は彼のコミュニケーション能力に問題があると感じたことはなかった。
「今でこそ丸くなりましたけどね。昔は、天才だってもてはやされて、相当天狗になってましたよ。それこそ、毎日のように副所長に決闘を申し込んだりしてました」
元々、恭平は第1研究所で特定魔導保護対象として保護されていた。だが、その性格からいくつも問題を起こし、第5研究所ができると同時に厄介払いのように異動させられたのだという。自分よりも見た目の幼い夏希に配属先を決められたことも、従うことにも納得いかなかった恭平は、自分の実力を示すために毎日決闘を申し込んだ。当然、毎回夏希が圧勝し、およそ1年に及ぶ戦闘の後に、恭平は彼女の下につくことを決めたらしい。
恭平が、「夏希が声をかけてくれて、今に至る」とざっくり説明していた裏には、そんな事情があったのだ。
「少なくとも、人との接し方がよくわかってない面はあると思いますよ」
「それは確かに……」
そう言えば、上司のカツラを剥ぎ取ったりしたことがあると言っていた。確実に人との接し方に問題がある。
「だから天音さんの問題ですね。誘われて、嫌だったんなら断ればいいでしょう。そうじゃないなら行ってみればいいんじゃないですか」
天音は腕を組み、考え込んでしまった。嫌だったか、と問われればそうではないと答えられる。ただ、驚きが勝ってしまっただけだ。
「……嫌ではなかったので、行ってみます」
しばし悩んだ末に、天音はそう言った。恭平が誘ってくれた理由はわからない。けれど、折角声をかけてくれたのだから、行ってみようと思う。
「恭平さんと話をして、休暇の日程を決めてきます」
「はい、いってらっしゃい。基本的に希望どおりの日程に申請できますから、安心してくださいね」
透はひらひらと手を振って天音を見送った。
「……一大事だな。よし!」
揶揄うネタができたとばかりに、透は2つの折り鶴を用意した。1つは和馬のもとに、もう1つは零のもとに飛ばす。
「多分恭平くんは気づいてないだけで天音さんのこと好きだぞ、これ」
本人たちの知らぬ間に、作戦会議開始である。
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