【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌

九条美香

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新人魔導師、研究発表会の準備をする

8月3日、占い師からの手紙と予言

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 翌朝、食堂に向かった天音は、まだ生温かい視線を感じながら朝食をとっていた。居心地が悪い。何もしていないのに逃げ出したくなった。

「あっ」
「え、あ」
「お、おはようございます……」
「おはよう、ございます……」

 何故か隈を作った恭平が食堂に現れた。お互い何故か気まずく、視線を合わせられない。

「ええと、その。きょ、今日は早起きですね……?」
「カラシのせいで……いやあの、なんでもないです」
「増田さん?」
「服のコトになるとテンション上がりすぎなんですよ……」

 次回のデートに向けて、透は恭平に服を作ろうとしているのだが、それを知らない天音は、仕事熱心だなあと捉えた。発表会用の衣装作りについて、恭平に語っていたと考えたのだ。

「あー、えっと。天音サン、昨日は……」
「あ、はい……?」
「な、なんでもないです、忘れて!」
「青春真っ盛りなトコ悪ぃな。天音、いいか?」

 何かを聞きたかったらしい恭平は、口ごもると走り去ってしまった。1人取り残された天音に、後ろから夏希が声をかけた。

 休日だというのに、彼女は魔導衣を纏っていた。表情の読めない顔でこちらを見つめている。揶揄う気はなく、ただ思ったことを口にしただけのようだ。

「青春真っ盛り……とは」
「見たまんま」

 夏希は椅子に座る天音の耳元で、そっと囁く。

「美織から手紙だ。あたしの部屋に来れるか?」
「はい!」

 食器を片付けると、天音は慌てて立ち上がった。それを確認すると、夏希は静かに歩き出す。書斎の本を引き抜いて、地下への入口を開けた。

「休みの日なのに悪ぃな」
「いえ、私も気になっていたので」

 発表準備や恭平とのデート(仮)など色々なことがあったが、美織のことは忘れていなかった。彼女は今どうしているのだろうか。

「まぁ入れ」

 副所長室に入ると、夏希は防音の術を使った。しっかりと発動したのを確認して話しだす。

「前に寮だった場所があるって言っただろ」
「はい」
「取り壊されたせいで、そっちにはなんの術もかかってなくてな。ただの空き地なんだ。そこを掘り返したような跡があった。そこを見たら、これがあったってワケだ」

 これ、と夏希が出したのは、紙が入った瓶だった。それを開けると、天音に中身を差し出す。

〈研究発表会の日、真実がわかる〉

「『追伸、私は無事。心配しないで』……これ、本当に高木さんですか?」
「美織の字だし、下を見てみろ。銀のインクでMって書いてある」
「あ……高木さんの魔力の色ですね」
「それと、自分の安否より占いを優先させるトコ。確実に美織だ」

 夏希は天音が手紙を読んだのを確認すると、魔導で火をつけて燃やした。万が一、捜査されても問題ないように、念には念を入れる。

「わざわざ危険を冒してまで伝えてくれたんですね……」

 美織を疑っていた自分が恥ずかしくなってきてしまった。彼女は捕まるかもしれないというのに、第5研究所にこのことを伝えたのだ。勿論、このことが全て嘘で、皆を誘い出す罠だという可能性もあるが。

「ま、『運よく』誰にも見られなかったんじゃねぇの」
「あ、そうですね。それに、高木さんなら未来も視えますもんね!」
「いや」
「え?」

 美織は百発百中の占い師ではなかったのか。首を傾げる天音に、夏希は「あたしも詳しくはねぇけど」と前置きして説明した。

「占い師ってのは、自分のコトは占えないか、占えてもよく視えねぇモンらしい」
「なら、高木さんは自分の未来はわからないってことですか?」
「そうなるな。わかってたら襲撃を受ける前に逃げるだろ」
「あ……それもそうですね」

 そう言われて納得した。天音は占術魔導を使えないので、詳しいことは知らなかったのだ。

「占術魔導は才能10割の世界だからな。あたしも大したコトはできねぇよ。零もな」
「才能があるって、どうわかるんでしょう?」
「見極めんだよ、占術魔導が得意なヤツが。感覚らしい。美織曰く、ウチには向いてるヤツはいねぇんだと。確かにそんな気はするわ」

 天音は他の研究員を思い浮かべる。誰1人、占い師姿が似合う者がいない。特に葵は、天気を当てる占いではなく、天気を当てる機械を作り出しそうだ。

「とりあえず、発表会の日も美織のお守りはつけとけよ。できるだけ外すな」
「はい」

 今も胸元にあるお守りを、天音は服の上からそっと押さえた。

「……もし、高木さんが本当に犯人だったら、副所長はどうしますか?」

 自分だったら。信頼している相手―夏希や零たち―がこちらを裏切っていたと知ってしまったら、きっと立ち直れない。夏希はどうだろうか?

「そうだな……美織をぶん殴る。そんで、正しかったお前に、否定して悪かったって謝罪だな。もしそうなったら、あたしのコトは童顔のチビって呼んでもいいぜ」
「呼びませんよ!」
「あぁ、じゃあ好きに呼んでいいぞ」
「提案が気に入らなかったわけじゃないです!」

 夏希はケタケタ笑っている。天音の反応が面白かったようだ。ひとしきり笑うと、急に真面目な顔になる。

「なんにせよ、発表会を乗り越えねぇとな」
「……はい」

 研究発表会は、約1ヶ月後に迫っていた。
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