【完結】魔王になった私を助けようと勇者になって来てくれた君の記憶を取り戻すため、勇者の使命を魔王の身体で果たすことになってしまったのだが

夜炎伯空

文字の大きさ
2 / 10

2話 出発前夜(前編)

しおりを挟む
「それにしても見事にみんないなくなったわね……」

 元々、根城にしていた迷宮ダンジョンには、無数の魔族がいたのだが、今は一人も残っておらず、殺伐としている。

 因みに、エンはまだ目覚めておらず、私の寝室のベッドの上で横になっている。

「それはイラ殿が勇者を仲間にするとか言い出したからですよ……」

 擬人化している古代竜エンシェントドラゴンのドラグラが、こうなってしまった理由を説明した。

 擬人化しているドラグラの容姿は、髪が白髪で眼はエメラルドグリーン、頭部の横に角が二本、背中には翼が生えている。

「だって、まさかこんなことになるとは思わなかったし――」

 私、憤怒の魔王イラは、古代竜エンシャントドラゴンのドラグラ、食人鬼オーガのオムガ、一角獣ユニコーンのユ―リスの三体の|幻獣(げんじゅう)を中心に、魔族達を組織的にたばねていたのだが……

 ついさっきまで戦っていた勇者を仲間にするとか言ってしまったものだから、「やってられない」と言って、魔族達は次々に去って行ってしまった。

「はぁ、本当に違う世界の人間が魔王様に転生されていたのですね……」

 ドラグラは溜息をつきながらそう呟いた。

 幻獣達には、既に私が転生者であることは伝えてある。

「はい……、意識を取り戻した直後に魔王軍を解体させるようなことをしてしまい、申し訳ありませんでした……」

「あ、いえ、そのことに関しては、あまり気になさらないでください。ちょうど、私も自由の身になりたいと思っていたところでしたので――」

「そ、そうなの?」

「はい、魔王様と配下の魔族達の間では、考え方の違いがあって、私は板挟みにあっていたんですよね……」

 ドラグラがしみじみとそう言った。

 中間管理職というのは、どこの世界でも大変なようだ……

「でも、ドラグラが残ってくれたから助かったわ」

 ドラグラは、古代竜エンシェントドラゴンと呼ばれているだけあって、この世界についての知識にけていた。

「ま、まあ、私の知識を必要としている人が目の前にいるのに、助けないのは古代竜エンシェントドラゴンとして名折なおれですから――」

 そう言うと、ドラグラは照れた様子でそっぽを向いた。

 うん、ドラグラはきっとツンデレだな……

「それと、オムガとユ―リスも残ってくれて、ありがとう」

 そう言って、私がお辞儀をすると。

「ワーハハハハハ!! お前が作ってくれた飯は美味かったからな!!」

「ぼ、僕には、イラ様しか、と、友達がいませんので……」

 食人鬼オーガのオムガと、一角獣ユニコーンのユ―リスは、それぞれそう答えた。
 
 二人とも今は擬人化している。

 オムガは赤髪灼眼でひたいに角が二つ生えている。
 
 衝動的でこう見ずな性格だ。

 種族は食人鬼オーガと呼ばれているが、人を食べていたのは遠い先祖のことで、今は人を食べる風習はないらしい。

 私がこの世界で作った和食モドキが気に入ったらしく妙に懐かれてしまった。

 祖父母のために作っていた料理の経験が、こんなところで役に立つなんてね……

 私は思わず苦笑した。
  
 ユ―リスは銀髪にっすらと虹色が入った髪の色と紺色の目をしていて、額に角が一本生えている。
 
 誰かに依存したいという思いが強く、何事も自分では決められない性格のようである。

「それで、今後のことなんだけど――」

 勇者の使命を代わりに果たすということは、他の魔王を倒すということ。

 魔王を倒すのであれば、まずは単独で行動している怠惰の魔王か色欲の魔王がいいんだろうけど……
 
 怠惰の魔王は居場所が分からないし、色欲の魔王は――

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「エン!?」

 突然、私の寝室からエンの叫び声が聞こえた。

 バンッ!

 急いで寝室のドアを開ける。

「あら、バレちゃった?」

「あ、あなたは誰ですか!?」

 目を覚ましたエンが、色欲の魔王ルクスリアを見て怯えていた――

「ちょっと、ルクスリア!! エンに一体何をしたの!!」

「何って、あたしは色欲の魔王だから、夜這よばいをしようかと……」

「勝手に入って来て、人の寝室で夜這いしないで!!」

「ちぇっ、イラの魔王軍が解散したって聞いたから、わざわざ来てあげたのに――」

「いや、来るのはいいんだけど、人の彼氏を誘惑するのはやめて……」

 色欲の魔王ルクスリアは憤怒の魔王イラと仲がよかったので、私にとっても顔見知りではある。
 
「もう、冗談だって。私が独り身の男にしか関心がないのは、イラも知ってるでしょ?」

「まあ、それはそうだけど……」

 そう、ルクスリアは色欲の魔王と呼ばれながらも、彼女や妻がいる男性には何故か興味がない様子なのだ。

 ――なので、魔王とは呼ばれているものの、正直、ルクスリアを倒したところで、大した功績にはならないと思っている。

 一応、向こうは友達と思ってくれてるみたいだし……
 
 倒すのは、何だか気が引ける。

「それにしても、あんなに勢力拡大を図っていたイラが、勇者と恋人になるために全てを捨てるなんて――、どんな男なのか気になってしょうがなかったわ」

「ま、まあ、大切な人であることは否定しないけど――」

 恋人と言われて私は顔が真っ赤になった。

 エンの記憶が戻ったら、私達は本物の恋人になれるのだろうか……

 以前、私が告白した時、「僕も好きだよ」とは言ってくれたけど、病気が治るまでは恋人にはなれないって言われたから――

 あの時の約束が、まだ有効だったらいいんだけど……

「それより、ルクスリアがここにいるってことは、まさか――」

「色欲の魔王ルクスリア!! ここにいるのは分かっているのよ!!」

「やっぱり……」

 純愛の勇者ミリアンナがルクスリアを追いかけて来ていた。
 
 ミリアンナは金髪碧眼が特徴の美少女。

 私には忍耐の勇者エン、色欲の魔王ルクスリアには純愛の勇者ミリアンナといった感じで、それぞれの魔王には対峙している勇者がいる。
 
 ガチャ!

「見つけたーー!!」

「ヤバッ!」

 ミリアンナはルクスリアを見つけるや否や、そう叫んだ。

 いや、人の寝室でバトルを始めるのは止めてほしいのだが……
 
 その前に、二人とも勝手に人の寝室に入らないでほしい――

「ちょっと、待って!!」

「「え?」」

「え? じゃないわよ!! 二人のせいでエンが怯えてるじゃない!!」

 記憶を失った状態で目を覚まして、知らない人達のバトルに巻き込まれそうになっているのだから、怖がらない方が難しい。

「あ、ごめん、イラ」

 ルクスリアはさすがに悪いと思ったのか素直に謝ってきた。

「エン様?!」

 ――が、ミリアンナは違う反応をしめした。

「エン様、お久しぶりです。……お元気にされていましたか?」

「――君、だれ?」

 ガーン!

「エ、エン様……」

 ミリアンナがショックを受けている。

「あ、違うから――、エンは記憶を失っているのよ……」

「……記憶を失ってるって、どういうことですか?」

 取り敢えず、滅茶苦茶になっているこの事態を収集するため、私は今までの事のあらましを、ルクスリアとミリアンナに説明した――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...