【完結】魔王になった私を助けようと勇者になって来てくれた君の記憶を取り戻すため、勇者の使命を魔王の身体で果たすことになってしまったのだが

夜炎伯空

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3話 出発前夜(後編)

「そんなことがあったのね……」
「そんなことがあったんですね……」

 ルクスリアとミリアンナは、神妙な面持おももちで呟いた。
 
 客観的に見ると、魔王の寝室で、魔王二人と勇者二人が話をしているという異常な光景になっている。
 
 更にそこに擬人化した幻獣が三人もいるが――

「それでしたら、私がエン様を引き取ります」

「え?」

 ミリアンナからの突然の提案に、私は不意を突かれた。

「だって、勇者の私の方がエン様のために、功績を早く上げられますよね」

 痛いところをついてくる。

 正直、正論過ぎて全く反論ができない……

 天然風にも見えるが、勇者と呼ばれているだけあって頭も回るようだ。

 エンの方を見ると、何の話をしているのかわからずにキョトンとしている様子だった。

 できれば私がエンの記憶を取り戻したかったけど……

 でも、それは、私の願望であって、少しでも早くエンが記憶を取り戻せるのなら――

「エンはミリアンナと一緒に行った方がいいのかもしれませんね……」

「……あなたは本当にそれでいいの?」

 ルクスリアが私を気遣ってそう言った。

 本当は嫌だ。

 エンが他の女性と一緒に冒険するなんて――

 だけど、私の我がままでエンを振り回すわけにはいかない。

「うん、魔王の私より、同じ勇者と一緒にいた方がいいんだよ……」

「分かりました。そういうことでしたら、エン様は私が責任を持って――」

 ギュッ!

「え?」

 ミリアンナが台詞セリフを言い切る前に、私の後ろからエンが私を抱き締めた。

「……ボクはイラと一緒にいます」

「エン……」

 え、え、嬉しい。

 嬉し過ぎるんだけど。

 記憶がないはずなのに、今は魔王の姿をしているのに――

 ……エンは私を選んでくれるの?

「エン、ありがとう……、気持ちは嬉しいけど、私は魔王だから――、エンはミリアンナと一緒に行くべきなんだよ」

 私が諭そうとするが、エンは頑なに首を横に振っている。

 そして――

「記憶を失っているから、よくはわからないけど……。イラから離れたらいけない。何故かそんな気がするんだ……」
 
 と、エンはそう言ってくれた。

「うぅぅぅぅぅぅぅ、エーーン!!」

 ギュッ!!

 私は気がつくとエンを強く抱き締めていた。

「イラ……」

 エンは微笑しながら、私の頭を撫でてくれた。

 昔からそうだった――

 病気でエンの方が身体は弱いはずなのに、心はエンの方がいつも大人で……

 私はいつもエンに慰められていた。
 
「あー、これは、イラと一緒に行くしかないんじゃない?」

 こともなげにルクスリアはそう言った。

「残念……。――じゃなかった、エン様がそうしたいのであれば仕方がないですね」

 ミリアンナもしぶしぶ納得してくれた様子だ。

「……でも、私も同行はさせていただきますよ」

「そ、そうなの?!」

「だって、記憶を失った勇者が魔王と冒険するなんて、不安で仕方がないもの」

 な、何も言い返せない……

 きっと、エンと一緒にいたいという下心したごころもあるのだろうが、言っていることは間違っていない。
 
「……ルクスリアのことはいいの?」

「イラ!?」

 最後の抵抗で、私は勇者の使命を出した。

「こ、この裏切者――」

 ルクスリアが恨めしそうにこちらを見ている。

 ごめん、ルクスリア……
 
 これしか、もう手段がなくて――

 私は心の中でルクスリアに謝った。

「うーん、確かに、勇者としてルクスリアのことは監視していないといけないだけど……」

 そうそう。

 純愛の勇者としての使命を忘れないで――

「そもそも、ルクスリアって大して悪いことしていないし、イラさんともお友達みたいだから、わざわざルクスリアを追いかける必要もないのかなって」

 ぐはっ!

 終わった。

 もう断る手段は、何も残っていない……

「――ということで、これからもよろしくお願いしますね、イラさん」

 ミリアンナはそう言いながら、笑顔で手を差し出した。

 どこが純愛の勇者なのよ!!

 むしろ、小悪魔だよ!!

 私は心の中で、そう叫びつつ――

「はい、よろしくね、ミリアンナ」

 表では固く握手を交わした。

 ◇

「エン様と一緒に旅ができるなんて夢のようです」

 私達は取り敢えず一番近くにあるミストラント王国の城下町へと向かって旅を始めた。

「あ、うん……」

 ミリアンナがエンに肩を寄せて歩いている。

 ぐぅぬぬぬ!

 記憶がなくなっているとはいえ、久しぶりにエンと一緒にいられるのに!!

 私は部下達の手前、我慢してるのに!!

「どうして、こうなっちゃったのよーーーーーーーーー!!!」

 私は心の声を通り越して、無意識に大声で叫んでしまっていた――
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