【完結】魔王になった私を助けようと勇者になって来てくれた君の記憶を取り戻すため、勇者の使命を魔王の身体で果たすことになってしまったのだが

夜炎伯空

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8話 ヒュドラ退治(中編)

「うわぁぁぁぁぁぁん!! 行かないでぇぇぇぇ、ミリアンナたーーーん!!」

「え、だって、エンが行くのに私が行かないとかないし――」

 私達と一緒に九頭巨大毒蛇ヒュドラ退治に行こうとしているミリアンナを、ハザンが必死に止めようとしていた。

 ……私への依頼が決まった時は、ニヤって笑みを浮かべていたのに、あからさまに差別してない?

 九頭巨大毒蛇ヒュドラ退治の依頼を受けてから、小人妖精ドワーフのダッフルに装備を作ってもらう素材集め等々、半月ほどの準備期間を経て、今日、ようやく討伐の日を向かえた。 

「だったら、じーじも行くーーーー!!」

「おじいちゃんはギルドから離れられないから私達が行くんでしょ!!」

「だって、だって、ミリアンナたんが心配なんだもん……」

 ハザンが急に乙女のようになった。

「もう、いい加減にして!!」

 ドカッ!!

「はぐわぁ!!」

 ミリアンナがハザンに回し蹴りをくらわせた。

「ちょっと、さすがにそれはやり過ぎなんじゃ……」

 いくらギルドマスターとはいえ年も年だし――

 勇者であるミリアンナの回し蹴りをまともに受けたら怪我をしてしまうのでは……

「うーん、大丈夫だと思うよ、おじいちゃん、元勇者だったし」

「――今なんて?」

 聞き間違いだろうか……

「え? だから、おじいちゃんは先代の勇者だから大丈夫って……、あれ、言ってなかったかな?」

 それは初耳だった。
 
「世の中には、色々な勇者がいるんだね……」

 私はしみじみと呟いた。

「でも、確かにやり過ぎだったかも――。ごめんね、おじいちゃん……」

「ありがとう、ミリアンナたーーーーん!!」

 ガシッ!

「うっ……」

 ハザンに抱き上げられたが、ミリアンナは蹴り飛ばすのを我慢している。

「まあ、いっか――」

 そう言って諦めた顔をしつつも、本音はそんなに嫌ではないのだろう。

 ミリアンナも最後には微笑していた。

   ◇

「もう少しで九頭巨大毒蛇ヒュドラがいると言われている沼にたどり着くから、作戦の確認をしておいた方がいいわよね」

「その方がよいと思います」

「まずは倒し方について、九頭巨大毒蛇ヒュドラの首は、はねても次々に再生してしまう。ただ、切り口を焼くと新しい首ははえてこないので、首を切った後は火属性の魔法や雷属性の魔法で切り口を焼く必要がある。また、九頭巨大毒蛇ヒュドラの中央の首だけは切っても死ぬことのない不死の首のため、その首を切り落とした後は、巨岩の下敷きにして潰すなどしなければならない――以上」

 みんな内容を理解し頷いた。

「前衛は作戦通り私とエンとドルグラとオムガで行くわ」

「ガハハハハ! 俺が前衛なのは当然だな!!」

 オムガはやる気満々なようだ。

「そして次に、身を護る方法だけど、九頭巨大毒蛇ヒュドラの吐き出す毒を吸い込むと、身体に毒が回り、最悪の場合は死に至ってしまう。その猛毒を防ぐために、ユーリスの瘴気遮断ミアズマ・クォアランティーンという補助魔法を全員にかけておくことが必須になるわ」

 逆に言えば、万が一ユーリスが不測の事態で補助魔法を使えなくなった時には、全ての作戦が困難になる。
 
 そのため、ミリアンナには、ユーリスの専属護衛をお願いした。

 まあ、あの後、ハザンにこっそりと土下座をされて、九頭巨大毒蛇ヒュドラから遠い後方に、ミリアンナを配置したというのが本当のところなんだけど……

 私はその時のハザンの必死な姿を思い出しながら苦笑した。

「後衛はユーリスとミリアンナでお願いね」

「わかりました」
「はい」

 二人は素直に声を合わせて返事をした。


「いよいよね……」

 九頭巨大毒蛇ヒュドラがよく目撃されているという沼地へとたどり着いた。

九頭巨大毒蛇ヒュドラ!! 早く出てこーーーーい!!」

 ――オムガのその闘争力はどこから出てくるの?
 
 私なんかは、できれば戦いたくないとか思っちゃうんだけどなぁ……

 ヌボォォォォォォォォォ!!

 オムガが呼んだから出て来たというわけではないのだろうが――

 広大な沼地から九頭巨大毒蛇ヒュドラが姿を現した。

『人間の匂いがしたから出てきてみたのだが……。人間は二人だけか……』

「え? 何か、声が聞こえるんだけど……」

「あ、それは、魔王の力の一つですね。魔に属する者の声を、直接、脳で聞き取れるようです」

 さすが古代竜エンシェントドラゴンのドラグラ。

 しっかりと説明をしてくれた。

『まあいい、久しぶりの人間だ。二人だけだったとしても、おいしく食べさせてもらおう――』

 うげっ!

 聞こえない方がよかったかもしれない……

 炎竜ファイアードレイクみたいに、本来は害がない存在であれば、倒すのにも躊躇したかもしれないが、どうやらその心配はなさそうだ。
 
 今まで一体何人の人間を食べてきたのか……
 
 でも――

 それも今日でお終い。

「全力で退治するわよ!!」

「うん!」
「はい!」
「おう!」

 エン、ドラグラ、オムガは、三者三様に返事をした。

瘴気遮断ミアズマ・クォアランティーン!!」

 ユーリスが全員に補助魔法を唱えた。

「うっひょーーーい!! 俺が一番乗りだーーーーー!!」

「あ、ちょっと!」

 オムガが我慢できずに、九頭巨大毒蛇ヒュドラに突っ込んで行った。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「もう、仕方がないわね……。じゃあ、いつもみたいに、みんなでオムガをフォローするわよ!」

『こざかしい!! 猛毒息ポイズンブレス!!』

 九頭巨大毒蛇ヒュドラが、突っ込んで来たオムガに向かって毒のブレス
を吐いた。

 瘴気遮断ミアズマ・クォアランティーン九頭巨大毒蛇ヒュドラの周囲に広がっている毒は防ぐことができるが、猛毒息ポイズンブレスはどこまで防げるか分からないので、直撃は避けてほしいとユーリスは言っていた。

「やれやれ、その勇気は称えますが、無茶はよくありませんね……。古代魔法消滅エンシェント・アナイアレーション!!」

 ドラグラの古代魔法によって、九頭巨大毒蛇ヒュドラが放った猛毒息ポイズンブレスが無効化されていく。

『なに?!』

 ……さりげなく、凄い魔法使ってない?

 さすがの九頭巨大毒蛇ヒュドラも驚愕している。

狂戦士バーサーカーーーーー!!」

 ズシャッ!

「グアァァァァァァァァァァ!!」

 オムガが大剣で九頭巨大毒蛇ヒュドラの首の一つを切り裂いた。

 ドスッ!

稲妻ライティング!!」

 九頭巨大毒蛇ヒュドラの首が地面に落ちたのを確認して、エンが雷属性の魔法を使って切り口を焼いた。

闇沼手ダーク・スワンプハンド!!」 

 ドゴーーン!!

 私は闇属性の魔法を使って、沼でできた巨大な手を作り出し、九頭巨大毒蛇ヒュドラをぶん殴った。

「グッ!」

「どおぉぉぉぉぉぉりゃーーーーー!!」

 グシャッ!

 九頭巨大毒蛇ヒュドラが怯んだその隙をついて、オムガが新たに首を切り落とす。

稲妻ライティング!!」

 すかさず、エンが雷属性の魔法を使って切り口を焼く。

 ――強い。

 王国が手をこまねいている案件なのだから、九頭巨大毒蛇ヒュドラが弱いはずはない。
 
 このパーティのメンバーが強すぎるのだろう……

 しかし、慢心は身を滅ぼすという言葉を、この後、私は身をもって体験することになる。

 この時に、もっと気を引き締めていれば、あんな悲惨な結末を迎えることはなかったのだから――
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