ヤンデレ姫と一途な星

七井 望月

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思い出の場所

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 ……俺と、黒薔薇有栖とが付き合い始めてから幾許もの時間が過ぎた。

 一目瞭然な、明らかな祟り神に触れてしまったと、付き合い始めの頃の俺は思っていたのだが、思いの外、俺達は気が合い馬が合い、気付けば当初の不信感は何処へやら、彼女に対して俺は心を許せる様になっていた。

 休日はいつも二人で過ごし、学校でも、どうでもいいような話で盛り上がる。

 共に日々を過ごしていく内に、彼女の奇行も気にならなくなった。今の俺からすればただの不思議ちゃん、もしくはその容姿からキャラが濃いめのハーフタレントの様にしか感じない。

 ……やはり顔が可愛い故だろうか。可愛いは正義とは世の中の心理なのかもしれないな。

 とはいえ、彼女と一緒にいる時間はとても楽しいし、趣味も話も好みも合うし、何より彼女と一緒に居ることで心が落ち着くのだ。

 可愛さ以前に、人としての相性が良い。運命の糸というか、運命の意図的なものが俺と彼女を確かに結んでいる気がする。 

「……なあ、有栖」

「どうしたの星くん♪」

「今度の休日は何処にいこうか」

 そんな他愛もない話をしながら、俺と有栖は並んで通学路を歩く。

 ちなみに霊の一件があった日から変わらず、有栖は俺の家に居候している。ただ以前のようにコソコソとクローゼットや押し入れに引きこもる青狸的生活ではなく、リビングで一緒に寛いだり、ゲームをしたりする、普遍的な同居人としての生活だ。

「……うーん、あんまり外出して散財するのも勿体無いから、家でのんびりするのがいいかな」

「……悪くないな」

 こう見えても有栖は、妙に現実思考な奴で、デート場所は遊園地だったり水族館だったりと、案外庶民的だ。束縛して包丁でグサグサと刺すSMプレイもどきなデートは彼女は好まない。本当に彼女はよく居る普通の少女に過ぎないのだ。

 ……ただ彼女は、自分の思いに正直過ぎる。良くも悪くも、自身の思考、愛情を表に出しすぎる。まあ、それが可愛いところであって、俺が有栖を信頼できる理由なのだが。

「あ!やっぱり家デートは無しで!そういえば行きたいところがあったんだった!」

「……行きたいところ?」

 不意に何かを思い出したのか、大きな声を彼女は上げる。それに僅かながらに肩を揺らして驚きつつ、俺は彼女に尋ねる。

「その行きたいところって何処だ?」

 ……尋ねて、彼女は答えた。

「うん!是非とも君と行きたかった、私の思い出の場所♪」




 ※




 ……思い返せば少年の日には公園の遊具が大きく感じたものだ。

 ブランコを目一杯漕げば空の彼方まで届きそうな気がしていたし、鉄棒で逆上がりが出来ればオリンピックに出場出来ると思ってた。

 ……最も、全部遠い遠い過去の話だが。

「着いたよ!ここが私の思い出の場所!」

 幼子の様に跳ね回りながら、有栖は楽しそうに言った。

 俺達が訪れたのはとある公園。砂場、ブランコ、滑り台、鉄棒と、子供の頃にはテーマパークの様にも思えた、小さな遊具が狭い敷地に詰め込み置かれている、何処にでもありそうな平々凡々たる公園だ。

「どう、この場所?」

 有栖は嬉々とした表情に一抹の不安のような感情を混ぜた面持ちで俺に問うてきた。

 正直、特に目立つ何かがあるわけではない陳腐な場所だ。だが、ここは有栖の思い出の場所なのである。貶すことはもってのほか、差し障りの無い感想も、彼女の気に召さないかもしれない。

 とはいっても、特段誉めれるような物も無い。ブランコ凄いねとか、滑り台格好いいねとか、ガキでも言わなそうなそんな事しか本当に無い。

 小時間の脳内推敲の結果、俺は率直に思い付いた感想を述べる。

「……何か、懐かしいな」

 有栖は、俺の言葉を聞いて僅かに眉を上げた。

「そうよね。……何処かノスタルジーな感じがするわよね」

「……ああ」

 彼女は懐かしそうな表情を浮かべて、明後日の方向を見ながら昔の事を考えている様子だった。

「……まあ、君と一緒なら何処だって楽しいよ」

「確かに、私も貴方と一緒なら楽しいわ。でもね、場所っていうのも凄く大事だと私は思うの。思い出のある場所だとか、景色の綺麗な場所とかさ」

「……確かにな」

「とりあえず、座って話そう。話尽くしたら、帰ってゲームをしよう。それでいいかしら?」

「ああ、そうしよう」

 ……して、俺達はこんなまったりとした一日を過ごした。ありふれた日常こそが本当に幸せな事なのだと、そんなありふれた事を、爽やかな風に吹かれつつ薄らぼんやりと考えながら。




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