ヤンデレ姫と一途な星

七井 望月

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「if……」

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 あの日俺達は公園で“出会わなかった”。

 出会わなかったのだから、特段言うべき事もない。

 そうして俺と黒薔薇有栖は何事もなく小学校、中学校と卒業し、高校にて運命(笑)の出会いを果たす。

「ねぇ、次の授業って古文だったっけ?」

「ん?ああ、そうだけど」

「……いや、君じゃなくて、君の隣の席の子に聞いたんだけど……」

「…………」

「……クスッ」

 そんなファーストコンタクトを俺達は果たした。いやはや掴みは最悪だっただろう。ただ世の中にはクソゲーやB級映画やゲテモノ好きのマニアってのがいるもので、最悪っていうのに惹かれる変わり者、それが黒薔薇有栖だったのだ。

 以下、最悪のファーストコンタクトを果たした俺と有栖の青春群像劇である。

「……私は放課後カフェに行こうと思います」

「…………」

「カフェに行こうと思います」

「あー分かったようるせーな」

「……今のはただの一人言ですよ、自意識過剰太郎くん」

「…………はあ」

 このようなうざったらしい絡みを有栖はいつものように仕掛けてくる。

「……まあそんなこんなで私はカフェにいくわけでございますが、どうしてもアナタが行きたいというのであれば別に付いてきても構いませんよ?どうぞ勝手に」

 有栖は自信満々で鼻高々に言う。

「……勝手にと言ったな?じゃあ俺は付いていかない」

「…………」

 俺が断ると、有栖はまるで転んで膝を擦りむいた子供が強がる様に目尻に涙を浮かべて口を結ぶので、

「……ま、まあ、ってことはだ。そう言いながらも付いていくのだって俺の勝手だろう」

 有栖の顔がパァッと向日葵が咲くように明るくなる。

 ……今日も俺は断れなかった。いや、もともと断るつもりも無いんだけどな。一旦落としてから上げるのが様式美のようなものなのだ。

「……もう、素直になればいいのに」

 なあ、ブーメランって知ってるか?あれって凄いぜ。何てったって全て自分に返ってくるんだからな。

「……素直になるのはそっちだ、馬鹿」

 俺は自分の口角が上がっていることに気付かず、そう返したのだった。





 ※





「あーパフェ美味しかったな~♪」

「……俺は空気じゃなかったのかよ」

 俺は有栖と偶々一緒になっただけの空気であって、パフェも食う気じゃなかったのに、あまりに彼女が美味しそうに食べるものだからつい俺も一緒に食べてしまった。畜生。でも幸せならOKです。

「……あら、いたの?全然気付かなかったわ」

「いや、今からそれは無理があるだろ」

 一瞬、俺は遂に念願の透明化能力をこの手に得たのかと思ったが、現実は厳しいな。

「ふふ、冗談よ。今日は付き合ってくれてありがとね♪」

「……お、おう?」

 悪態の付き合いの最中、突如として真面目なお礼の言葉を返され、不覚にも俺はときめき、言葉を紡げなかった。キュンのリターンエースだ。

「それじゃあね」

「あ、ああ、またな?」

 ……そのまま彼女は通り雨のように去っていった。

 一時の彼女の本音を聞けたが、果たしてこれは試合に勝って勝負に負けたのか、試合に負けて勝負に勝ったのか、どっちか知らんが大体そんな心持ちだった。

「……俺も、もう帰るか」

「……おい、そこのお前」

「は、はい!」

 踵を返し帰ろうとしていたところ、突如として声をかけられ、ビクッとした動きそのままに声の方へと振り向く。そこにいたのは二人組のギャル?だった。妙に見覚えがある。

「……放課後から、ずっとアンタと有栖ちゃんのデートを見てたんだけどさあ……」

「あ、ああ……」

 ……思い出した。この二人はいつも有栖と一緒にいるクラスメイトの女子だ。有栖含めた三人組の残り二人。つまりいつもの三人組-有栖=彼女達ってそういう事だ。……これだけ言ったが名前はまだ思い出せない。

「……正直、アンタの事誤解してたよ。アンタはいい奴だし、有栖ちゃんにピッタリだよ。幸せにしてやりなよ、有栖ちゃんのこと」

「……え?いや、俺はそんな……」

「え!何、そんなつもり無いってこと?あの娘と放課後喫茶店デートまでしといて!?嘘、信じられない!」

「いや、違う!……俺は、俺はそんないい奴じゃないってことだ」

 ……俺は過去に”罪“を犯している。その罰を俺は受けていないし、俺は未だにその罪を背負い続けている。

「……ええ、何それ面倒くさ。大体さあ、いい人かそうじゃないかを決める基準って他人からの評価じゃないの。私からしたらアンタはいい人だけどね」

「……そうか。まあ、一応ありがとう」

「……有栖ちゃんも変わった娘だけど、アンタも大概変わってるよ。だからこそ、気が合う部分もあるんだろうけどさ」

 そう言うとギャルの一人は肩をすくめて溜め息を吐く。

「……あの娘にはさ、母親がいなくて、父親も働き詰めでほとんど家にいないんだってさ。だからあの娘があんなに楽しそうにしてるの初めててみたんだ。アンタが守ってあげなよ、有栖ちゃんのこと」

「……俺には無理だよ」

「あーもう!みみっちい奴!!何で有栖ちゃんもこんなの好きになったのよ!とにかく、今日みたいに有栖ちゃんと遊んであげるだけでいいんだから、しっかりしなさいよ!!」

 ……そう言い残し、ギャル二人は去っていった。

 辺りには心もとない街灯の灯りと、風の吹き抜ける音だけが残った。

「……だけどやっぱり、無理だよ。俺には」

 ……俺の手は汚れていて、彼女の手を掴んで歩くには穢れすぎている。

 俺は、人を好きになってはいけない。

 好きになったら最後、彼女を傷付けてしまうかも知れないし、そもそも俺に付き合う資格なんてない。

 有栖の気持ちには今まで目を瞑ってきたが、もう限界だ。

 ……だから、終わりにしよう。




 この日以降俺は有栖と会ってない。

 これからもきっと、もう会うことはないだろう。




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