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第五章 キングダムインベードミッション
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しおりを挟む血で血を洗う戦争は、突如終わりを迎えた。
……たった一人の超能力者、神林慎一郎の手によって。
彼もまた、東望愛と同様にたまたま偶然、アースの世界から連れてこられた人間の一人だった。
幼子ながら戦場に立たされ、撃たれ、刺され、切られ、潰され、その度に立ち上がり、目の前に広がる血の池を見せられ続けた。
彼は死ぬ度に生き返り、周りの人間の命を奪う。自らの死と引き換えに、他人を殺して、殺して、殺して、殺して……
……一夜にして、戦争は終結した。
少年の心は東望愛と同様に壊れた。まるでハンマーで叩かれた陶器のように、粉々に砕け散った。
傷心の少年に彼女は声を掛けた、彼女は少年を愛した、キスをした、共に生きることを誓った。
だけども少年は上の空で、彼女の愛情は心に全く響かなかった。壊れた機械のように、「ああ、ああ」と腑抜けた返事を繰り返すのみであった。
※
勝利した王、ロキ=レイカは兵士達を召集し、言った。
「この度の世界対戦で大いなる働きをした兵士には、侵略したメイラ=ジェーン、メイラ=シェロイ、メイラ=パライダを統治する権利、又は王国近衛兵士の兵士長となる栄誉を与えよう」
この甘言に乗った者達が、現在の近衛兵士長、そして南の国の代表ミミ、彼女に連られる形で妹のハナが南の国の側近となり、そして東の国は現側近のナオが代表となった。
……東の国の代表は、もはやまともな状態ではなくなった東望愛が、流れのまま代表となった。側近など、決める余裕もあるはずなく。
甘言に乗らなかった者もいた。否、彼、彼女にとっては甘言でも何でもなく、彼はただ元の生活に戻りたいという一心のみであり、彼女は彼と一緒にいれさえすれば他の事はどうでもいいと思っていた。
彼は願った。「この完備な生活を捨てることと引き換えに、戦争の記憶をきれいさっぱり無くして、元の世界に戻してくれ」と。
『いえいえ、それには及びません。記憶を消す代償、それは“この世界における英雄として、その名を永久に残すこと”。それ以外には要りません。むしろお釣りが来るくらいです。……ですのでせっかくですから他にも叶えましょう。元の世界に戻すこと、悲劇のヒロインと結ばれること……。そうしていつか貴方は全てを思い出し、絶望に沈むが良いです。貴方のこの能力は、全てを叶えるための、幸せの切符などではありません。むしろもっと…………』
……記憶はここで途切れ、気付けば少年は元の世界の家の前にいた。
「……慎一郎!?慎一郎!!」
大きな声に振り替えると、大人の男の人と女の人が驚いた顔でこちらに走ってきていた。
少年は少し萎縮して後ずさるも、直接の包容で動けなくなった。
「……本当に、どこに行ってたのよ」
女の人の涙と、もう何処にも行かせないというような力強くも優しい包容に、少年はこの人が自分の母親だということを“察した”。
「……ああ、ごめんなさい。……お母さん」
……少年には記憶がなかった。戦争のあった世界のことも、この世界のことも、覚えてなかった。
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