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episode4 桃太郎
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僕を守るようにして熊に立ちはだかっていたのは、黒髪の綺麗な大人の女だった。
ただ、その綺麗な黒髪の間から、太くて鋭い角が生えていた。
女の手に視線を移すと。鋭く尖った爪。
顔を見ると、目が黄金色に輝いていた。
恐らくこの山に住むと言われている鬼だ。
鬼が女だった事にも驚いたが、それ以上に、殺気を放っていたのは熊の方だった。
つまり、さっきまで追いかけてきた殺気の正体は熊で、鬼は僕を庇ってくれている。という事になるのだろうか。
鬼は僕に背を向け、熊にゆっくり語りかける。
「落ち着いて、怒りに身を任せては行けません。」
熊は、鬼の言葉に耳を貸す様子はなく。
僕を真っ直ぐ見て唸り声を上げる。
すぐ僕に飛びかかってきてもおかしくないくらいの勢いだ。
「この人間はまだ子どもです。この人間にも帰るべき場所があり、帰りを待つ人間の親もいます。貴方なら子を失う親の気持ちが分かるでしょう。」
熊はピクリと耳を動かし、一歩下がって見せた。
「この人間は、私が村まで送ります。今回は見逃しては貰えませんか?絶対に何があっても森の者たちを傷つけさせないと私が誓います。」
鬼がそう言うと、熊は僅かに殺気を消し、その場から離れて行った。
鬼はふーっと一息つくと、僕の方に向かって歩いてきた。
今まで呆気にとられ、我を忘れていたが、
直ぐに事の重大さに気づく。
今この時も、命の危険が迫っている事に変わりはない。
無我夢中で近くに転がった自分の剣を持ち、鬼に突き立てた。
「来るな!!!人喰いの鬼め!!僕を助けてどう言うつもりだ!!獲物を横取りしたつもりか!」
鬼はその場で立ち止まり、背中を丸め、僕に視線を合わせるとこう言った。
「私は鬼です。でも人喰い鬼ではありません。私の名は《さくらぎ》と言います。
“ 桜 ”の“鬼”と書いてさくらぎです。
以後お見知り置きを。」
「桜鬼・・・?」
「はい。もしよろしければ名をお聞きしてもよろしいですか...?」
桜鬼と名乗る鬼は優しく笑い。
僕に問いかけた。
「僕は...僕の名は....。」
僕に名はない。“みなしご”が僕の名になるのだろうか...。
あたりを見渡し、名を考えていると、ふと桃の木が目に止まった。
冬場だと言うのに、桃の実がひとつだけその木にぶら下がっていた。
そこで思いついた。名には魂が宿ると言われている。もし馬鹿正直に鬼に自分の事など喋ってしまえば、魂を取られるかもしれない。
僕は仮の名前を作り、その名を教える事にした。
「我が名は桃太郎!この森に住む鬼を成敗する為はせ参じた!!人喰いの鬼じゃ無いなんて絶対に信じないぞ!!村の者の命を弄んだその罪、自らの命で償うがいい!!」
刀をぐっと握りしめ、鬼を真っ直ぐ睨みつけ、そう言うと、鬼は頭を掻き少し困った笑顔でこう言った。
「桃太郎さん...。怪我をしています。怪我の治療が済んだら必ず村へ返すと約束しましょう。それに今は雪が降っています。こんな所にずっと居たら風邪を引いてしまう。あの熊だっていつまた戻ってくるか分かりませんよ?」
「熊」と言う言葉を聞いて血の気が引いた。
また来られたら今度はもう逃げ切れる自信がない。今は目の前にいる鬼を信じるほかないと思った。
「....分かった。本当に怪我の治療が終わったら返してくれるんだろうな?」
「....はい。約束致します。さぁ雪が積もる前に。」
鬼は僕に手を差し出して、優しく微笑んだ。
不思議だ。昨日まで鬼の存在に怯えていたのに、今では鬼のこの笑顔に安心している自分がいる。
僕が掴んだ鬼の手はとても暖かかった。
ただ、その綺麗な黒髪の間から、太くて鋭い角が生えていた。
女の手に視線を移すと。鋭く尖った爪。
顔を見ると、目が黄金色に輝いていた。
恐らくこの山に住むと言われている鬼だ。
鬼が女だった事にも驚いたが、それ以上に、殺気を放っていたのは熊の方だった。
つまり、さっきまで追いかけてきた殺気の正体は熊で、鬼は僕を庇ってくれている。という事になるのだろうか。
鬼は僕に背を向け、熊にゆっくり語りかける。
「落ち着いて、怒りに身を任せては行けません。」
熊は、鬼の言葉に耳を貸す様子はなく。
僕を真っ直ぐ見て唸り声を上げる。
すぐ僕に飛びかかってきてもおかしくないくらいの勢いだ。
「この人間はまだ子どもです。この人間にも帰るべき場所があり、帰りを待つ人間の親もいます。貴方なら子を失う親の気持ちが分かるでしょう。」
熊はピクリと耳を動かし、一歩下がって見せた。
「この人間は、私が村まで送ります。今回は見逃しては貰えませんか?絶対に何があっても森の者たちを傷つけさせないと私が誓います。」
鬼がそう言うと、熊は僅かに殺気を消し、その場から離れて行った。
鬼はふーっと一息つくと、僕の方に向かって歩いてきた。
今まで呆気にとられ、我を忘れていたが、
直ぐに事の重大さに気づく。
今この時も、命の危険が迫っている事に変わりはない。
無我夢中で近くに転がった自分の剣を持ち、鬼に突き立てた。
「来るな!!!人喰いの鬼め!!僕を助けてどう言うつもりだ!!獲物を横取りしたつもりか!」
鬼はその場で立ち止まり、背中を丸め、僕に視線を合わせるとこう言った。
「私は鬼です。でも人喰い鬼ではありません。私の名は《さくらぎ》と言います。
“ 桜 ”の“鬼”と書いてさくらぎです。
以後お見知り置きを。」
「桜鬼・・・?」
「はい。もしよろしければ名をお聞きしてもよろしいですか...?」
桜鬼と名乗る鬼は優しく笑い。
僕に問いかけた。
「僕は...僕の名は....。」
僕に名はない。“みなしご”が僕の名になるのだろうか...。
あたりを見渡し、名を考えていると、ふと桃の木が目に止まった。
冬場だと言うのに、桃の実がひとつだけその木にぶら下がっていた。
そこで思いついた。名には魂が宿ると言われている。もし馬鹿正直に鬼に自分の事など喋ってしまえば、魂を取られるかもしれない。
僕は仮の名前を作り、その名を教える事にした。
「我が名は桃太郎!この森に住む鬼を成敗する為はせ参じた!!人喰いの鬼じゃ無いなんて絶対に信じないぞ!!村の者の命を弄んだその罪、自らの命で償うがいい!!」
刀をぐっと握りしめ、鬼を真っ直ぐ睨みつけ、そう言うと、鬼は頭を掻き少し困った笑顔でこう言った。
「桃太郎さん...。怪我をしています。怪我の治療が済んだら必ず村へ返すと約束しましょう。それに今は雪が降っています。こんな所にずっと居たら風邪を引いてしまう。あの熊だっていつまた戻ってくるか分かりませんよ?」
「熊」と言う言葉を聞いて血の気が引いた。
また来られたら今度はもう逃げ切れる自信がない。今は目の前にいる鬼を信じるほかないと思った。
「....分かった。本当に怪我の治療が終わったら返してくれるんだろうな?」
「....はい。約束致します。さぁ雪が積もる前に。」
鬼は僕に手を差し出して、優しく微笑んだ。
不思議だ。昨日まで鬼の存在に怯えていたのに、今では鬼のこの笑顔に安心している自分がいる。
僕が掴んだ鬼の手はとても暖かかった。
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