空想未来戦記 【ジルコン】

蜜柑ブタ

文字の大きさ
3 / 18

SS3  平穏な日々の終わり

しおりを挟む

 幼い頃の自分が涙を零しながらガタガタ、ブルブルと震えている。
  久しぶりに見る夢であった。
  そんな幼い頃の自分の前には、敏雄の名を呼びながら助けを求めながら溶かされ、潰されていく両親の姿があった。
  ウミウシのように派手なアンバーがまるで見せつけるように、両親を殺した。
  永遠にも覚える惨劇に終止符を打ったのは、銀と黒に光る、人型。
  まず、鋭い槍のような蹴りが肉鎧(にくよろい)突き刺さり、ウミウシ型アンバーの三分の一を潰した。
  それによりジワジワと殺されていた両親は解放され、その場で死んでいった。
  そんなことより、幼い敏雄の目を釘付けにしたのは、自分を守るように立つ、ジルコン・プロトタイプの姿だけだった。
  アンバーにより崩された家の屋根から降り注ぐ、陽光に照らされ、そのジルコン・プロトタイプの姿は、まるで神様のようにかっこ良く、そして美しかった。
  ウミウシ型のアンバーの攻撃で、角の一本が一部分削れ落ち、敏雄の傍に落ちた。ジルコン・プロトタイプは、ウミウシ型のアンバーを敏雄の家から放り出し、外で戦闘をした。その後、アンバーは駆除され、駆けつけた救助隊により敏雄は保護されて病院に行き、そこからのことは、少しだけ記憶にない。
  それからの古い記憶は、先に孤児院に入居していた幸香に、だいじょうぶ?と聞かれたところからだ。

  夢は、そこで終わった。

 「だいじょうぶ?」
  目を覚ますと、まず幸香の心配している顔があり、声が聞こえた。
 「さち…か? 俺…は…。」
 「ああ、動かないで!」
 「なんか…、ちょっと変だな…?」
  敏雄は幸香の制止を聞かず、ベッドから起き上がった。
  何かが変だが何がおかしいのかはハッキリしない。
  額を抑えて、ウ~ンと唸る敏雄だったが、ふと、部屋の隅に別の気配を感じた。
 「…誰だ?」
  そちらを見ると、そこには、ひとりの男がいた。
  ボサボサの長めの黒髪で、黒づくめの格好で、季節外れのロングコートを纏っており、俯いていたがやがて顔を上げた。
  黒い瞳。普通よりはやや整った顔ではあるが、大きな特徴があるようには感じない印象がある。だが、なにかがおかしい。それだけは感じた。
 「誰だよ…? なあ、幸香、アレ誰?」
 「それは…。」
  幸香が何か言いにくそうにした。
  顔を上げた男は、ジイッと部屋の隅から敏雄を見つめていた。男が纏う奇妙な雰囲気もあり、敏雄は居心地悪そうにする。
  そして敏雄は、ハッとした。
  この部屋が知らない部屋だったことにやっと気づいたのだ。
  殺風景で…、まるで閉じ込めておくための部屋のような…、そんな雰囲気を感じさせる。
 「なあ、幸香…、ここ、どこだよ? 俺ら、確か…校外実習で…。」
 「そ、それは…。」
 「なあ、幸香。何が…あったんだっけ? 俺、よく覚えて…。」

 『目が覚めたかね?』

  すると、どこからともなく、マイク越しの男の声が聞こえた。
 「誰だ!」
 『落ち着きなさい。深呼吸を。』
 「これが落ち着いて…。」
 『一生そこにいたいかね?』
 「…なんだと?」
 『そちらのお嬢さんから何も聞いていないかい?』
 「幸香のことか?」
 『まあいい…、そんなことは些細なことだ。すまないが、この状態で話を聞いてもらいたい。』
 「…信用できねえな。」
 『では、そこで一生を過ごすかい?』
 「チッ!」
  マイク越しの声にそう言われ、敏雄は思わず舌打ちをした。
 「で? 話って?」
 『まず、君の身体の変化についてだ。君は気づいているかね?』
 「…身体が変な状態だってのは分かるけど?」
 『それ以外の変化だ。そこにある鏡を見たまえ。』
 「かがみ? ……えっ?」
  ベッドの傍に置かれていたテーブルの上の鏡を見て、敏雄は言葉を失った。

  そこに映っている敏雄は、赤毛、赤い瞳をしていた。

 「えっ? こ、これ、俺?」
  本来の黒髪と黒い瞳が鮮やかな赤に変わってしまっていて、敏雄は戸惑った。
  髪型も顔のパーツも輪郭も変わっていないのだが、色が変わるだけでまるで別人になってしまう。一瞬鏡に映ったのが自分だと認識できなかったのだ。
 「なんで…? 俺…、髪が…、目が…。」
 『手短に答えてあげよう。君は、ジルコン・プロトタイプと融合したのだよ。』
 「へっ?」
  信じがたいことを言われた。
 「どういうことだ? 俺が? ジルコンと? で、でも、ジルコンって…。」
 「本当だよ…。」
 「幸香?」
 「あの時…、敏雄は…、ジルコンに飲み込まれて…。気がついたら…。」
  幸香が泣きそうな声で言う。
 『そして、その君から分離したのが、そこにいる男だ。』
 「はっ?」
  またわけの分からないことを言われ、敏雄は唖然とした。
 『目覚めて早々すまないが。そこにいる男の名を聞いて貰えるかな?』
 「なんで?」
 『いいから。そこに一生いたいのかい?』
 「……分かったよ。なあ、あんた、名前は?」
  敏雄は渋々、部屋の隅にいる男に名前を聞いた。
  謎の黒づくめの男は、少し間を置いて口を開いた。

 「………シズ……。」

 『!』
  マイク越しに向こう側にいる誰かが驚愕して息をのんだような気配があった。
 「しず? シズってのか?」
 「…ジルコン、NUMBER(ナンバー)01(ゼロワン)号、『シズ』。」
 「えっ?」
  男とは淡々と、自らの名と正体を語る。
 「じゃ、じゃあ、あんたがジルコンの中身ってことか?」
 「……ち、がう。」
 「へっ?」
  敏雄の問いを男が否定した直後、部屋の重たそうな扉が開いた。
  武装した軍人と共に、白衣の大人達がなだれ込むように入ってくる。
 「な、なんだよ!?」
 「君は少し黙っていたまえ。」
  白衣の大人のひとりの声は先ほどから聞こえていたマイク越しの声だった。
 「シズ…と名乗ったね? お前は…。」
  しかし問いかけに黒い男は黙っていた。
  そして白衣の男が信じがたいことを言い出す。

 「なぜ、クリエイターの名を? そしてその顔は…。」

 「……へっ?」
  敏雄は、言葉を失った。

  クリエイター。

  それは、この世界にアンバーという災厄を撒き散らした元凶の科学者の呼ばれ名だ。

 「なぜ…、クリエイターと同じ顔をしている!?」
  白衣の男が青ざめた顔で、震える指で指差す。
  しかし、クリエイターにうり二つの顔した、男は、何も答えなかった。
  唖然としていた敏雄は、男を見た。
  その瞬間だろうか。自身の脳裏に、アンバーに両親を殺されたときの悲しみと激情がわき上がった。
  そして気がつけば、ベッドから一瞬にして移動し、黒い男に飛びかかっていた。
 「敏雄!」
 「お前が…、お前のせいで!」
  敏雄は幸香の制止を聞かず、激情のままに男の胸ぐらを掴んで揺すっていた。
  しかし、男は、表情ひとつ変えず、ジッと敏雄を見ていただけだった。
 「落ち着きたまえ!」
 「お前のせいで、父さんや母さんが! みんな殺されたんだ!」
  その直後、敏雄の頬をかすめて銃弾が壁に撃ち込まれた。
 「落ち着けと言っているんだ!」
  発砲されたのだと気づいた敏雄は、我に返り、振り返る。
 「彼女がどうなってもいいのかね?」
 「幸香!」
  軍人の銃口が幸香に向けられていることに気づいた敏雄が男から手を離して幸香を助けようとしたが、他の軍人達の銃口が自分に向けられビクッと止まった。
 「詳しい話をする。この子の命が惜しければ従うことだ。」
 「なっ…。」
  その命令に敏雄は絶句する。
 「敏雄…、ごめんね…。」
 「幸香…。」
  幸香が涙目で謝罪してくる。
 「ついてきたまえ、そちらのクリエイターそっくりのお前もだ。」
  敏雄は、悔しさに歯を食いしばり拳を握りしめる。
  しかし、背後に回ってきた軍人に背中を銃口で小突かれ、クリエイターそっくりらしい男と共に部屋の外へと連行されたのだった。
  残された幸香は、重い扉が閉まると同時に部屋にたったひとりで取り残され、すすり泣いた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

古書館に眠る手記

猫戸針子
歴史・時代
革命前夜、帝室図書館の地下で、一人の官僚は“禁書”を守ろうとしていた。 十九世紀オーストリア、静寂を破ったのは一冊の古手記。 そこに記されたのは、遠い宮廷と一人の王女の物語。 寓話のように綴られたその記録は、やがて現実の思想へとつながってゆく。 “読む者の想像が物語を完成させる”記録文学。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...