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SS9 鬼ジジイ(敏雄曰く)と、割れきれない大人達
しおりを挟む健康体。
身体能力の向上。
身体の色の変化。
胸部にジルコン石に似た核が現れる。
ジルコンと合体・融合した人間は、身体の色と引き換えに、超人的な身体の力を手に入れることが出来る。
身体の色の変化は、個人差があるらしく、敏雄のように髪の毛と目の色だけだったり、ユイリンのように全身が真っ白になってしまったり、ディアブロのように、髪の毛と肌の色が変わってしまうこともあった。
ジルコンを研究し、50年前にプロトタイプから量産型のジルコンを500機も創りあげた研究機関でもあるジルコン専門の研究機関は、今日もジルコンについて研究を重ねている。
それで分かったことであるが。
それは、プロトタイプ・ジルコンと、量産型のジルコンの融合機となった両者の違いだった。
1つ目。分離しない。
プロトタイプ・ジルコンと融合した唯一の人間である敏雄から、クリエイターそっくりのシズと名乗った人間型の分身がいないこと。
2つ目。サポート的なモノの有無。
シズという全機能をサポート、時に機体操作をやる人工知能的な存在が量産型のジルコンの融合機となった者にはいない。そのため、自己判断でジルコンとしての力をコントロールが必要とされる。
3つ目。機体能力差。
ジルコン・プロトタイプは、ジルコンの個体として築き上げた戦果が、もっとも高い。これは、しょせんはコピー品でしかない量産型のジルコンとの間に生まれた差違であると思われる。
機体強度、反応速度など、それらは、プロトタイプ・ジルコンの融合機である敏雄の潜在能力の方が量産型のジルコンの融合機となった者より高い。
だが、上記の能力を最近まで普通の男子学生だった敏雄が生かし切れず、また逆に機体の能力に振り回されており、軍人の志願者であるディアブロなどよりも戦闘能力そのものは劣る。
敏雄が新型ジルコンになってから、数週間後…。
「もっと足を上げろ!」
「これ以上無理だって!」
「なら、柔軟だ! マットの上に寝転べ!」
「イデデデデ! この鬼ジジイ!」
「口を開く暇があるなら、経験を積め! 詰め込んでいけ!」
「ちきしょー!」
敏雄は、現在、元軍人であるレオナードという屈強な老人とワンツーマンで訓練をやらされていた。
見るからに厳しそうな外見のガチムチで、見た目通り厳しかった。
ジルコンとしての機体能力に振り回されている敏雄には、まず基礎的な格闘技術が必要だということで、総合格闘技を叩き込まれている。
柔軟の訓練などは、身体能力の向上もあり、すぐに身につくが、元が元だ。なにせ、つい最近まで体育の方が得意なだけの普通の少年だったのだ。身体は経験を積んでいって身についているはずだが、頭…、つまり心がついていけてないのだ。
軍人であるディアブロとの差は、その根本的な心構えとかだろう。なにせ、志願したのではなく、ほぼ事故のような形での新型ジルコン化なのだから。
自分が置かれた状況を不服に思い、また自分を縛り付けるための枷として、幼馴染みの少女・幸香を人質にされているのも、なにより社会的に殺されたのも、敏雄の向上心を湧かせない原因だろう。
それについては、大人達は分かっている。自分達の利益や世界の安寧のため、二人の少年少女を死んだことにして、無理矢理に戦わせていることは分かっている。
「やるせないな…。」
「なんだ? 鍛治野、どうした?」
「何も知らなかった子供に…、世界が抱えている闇の真実を知らせて、しかも終わりのない戦いをやらせることがさ。」
鍛治野昌樹(かじの まさき)。32歳。ジルコンの研究機関の科学者。
妻子のいる彼には、上の命令とはいえ、敏雄が置かれた状況に同情していた。
「しかたねーじゃん。《GAEA》にアンバーの核を供給しないと《GAEA》が止まっちまうんだからな。」
「だからって、大人が安全地帯にいて、子供に最前線で戦わせるが正義だと思うのか?」
「仕方ないんだって。こればっかりはな。俺達は、研究者だ。あんまし、敏雄って奴に肩入れしすぎると首切られるぜ?」
「……分かってるさ。」
敏雄を終わりのない戦いに無理矢理行かせている大人達も、完全に割り切っているわけではないのだ。
「鍛治野さん。電話です。」
「誰からだ?」
「吉嶋(よしじま)教授からです。」
「分かった。」
鍛治野は、電話機を取り、電話に出た。
「鍛治野です。」
『昌樹君。明後日には帰国できそうだ。新型ジルコンのデータをまとめておいて欲しい。』
「分かりました。」
『それと……、少年の様子はどうだね?』
少年とは…、敏雄のことだ。
「ええ…、なんとかなってます。見たところ、相当なストレスが溜まっているようですが…。」
『……そうか。』
「現在は、戦闘能力の向上を目的に、元軍人のレオナード氏を、新型ジルコン達の訓練教官として上が雇いました。レオナード氏からワンツーマンで訓練を受けているそうです。」
『ふむ…、そうか。では、詳しい話は帰国してから聞こう。少年にも直接顔を合せたい。じゃあ、明後日…。』
「分かりました。」
そして電話が終わった。
電話を受話器に置いた鍛治野は、深くため息を吐いた。
「クリエイターめ……、何を考えて…こんな…。」
鍛治野は、恨めしげにそう小さく呟いた。
ジルコンを対アンバー兵器として改造したのは、《GAEA》の生みの親であり、アンバーをも創りあげたクリエイター、その人だ。
鍛治野は面識がないため知らないが、クリエイターは、頭のネジが外れたようなおかしな人物だったらしいとは聞いている。
50年も前に死刑にされたクリエイターに恨み言を言っても、死人に口なし。またクリエイター自身と交友のあった人間もほとんどおらず、その本質的な部分を理解している人間はおそらくはいない。
電話で会話をした相手である、吉嶋という教授は、数少ないクリエイターと面識がある人物ではあるが、友人関係とかではなかった。あくまで《GAEA》計画のチームメンバーだったというだけのことだった。
そういえば…っと、鍛治野は思い返す。
吉嶋と仕事をしていたとき、二人きりの時に、ふと吉嶋が零していた。
『クリエイターは、あの性格上…、復讐を考えるような人物じゃなかった。』
っと、口から独り言のように零していた。
世間では、否、世界政府がクリエイターをアンバーという災厄をばらまいた悪人としてでっち上げ、《GAEA》の真の発明者であることや、アンバーが《GAEA》の燃料であることなどをあらゆる手を使って隠蔽した。
その事実を知る人間は、ジルコンの研究所内にいくらでもいるが、それを知らない人間に口外することは、即ち、死である。実際、真実を知り、真実を知らせようと行動しようとしたらしい職員が何人も消えているのを、鍛治野は知っている。
鍛治野だって我が身は可愛い。そして何より家族がいる。死ぬわけにはいかないのだと無理矢理に自分を偽ってきたし、今だって自分よりずっと年下の子供である敏雄が無理矢理戦いをやらされていることについて、納得しづらいと口にしても行動に移していない。
「なにが人類史史上最高の平和だ…。結局は、言い訳と、臆病共の社会じゃないか。」
鍛治野は、誰に聞かれるでもなく、聞かせることもなく、そう吐き捨てるように呟いたのだった。
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