菓子箱(短編集)

瀬野砂月

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とある少年たちの一コマ

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 雲一つない空を眺めながら、津崎伊澄つざきいすむは屋上で一服していた。
 今は授業中ということもあって、周りに人はおらず静かだ。だが、それもすぐに終わる。
 ポケットしまっていた携帯電話を取りだして、時間を見る。そろそろ来る頃だろう。
 怒られる前に咥えていた煙草を携帯灰皿に処分する。
 ギィと古びた屋上のドアが開き、出てきた人物に口元が緩む。
「あ、先輩。おはよう」
 伊澄を見つけた途端、眩しさに顰めていた顔を笑顔に変え、仲谷創なかやそうは元気そうに言った。
「おぅ、おはよう。今日も元気そうだな」
「うん、元気」
 満面の笑みを浮かべながら向かってくる創が伊澄は可愛くて仕方ない。
(あぁ、くそ~。抱きしめてぇ。そんでいろいろ……)
 だらしなくなりそうな表情筋を一喝し、必死に平静を装う。
 それを知ってか知らずか、創は目の前に来るなり伊澄に抱きついてきた。
「お、おい」
「えへへ」
 背中に手を回し、胸にすり寄ってくる創。方や内心歓喜の声を上げつつ、どうにか理性を繋ぎとめる伊澄。
 どちらも幸せなのは言うまでもなく。
「あ、お前ここ寝癖ついたままだぞ」
「へ、うそ!」
 一房だけあらぬ方向に向かっているのを指摘してやると、創は慌ててぺたぺた頭を触る。しかし、押さえる場所はすべて的外れ。
「ったく、そこじゃねぇよ。直してやるから、じっとしてろ」
 光を浴びて金髪のように輝く茶髪に指を通す。いつもならサラサラ流れていく髪がところどころ引っかかる。
 伊澄は眉間に皺を寄せる。
「お前、ちゃんと髪とかしてきたか?」
「あ…えっと…」
「髪くらいちゃんととかしてこいよ」
 ため息混じりに言えば、創が顔を上げて伊澄の顔を見つめてきた。
「だって先輩に早く会いたかったんだもん」
 ズキュン。
 拗ねながらも気恥ずかしそうに言った創の言葉は、伊澄にクリティカルヒットした。
 伊澄は髪を梳いていた手をそのまま頭にそえ、そしてゆっくり顔を近づけていく。それにあわせて創は瞼を閉じる。
 互いの唇に触れる柔らかな感触。わずかに離れて、また触れあう。幾度となくくり返し、伊澄は最後に額に口づけして、創の細身の身体を抱きしめた。
「創、あんま可愛いこと言うなよ」
 ぼそっと呟き、創の首元に顔を埋める。
(あぁ、本当にやめてくれ。これ以上、俺の心をかき乱さないでくれ)
 心底、思ってしまう。その反面、創の言葉がとても嬉しい。
「え~俺は本当のこと言っただけだよ?」
 創は言う。
 朝起きてすぐに伊澄のことを考えて、会いたくてたまらなかったのだ、と。
 だから、急いで登校の準備をしてきた、と。
「ったく、お前は……」
 胸に湧く温かいもの。それがなんというものなのかは、わからない。ただただ、創が愛しい。
 伊澄は身体を放し、創の顔を見つめる。
 いつになく真剣な眼差しに創の鼓動が跳ねる。
「創、好きだ。お前のこと」
 愛らしいくりっとした大きな目を見開いた後、創は伊澄の好きな笑顔で
「俺も先輩が、伊澄が大好き!」
「うおっ」
 勢いよく飛びついてきた創を抱きとめきれず、伊澄は体勢を崩し尻餅をついた。そんなこと気にせず、創は伊澄の首に腕を回しすり寄ってくる。
「お、おい」
「えへへ~」
 ため息一つ。伊澄はそっと創の頭を撫でる。
(あぁ、俺の理性どこまで保つかな~)
 遠い目でどこまでも青い空を見上げる。
 伊澄の理性が切れるまで、あと何分?



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