須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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表彰式

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「えー、ではこれより表彰を行います。 ドッジボールの部、優勝、1年2組。 準優勝、1年6組、 3位、1年5組。 バレーボールの部 優勝、1年1組 準優勝、1年7組 3位、1年5組となります。 表彰台にはクラス内でのMVPを決めて、その人が壇上に表彰を受け取ってください。」


 教頭先生からの一言で、クラスのみんなが集まる。


「なにでMVP決める?」

「やっぱりボールを多く持ってた人じゃない?」

「なら矢藤か。」

「いや、俺は敵にボールを当てた人だと思う。 だから小舞じゃないか?」

「須今さんもボールの取得率凄かったよ。 ボールがこっち側に舞い込んだのは須今さんのおかげだよ。」


 みんながみんな、意見を出しあっていて埒が明かなくなってきている。 というかそれって審判をしていた先生とかがやることでは?


「じゃあさ、うちのクラスのマドンナ、円藤さんに決めてもらえばいいじゃない。」

「え!?」


 矢藤君の唐突なアイデアに円藤さんは驚き、他のみんな(矢藤君と一緒にいるクラスメイト以外)は意味が分からないと言った表情になる。 彼女がマドンナと称されるのは彼が勝手に決めたことなので、知らなくても仕方がないことだ。


「さぁ、円藤さん。 誰が一番活躍していたと思う?」


 矢藤君はありったけのいい声といい顔をして、答えを待つ。 そしてそれを囃し立てるように矢藤君のグループメンバーが声をあげている。 他のみんなはもう呆れたようにこの茶番を見ていた。


 矢藤君が円藤さんに手を差し伸べている辺り、選ばれるのは自分だと思っているようだ。 あれだけアピールしてたしそれはねぇ。


 円藤さん自身もかなり戸惑っていたが、少し考えた後に、歩み始める。 そして矢藤君の手を取る・・・・・・事なくスルーし、そして


「私は、館さんが、一番頑張っていたと、思います。」


 僕の手を取ったのだ。 矢藤君の取り巻きのさらに後ろにいた僕のもとに来たので、矢藤君やその取り巻きは唖然とした姿で固まっていた。


「館かぁ。 でも確かに頑張ってたよな。」

「うんうん。 ボールのキャッチとか、当てるのとかもちゃんと貢献してたし。」

「なにより円藤さんが当たったボールをヘッドスライディングで取ってたもんな。 あんなのなかなか出来やしないぜ。」

「腕が痛いながらも今日も頑張ってくれてたし。 異議なし!」

「え、えぇ~?」


 その結果に僕自身が困惑していた。 だって選ばれるなんて思ってもみなかったし、ましてやそれをみんなから認めてもらえるとも思ってなかったので尚更だ。


「いいじゃないですか。 それでは表彰台、お願いしますね。」


 後ろから安見さんが背中を押して、表彰台に上がる。 後ろを振り返ると矢藤君が円藤さんに向かって何かを言っている光景が見えた。 あそこまでくると最早惨めにしか見えない。


「最初に来られたのは2組ですね。 えー、表彰。 1年2組殿。 あなた方はクラス一丸となり、ドッジボールの部に取り組み、見事優勝を納めたのでこれを評する。 はい。 おめでとう。」


 そういって教頭先生から表彰状を貰う。 こんな風に表彰状を貰うのっていつ以来だっけ? 腕がまだ痛むので表彰状を上に上げることは出来ないが、しっかりと貰ったことを確認する。 そして後ろから拍手が送られながら、表彰台を降りる。


 クラスのところに戻ると、そこには矢藤君の物凄く落ち込んでいる姿とそれを慰めているクラスメイトの姿があった。


「なにあれ? どういう状況?」


 たまたま近くにいた坂内君に事情を説明して貰う。


「まず矢藤君が円藤さんに君だった理由を聞いてきてね。 「腕を負傷しながらも頑張っていた」と説明して、なぜ矢藤君ではないかと聞いたら、「あの時避けたボールが当たって、館君が怪我をしてしまった。 それをあなたは見ていなかったから」と説明したらショックを受けて、今あのような状態なんだそうだ。」

「ま、見苦しいわな。 あんだけアピールしておきながら、見向きもされないどころか良くない印象を持たれたんだからな。 あの取り巻きはその慰めに勤しんでるのさ。 あいつ、あれだけの事をしておきながらスルーされたときの顔は滑稽なものだったな。」


 小舞君が補足として付け加えをしてきた。 最後のは余計なんじゃないかな?


 球技大会が終わったということで、時間がかなり押しているが、景品としてお菓子とジュースが振る舞われた。 といってもこれは学校側から出されていて、チラリと他クラスを見てもお菓子が無いだけでジュースはあったようだ。

 みんなそれぞれのグループで集まってジュースとお菓子を手に、お喋りをしていた。


「いやぁ、優勝できてよかったなぁ! バレーの方は残念だったけれど、ナイスファイトだったらしいぜ。」

「うちらも頑張ってし、明日と明後日は学校がないから、これでゆっくり休めるよ。」

「とはいっても来週からゴールデンウィークだから、来週もあんまり授業は無さそうだけどね。」


 僕も坂内君や濱井さんのいるグループで会話に混じって楽しんでいる。 まだ腕の方は痛むが、名誉の負傷ということにしておこう。


 そんなことをしているうちに最終下校時刻の音楽が流れ、皆ゾロゾロと昇降口へと向かっていく。 僕もそれに続こうかと思ったのだが、肩を「チョンチョン」と触られたので誰かと振り返るとそこには安見さんがいた。 そして綺麗な顔を近付けたかと思ったら


「優勝出来たのでゴールデンウィークにお出かけするって話。 それは来週決めましょうね 館君。」


 そういって教室を出る安見さんの姿を捉えて僕は、本当に優勝出来て良かったと心底思った。


 安見さんといると、大変だけれど楽しい想いが増していく。 そんな彼女に知らす知らずのうちに心を惹かれていた。


 この時が安見さんを1・人・の・女・子・と・し・て・好きになった瞬間だったと気が付くのは、もっと先のお話。

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