須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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<光輝視点>

 いよいよ始まったゴールデンウィーク。 といっても僕にとっては休日が増えただけに過ぎない。 個人的に出掛ける理由がないので、朝のジョギングが終わり次第家に戻るだけだ。


 家に帰ればやりたいことがあるからだ。 というよりも僕は結構なインドア派なのであまり外には出ない。 それこそ買い物や家族で出掛ける位しか外には出ないのだ。


「折角のゴールデンウィークなんだから、どこかいつもとは違うところに行ってきたら?」


 そんな母さんの話も聞き流しつつ、今手元の布をせっせかと縫っている。

 これは僕が安見さんに、トリュフチョコを貰ったお礼として作っているお弁当袋になる予定だ。 僕の持っているのはかなり急造のものだが、人にあげるということで、妥協は許されない。 その一心で今は取り組んでいる。


「まぁあなたは昔からそうだから今更なにか言う気は無いけれどね。」

「なにその諦めたような感じ。 休日が増えたってやることなんて決まってるんだよ。 というか増えたって使い道が分からないよ。」


 母さんと話をしながらも縫う手は止めない。 縫い始めて止めると、ペースが乱れるからあまり余計なことを考えないようにしている。 母さんの会話だって気にするような内容ではないし、このペースなら直ぐに


「ねぇ光輝。 そんな色の布なんて持っていたかしら?」


 母さんのその言葉に「ん?」と疑問を持ったが直ぐに縫うのを続ける。


「作るものが決まったから、色選びも兼ねて昨日買ってきたんだよ。」


 安見さんに送るものと言うことと色違いでという安見さんの希望から、今まで使っていた寒色系ではなく、安見さんのイメージとは少し離れてるかもしれないが、暖色系の色も取り入れたものを作ろうと考えている。 分かりやすいくらいの色違いの方がそれっぽく出来るかなって思った次第だ。


「でもそれ、光輝が使う物じゃないわよね? 誰かにあげるの?」


 なんだか母さんが事情聴取のように僕に話しかけてきた。 そしてそんな母さんの顔はどこかニヤニヤしている。 どうやらなんのために作っているのかもう分かっているようで、僕本人の口から聞き出したいようだ。


 15年の付き合いだからそれなりに分かる。 これ以上隠してもいつかはバレるのは目に見えているので、素直に白状することとしよう。


「一昨日食べたチョコあったでしょ? あれのお礼として安見さんに作ろうと思ってるんだよ。 安見さんが「お弁当袋がいい」っていうからそれを色違いで作ってるの。 明後日に会うからそれまでに間に合わせたくてこうして縫ってるんだよ。」


 ここまで言って、母さんは納得したように「うんうん」と頷いていた。


「素直でよろしい。 だけど母さんとしてはもう少し口を瞑ってて欲しかったかなぁ。 あなたもあの人もすぐに本音言っちゃうから面白くないのよ。」

「面白半分で人の秘密を暴こうとするの止めてよね。 よくそんな雰囲気で父さんに嫌われなかったね?」

「そういう一面があるって知ってる上で好きになってるのよあの人は。 光輝もあの人に似てるから、意外な一面を見せてくれる女の子を好きになるかもね。」


 そうは言うが実際はどうなのかは分からない。 僕にだって選ぶ権利はあるのだ。 そういった感情はまだ早いのではないかと思う。


「母さんはゆっくり待つわよ。 あなたが素敵な人を連れてくるのをね。」


 そんなことを期待されてもなぁ・・・・・・そう思いつつも黙々と安見さんにあげるお弁当袋を作っていくのだった。


<安見視点>


「くしゅん。」


 ゴールデンウィークの初日。 私はリビングに降りたさいにくしゃみをする。 マルチの散歩の当番ではなかったので、そのまま昨日の夜からお昼過ぎまで寝ていた。 そして遅めの朝食、もとい昼食をとりに降りたところ、そのような現象に陥った。


「なにお姉、 風邪? 季節の変わり目にやられた?」


 味柑がそんな私を見て、そんなことを聞いてくる。 今は特に寒気がするわけでもないし、鼻がむず痒くもない。 となるとこれは風邪ではないと推測できる。


「誰かが私の噂でもしてるのでしょうか?」

「えー? そんなことあるかなぁ? お姉だよ? 中学の時は授業中は絶対最後まで起きていられなかったあのお姉だよ?」


 この妹は私をどんな目で見ているのだろうか? 確かにそんな不名誉が頭のなかに残っているのなら仕方のないことかもしれないが、本人を目の前にしてそこまで言うかな?


「そんなことあるんじゃない? ほら心当たりが1人だけいるでしょ?」


 そんなやりとりをしていると後ろから姉さんの声がかかる。 いつも縛ってある髪の毛は今はほどいている。


「あぁ、館さん! ねぇねぇ。 このゴールデンウィーク中には館さんに会わないの? お姉。」

「仮に会うとしても味柑は関係無いのでは?」

「そこはほら。 妹として、姉の進路を見守っていきたいって言うか。」

「恋バナくらい付き合ってあげなよ安見。 まだまだ育ち盛りなんだから。」

「ぶー。 そういう姉さんだって気になってるくせに。」


 姉妹のやりとりを見つつ、私は館君の事を考えていました。 今がお昼時なので、どこか出掛けているのでしょうか? それともお家でテレビを見ているでしょうか?


 彼の趣味は手芸なので、それの練習とかしているのでしょうか? そういえば私が言ったお弁当袋の方はどうなっているのでしょうか?


 確かにこうして館君の事を考え始めると意外と楽しいかもしれないです。 あまり人間観察というものをしてこなかった私ですが、館君は、ううん、館君だからこそ彼の事を知りたいのかもしれないですね。


「お姉、なんだか楽しそう。」

「あれが想い人が出来たときの表情なのかしら?」


 2人の言葉にハッと意識を取り戻す。 見ると2人は私の顔を凝視していました。


「な、なにか私の顔についていましたか?」

「ううん。 ただお姉のあんなほんわかした顔初めて見たなって。」

「えぇ。 凄くニコニコしていたわ。 こっちまで伝染しそうなくらいに。」


 そんなにだったのだろうか? だが、そんなゴールデンウィークの半ばには彼に会う予定でもある。 楽しみなのは仕方がないことだ。


 今夜彼にNILEでもしてみようかな?

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