須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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「ねぇねぇ。 いいじゃんか。 少しだけ時間頂戴よ。 友達となら後で合流出来るって。」

「あの、大丈夫、ですので、私は、その・・・」


 明らかに体格差のある男子大学生に囲まれて、逆に縮こまってしまっている円藤さん。 端から見ればそれなりに優しそうなお兄さん達だが、口調が明らかにナンパのそれなので、ちょっと頂けない。


「そんなことを言わずにさぁ。 ほら俺達と一緒に・・・」

「いや!」


 茶髪でセミロングの大学生に腕を掴まれると円藤さんは、咄嗟の反応で自分の方へと引っ込めた。


「・・・・・・へへっ、やっぱり少しくらい抵抗してくれないと俺達も張り合いが無いってもんだよな?」


 その行為を尻目に取り巻きのような男子大学生に声をかけるセミロングの人。 大学仲間ってやつだろうか?


「まあ、すぐに大人しくさせてやるから、もう一回・・・」

「円藤さん!」


 さすがにこれ以上は傍観できないので、大声で円藤さんの名前を呼ぶ。 そして今度は僕が先程掴まれていた腕とは反対の腕を掴んで、僕側に引き寄せる。 そして彼女を僕の脇腹辺りにまで持ってくる。


「すみません。 ナンパをするのは勝手ですが、困ってる相手にそこまで執拗に迫るのはやめてあげてください。」

「ん? お友達かな? いいじゃんか別に。 可愛かったんだから声くらいかけてもさ。」

「彼女が困惑を極めているのにそれに畳み掛けるようにしないで下さいと言っているのです。 人間引き際を見極めるのも大切でしょ?」


 お兄さんの反論に安見さんも食らい付く。 すると取り巻きの大学生の方が安見さんをじろじろと見始めて、セミロングの人に声をかける。


「なぁ、俺あっちの子の方がタイプなんだけど。」

「あん? ・・・おぉ、確かにレベルは高いな。」


 この人達はあろうことか円藤さんだけでなく安見さんにまで目をつけたというのか。 なんというがめつさだろうか?


「ねぇ君たち。 そんな頼り無さそうな男子なんか構ってないで、俺達と一緒に遊ぼうよ。 そっちの方が絶対楽しいって。」

「人を簡単に侮辱するような人とは遊びたくありません。 申し訳ありませんがお引き取り頂けますか?」


 そう言って安見さんは円藤さんとは逆側の僕の腕に抱き付く。 え? それはなんの意思表示??


「へぇ、両手に花か・・・ お兄さん達、妬けちゃうなぁ。」


 そう言って目の前で拳をポキポキと鳴らしている。 どうやら徹底抗戦の構えになっているようだ。 正直荒事は苦手だし、暴力沙汰になってしまっては折角のお出掛けが台無しだ。 そうは流石にさせないと2人の前に立つ。 だがジリジリと迫り来る大学生に手も足も出ないだろう事は、悲しいことだが自分がよく知っている。


「お兄さん達、少し穏便に事を済ませませんか? ここは大衆が見てるゲームセンターですよ? そっちとしたってあまり大事にしたくないんじゃないですか?」


 こんな交渉が役に立つなんて事は思ってはいない。 が、せめてもの抵抗だとしておこう。 頬に冷や汗が垂れる。


「ま、そりゃ俺達だって殴る蹴るなんてしたくはないさ。 だから君が彼女達を差し出せば事は丸く収まる。 大丈夫だよ。 ちょっと気まずくなるかもしれないけれど、悪いようにはしないからさ。」


 やはり交渉は失敗のようだ。 そんな言葉に騙されるかと、再び彼女達を守る体勢に入る。 だが、これ以上下がれば、人目があまり無い場所に連れ込まれてしまう。 それはなるべく避けたい。


「おうおうおうおう! 大ピンチじゃねぇか館ぃ! 何があったかは聞かねぇが、助太刀するぜ!」

「状況から察するに、彼女達になにか良からぬ事を考えている人達のようだね。 館君。 彼女達を渡すなんてことは考えないでよ。 そんなので解決なんかしないからね。」

「坂内君! 小舞君!」

「お仲間か? いいじゃん。 3対3でイーブンじゃないか。 一方的なリンチにはならないってもんさ。 女の子も増えたし。」


 そう言って後ろを見ると、まるで犬のように威嚇している濱井さんと、安見さんの心配をしている江ノ島さんの姿があった。


 イーブンとは言っているが、体格差は向こうの方が分がある。 しかしこのままでは彼女達を守れない。 やるしかないのか・・・そう覚悟を決めたとき、


「あんたたち! こんなところで何をしてるんだい!」


 ゲームセンターに響く女性の声が低いながらもはっきりと聞こえた。 そこにいたのはまだ夏は遠いというのに軽快なシャツとジーパンをはいた、金髪ロングヘアーの女性が仁王立ちしていた。


「ね、姐さん!」


 男子大学生達は先程までの威勢とは裏腹に、その「姐さん」と呼ばれた人を見るなり、恐縮をし始めた。


「な、何をと言われましても、俺達はここで遊んでただけですよ? そこでちょっと可愛い子がいたので、声をかけてただけですぜ。」

「声をかけただけで、なんであんなに萎縮してんだい? まさか、あたしの見えないところでまたナンパしてたんじゃないだろうね?」


 男子大学生のヘコヘコした様子にかなり高圧的な目線をする。 関係無いのに僕達までその眼光にやられそうになる。


「めめめ滅相もございません。 姐さんのいるところで、そんな不埒な事をするわけないじゃないですか。」


 なんかあそこまで堂々と嘘を吐かれると、こっちから告げ口をしたくなってくる。 が、そんなことを知ってか知らずか、その「姐さん」と呼ばれた人は、その男子大学生達を観察していると、ため息をつく。


「お前達はあっちで遊んでな。 これ以上は迷惑かけんじゃねえぞ?」

「はい! 姐さんの言うことは絶対に守ります! それでは失礼します!」


 そう言って男子大学生たちはそそくさとその場を去っていった。


「ったく、守れてねえから言ってんだっつの。」


 男子大学生を見送ると今度はこちら側に焦点を合わせ、こちら側に歩いてくる。 警戒は緩めない。 先程よりは状況はましにはなったが、何をして来るか分からない。 相手がどう動くのか見極める・・・


「悪ぃな、兄ちゃん達。 ちょっとうちのバカ共が余計なちょっかいかけちまって。」


 その人は予想外に片手を前に出しながら、僕らに謝ってきた。 しかも先程の形相とは違い、かなりラフに話しかけてきた。 その様子に僕たちはポカンとするしかなかった。

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