須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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恋愛映画と感想

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僕らが席に着いて上映時間になって、最初に流れる映画内での注意喚起のCMが流れた後にいよいよ本編が始まる。


 舞台は大学、サークル仲間で集まっているところから始まり、恐らく主人公である男優とヒロインの女優がお互いに意識をしながらもなかなか進展しないというじれじれなストーリーで物語の展開が進んでいく。


 しかしそれをサークル仲間(男女どちらも)が見ていて、ソワソワをしていた。

 その様子を見て、少し前までの僕らを客観的に見ているようで、となりの安見さんの横顔をチラリと見る。 向こうも同じことを同じようなことを思ったようで、安見さんと横目ではあったけれど、目があった。


 そして主人公、ヒロインそれぞれに相談役が付いて、2人の悩みを聞いていた。

 するとどうだろうか? 2人とも向こうのことが好きなのだが、自分を保つのでやっとだと言っていて、主人公の方は「今の自分を崩してでも彼女に好きと伝えるのが怖い」と言い、ヒロインの方は「私がいることで迷惑になっていないか不安になっている」という。


 それを聞いたサークルメンバーは2人がいないところで「もうあの関係を続けさせる位なら付き合わせた方がこっちも安心して見ていられる」と主張して、みんなは彼らの「カップル成立」のために色々と暗躍し始める。


 計画を立てて、2人を高めあい、そして作戦決行日。 遊園地にて、2人のカップル成立のために色々と吹き込んで、2人に意識させるためにコーディネートや台詞も色々と教えあった。 そんな2人を見守るかのようにサークル仲間は遠くから見守っている。


 しかしそんな2人の雰囲気を当然の如く壊しに来る大学仲間。 しかもそこそこチャラめの男女だった。


 その2人は主人公とヒロインの関係に笑い、2人に見せつけるかのようにイチャイチャし始める。 そんなのを見せられた2人はお互いに気まずい雰囲気のまま映画は進行していってしまう。


 それを観ていたサークル仲間は声をかけようと飛び出そうとするが、仲間の一人に制止された。 これは2人の問題だと言うことを示唆しているようだった。


 そんな2人を僕は食い入るように応援をしたくなっていた。 あんなことがあっても2人には幸せになってほしい、人には人なりの歩み方があることを知ってほしい。 そんな想いをこの映画にぶつけたかった。 もはやポップコーンや飲み物なんて手を付けずに映画を観ていた。


 そして終盤、2人は夕暮れをバックに観覧車に乗り始めた。 2人で乗る観覧車、気まずい中で乗っているのでお互いにどう切り出せばいいのか分からなくなっている。


『ねぇ・・・』


 そう声をあげたのは主人公の方からだった。


『俺はこの遊園地での君と遊んでいるとき、とても幸せに感じているんだ。 普通にサークル内で接しているときよりも何倍にも。 だからこうして2人で観覧車に乗っているとき、とてもドキドキしているんだ。』


 そういった後に主人公は深呼吸をした後に


『俺は、好きなんだ。 君のことが。 この想いを今日は届けたかった。』


 そう告白をした。 すると俯きがちだったヒロインは顔をあげた後にニコリと微笑み、


『私も、あなたのことが好き。 こんなに嬉しいことはないよ。』


 ヒロインもそう言うと、お互いに顔を近づけてそして、唇を重ねたのだった。 そしてそんなラストとともにエンディングとスタッフロールが流れる。


 スタッフロールの後ろでは観覧車を降りるとサークル仲間が祝福してくれているシーンが流れる。 そんな後ろでは先ほど2人に茶々を入れていたカップルが喧嘩をしていた。 その様子を見て、胸がスカッとしたのは言うまでもないだろう。 そして最後まで流れると2人は手を繋ぎ、歩き始めたところで「fin」の文字が入り、暗転して、劇場が明るくなった。


「終わったね・・・」


 そういって隣を見ると、安見さんは映画の終わったスクリーンをただ見ているだけでなにも返事がなかった。


「安見さん? おーい。」

「・・・はっ。 す、すみません。 集中していたので。」

「うん。 でももう終わっているのに集中することもないんじゃないかな?」


 そしてシアターを出た後で改めて手元のポップコーンに目をやる。


「やっぱり、残すのは勿体ないよね。」

「でも今食べてしまうと、お昼ご飯が食べられなくなってしまいますよ。」


 とはいえそんなに大量に残っているわけでもないので、なにかないかと見渡していたら、近くにビニール袋があり、「食べ残してしまったものはこちらに入れてお持ち帰りください。」と書かれていたので、せっかくなのでビニール袋をとって、ポップコーンを入れた。 飲み物の方は2人とも飲みきってゴミ箱に入れた。



「安見さん、あの映画はどうだった?」


 僕らはあの後レストラン街に入り、席を確保してそのまま昼食を取ることにした。 2人で1つのお皿をつつく形の料理を食べているので、なんだかおかしいお昼ご飯になってしまった。


「そうですね。 私は悪くないと思いましたよ。 ああいった青春も悪くないかな?と思いましたね。」

「僕もそんな気持ち。 見ててソワソワしたりドキドキしたりしたかな。」


 そういった後に安見さんは自分が使っている箸を口に加えながら考えていた。 お行儀が悪いよ? お嬢さん。


「濱井さん達も、あんな気持ちだったのでしょうか?」


 そう聞いてきた安見さんと同じように僕も考えてみた。 僕らのことを見ていたみんなも、やっぱりあんな気持ちになっていたのだろうか?


「まあ、もしかしたらそうだったのかもね。」

「今はあまり関係なさそうですけれどね。」

「結局付き合い始めちゃったからね。 僕達。」


 そういった後に2人とも黙り込んでしまって、黙々と料理が減っていってしまう。 気まずい・・・


「この後、まだ時間ありますか?」

「うん。 時間はあるよ。」

「ならば、少し買い物をしていきませんか? これもデートになるのでしょうか?」

「なるよ。 僕達なら特にね。」


 そう感じながら僕たちは、いつの間にか無くなっていた料理を返却口に返しにいくのだった。

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