【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

亜依流.@.@

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《88》関係





「キース」


立っていたのはシャツとスラックス姿のキースだ。
彼はにこりと微笑んでみせた。


「やぁ、家の用事は済んだのかい?」


家の用事。どうやら、フィアンは約束通り、今回の件にノワが関与していることを伏せてくれたようだ。


「ところで·····」


キースの視線がアレクシスへ流れる。


「アレクシス、彼は·····」


二人にお互いを紹介したノワの脳裏に、ある種の不安がよぎる。

彼らはイケメンロマンスの主要キャラクター。ゲーム内にはもちろんキャラクター同士の顔合わせも存在する。

ゲームが始まる前に出会ってしまえば、また物語が歪んでしまうのではないだろうか。

物語が歪むことによって、この先の展開が変わってしまう。つまり自分はどう立ち回れば良いのかが予測し難くなってしまうのだ。


(いや、落ち着くんだノワ。これはただ知り合いの知り合いな同士がちょっと挨拶するだけのアレだ)


自分に言い聞かせ、ノワは再び笑みを取り戻す。


「お兄さんにはいつもお世話になってるよ」


キースがアレクシスへ声をかける。

以外にも友好的な態度だ。
自分と出会った時は散々な登場だったくせに、この変貌ぶりは何なのだろうか。しかし、今はそれがありがたい。
ノワはうんうんと頷きながらアレクシスへと視線をやる。

彼があたりざわりのない挨拶を返し、この場はお開きだ。


「···兄がお世話になっております」


「·····?」


普段ならば無愛想ながらも礼儀正しい弟の様子は、どこかおかしい。

アレクシスがキースのフルネームを独り言のように呟く。
彼は、ノワの隣に立ったキースをじろりと一瞥した。


「休暇中にお手紙を送って下さった方ですよね?」


にこりと形程度に持ち上げられた唇の両端は狂いなく均等だ。

目は笑っていない。


「兄がお返事を書かなかったそうで·····私からもお詫び申し上げます」


一体何を言い始めるのかと手に汗を握るノワ。
間もなくして、嫌な予感は的中する。


「兄は自分の興味のあるものにしか意識が向かないんです。ただ本当に何も考えていないので、悪意がないことだけはお分かりいただけると幸いです」


流暢に吐いた彼の言葉の意味を理解頂けただろうか?

誰にともなく脳内で問いかけ、ノワの顔面は蒼白になってゆく。


「兄はあなたに微塵も興味がないので返事を書きませんでした。悪意すら無く、あなたは兄の意識の片鱗にも存在しません」


訳するとこうだ。彼はキースに喧嘩を売った。
ヒロインが登場してすらしていない時点で攻略対象が他の攻略対象へ宣戦布告するという歴史的瞬間だ。


「ア、ア、ア、アレクゥ~?ちょっと具合が悪くなったのかな?電池切れ?いや、故障かな?早く馬車に戻ろう!」


そう叫びたいところだが、静まり返ったこの場をどうすれば取り持つことが出来ただろう。どんなムードメーカーだって、手遅れだと両手をあげるに決まっている。

ノワはひきつる笑みでキースを振り返った。


「そうか」


笑みを含んだ声音は変わらず親しげだが、それがかえって恐ろしい。


「キ、キース!あの説はね、その~···」


「君も苦労するね」


キースが意図の読めぬ台詞を吐く。
ノワは首を傾げた。

世話のやける兄を持って大変だということだろうか、なんて考えるノワの解釈は、全く見当違いだった。


「····彼は、私の兄ですので」

「年長者として良いことを教えてあげよう」


兄弟という確固たる繋がりがあることを強調するアレクシスに、キースは歌うように先を続けた。


「関係とは変わってゆくものだよ」


関係は変化する。知り合いは友人に、友人は親友に、或いは特別な関係に。

しかし、家族や兄弟は?

どんなに仲が良くとも、それ以上の関係にはなり得ないだろう。


"興味のないものには見向きもしないノワ"が、果たしてこの先、この自分と弟のどちらを選ぶだろうか。

きっとただの家族の絆よりも、ずっと魅力的な関係を築けることに気付くはずだ。

多少大人気ないと思いながらも、キースは挑発を抑えることはしなかった。


(何の話?)







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