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《113》似ている
しおりを挟む暖かな風が二人の間を通り過ぎてゆく。
次に彼の言葉を咀嚼するのは、ノワの番だった。
「えっ·····僕?」
(フィアン様や他の部員じゃなくて?)
確かめる余地もなく、オスカーはまた「はい」と短く返事をする。
「お願いします!」
とてもふざけているようには見えなない。
大きな声のせいで、周りの数人がこちらを振り返った。
「なんだ、告白か?」
どこからともなく的はずれな囁きが聞こえる。
ノワが辛うじて頷くと、彼は深深と礼をし、持ち場へ戻っていった。
入れ替わりで、数メートル先からロイドが近づいてくる。
隣にいるフランシスは、先程の態度とは打って変わって塩らしかった。
「こいつへの処罰はお前が考えろ」
ロイドに首根っこを掴まれたフランシスが、ノワの前に引きずり出される。
彼は俯いたまま頭を下げた。
「無礼な態度をとり、申し訳ありませんでした」
「聞こえないぞ」
ロイドが間髪入れず唸る。
フランシスは慌てたように声を大にして、同じ言葉を繰り返した。
人の考えは簡単には変わらない。目の前の1年生は、隣のロイドに怯えこの場を乗り切ろうとしているに過ぎない。
体罰を与えれば、それによって彼の過ちを許す事になる。
それは望まぬ事だった。
「ウォルター先輩、彼にペナルティは与えません」
「なんだって?」
ロイドはポカンとしてから、すぐに眉を顰めた。
当たり前の反応だ。なんの罰も与えずに許してしまえば、学園の上下関係を破ることになる。
優しさでは済まされない。
だから、ノワはロイドが反論する前に先を続けた。
「謝罪も受けとりません。今後の練習態度で示してください」
ほかの1年生の反応からして、フランシスは普段から横暴な態度をとっているようだ。
彼の家柄上、周りの人間も下手に口出しできないらしい。
(まあ、オスカーは例外だけど·····)
この条件なら、少なくとも練習中は、他の生徒へ偉そうに振舞うことは出来ないはずだ。
しばらく無言を貫いていたロイドは、やがて妥協するようにため息をついた。
「練習に戻れ」
「は、はい!」
フランシスがそそくさと去ってゆく。
闘技場へ目をやると、副教官のレイゲルが、容赦なく練習メニューを追加しているところだった。
「また上達したんじゃないか?」
ロイドが問う。
ノワはだらしない笑顔を見せた。
尊敬している彼に褒められるのは嬉しい。
「クワダムスに教わったのか?」
「··········えっ?」
突如、予測もしない名前が上がった。
「なんでですか?」
「違うのか?」
ノワはブンブンと首を振る。
「あいつの動きと少し似ているところがあってな」
ロイドの中で、リダルと自分が仲がいいというイメージがあるのは頷ける。なぜなら自分は、過去にリダルの無断欠席を庇っているからだ。
しかし動きが似ていたという発言はとても信じられない。
練習中、リダルが力を抜いていることは知っている。が、彼と自分ではスタイルが全く違う。
リダルが、気まぐれでこちらの癖を真似したのだろうか。それとも無意識のうちに、自分がリダルに似せて───。
「いや、絶対にそれは無いです」
「そ、そうか?」
俊敏な身のこなしや、重い一撃を与える戦闘能力。性格は最低だが、自分を助けてくれた時は確かに格好良かった。
しかし、無意識に真似るほど、彼を慕ってはいない。
「取り敢えず、今日はもう元の場所に戻っていいぞ」
ノワは頷きかけて、あ、と声を上げた。
「僕には、ペナルティ無いんですか?」
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