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《153》夏季休暇

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   ノワが目を覚ましたのは、殆どの生徒が列車を降りた後だった。


「ノワくん、着きましたよ」


優しく身体を揺すられ、ううんと眉を寄せる。
個室の前を、けたたましいキャリーバッグの音が通り過ぎていった。


「·····リダル·····?」


「··········ノワくん、俺です」


「·····ん·····」


大きな欠伸を落とし、声のするほうを振り向く。

隣にはデリックが座っていた。


「あ·····」


彼がにこりと笑いかける。
表情はどこかぎこちない。リダルはいなくなっていた。




  残り2週間程度の夏季休暇は学園ですごした。

実家でアレクシスに会うことを避ける為だ。
今は、彼と顔を合わせる気になれなかった。

しばらくして、実家から、三通の手紙が届いた。

一つは両親、もう一つがアレクシス、残りがキースだ。
アレクシスからの手紙の内容は、拍子抜けしてしまうほどあっさりしたものだった。

挨拶、実家の様子、ノワの体調を労る内容。ノワは同じような返事を書くことにした。
いつもなら文中に「大好き」を三回は混ぜ込むのだが、今回はやめておく。

キースにも返事を書いた。彼らに断罪される心配がないと確信すると、筆はとても軽く感じられた。

暫くして、ノワは新しい封を取りだした。

悩みに悩んだ末、リダルに手紙を書くことにしたのだ。

執筆途中、何度もやめようかと手を止めた。
リダルが手紙を貰って喜ぶとは、到底思えなかったからだ。


(いや、喜んで欲しくて、書くわけじゃないし···)


これはただ、遠征で、彼に助けられたから。その礼を言うためだ。

自分に言い聞かせながら、やっと短い手紙が完成した。
事務室まで届けると、暇になってしまった。

文面の中でだけ、少し、素直になれた気がする。

らしくないことをしてしまったかもしれない。ノワは不安と期待を抱えながら、返事を待った。

しかし休暇中、手紙の返事が来ることは無かった。

送った手紙がリダルに届くことすらなかったことを、この頃のノワは知り得なかったのだった。

























「臨時監督」


ずっと気にしないようにしていたのに、とうとう声をかけられてしまった。


「なぜ公平に指導しないのですか?!」


威圧的な声の主を振り返る。
夏季休暇明け、少し気怠げな生徒たちの間を縫い大股で迫ってくるのは、赤マゼンタ色の髪。

フランシスだ。勝気な目元が、今日は一段とつり上がっていた。

ノワはため息をついた。
相変わらず、彼はこっちのことを煙たがっているらしい。


「なんのことかさっぱり」


「俺には1度も声をかけていないじゃないですか!偶然!近くにいることが多いというのに!」












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