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《194》馬鹿馬鹿しい
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デリックも、このいびつな恋愛ごっこも、全てが気持ち悪い。
今の彼なら、自分をどうすることも自由なのに。
考えたらいけない。ノワは勢い良く頭を振った。
「兄さん!」
扉が勢いよく開く。
勢い良く部屋に入ってきたアレクシスは、兵士2人がかりに取り押さえられた。
「!」
ノワは、彼の元に駆け寄るのをぐっと耐えた。
表情はやつれているように見えるが、怪我もなく元気そうだ。
アレクシスの方もこちらの様子を確認したようだ。彼は乱れた呼吸を飲み込み、やがて落ち着きを取り戻した。
───数日前、伯爵家に一通の知らせが届いた。
手紙にはノワの入宮宣言が記されていた。
入宮とは、宮殿で一生を迎える仕事に就く事を指す。
伯爵家夫妻は、逆らった者への処罰に脅えながらも、ノワの入宮を断る返事を書いた。
しかし、宮殿からの返答は愚か、ノワの安否さえ確認することが出来ない。
そんな時、国中にある電報が撒布されたのだ。
城下で、2人の聖徒を祝うパレードを執り行うという。
全国民には、急報によってノワが聖女の生まれ変わりであることが知らされた。
「神政に手向かう考えはありません。パトリック家紋は神殿に誠心誠意仕えましょう」
アレクシスは淡々と告げた。
予想外な発言だった。
「·····え?」
ノワは慌てて両手で口を押さえる。
「兄をお返しください」
アレクシスの要望は、ノワを伯爵家に連れて帰ることだった。
「聖女は神の子であり、神殿の主です。引き渡すことはできません」
ルイセが間を開けず要求を断った。
「聖女である前に彼はパトリック家の·····!」
「では、ご本人に聞いてみましょう」
忌々し気な声がアレクシスの言葉を遮った。
モノクルの奥の瞳がノワを見やる。
ノワはチラリとデリックを振り返った。
彼はじっとこちらを見つめていた。
裏切るか裏切らないかを、試しているようにも見えた。
「僕はここに残るよ」
ノワは迷わず宣言した。
「なにを·····」
アレクシスの言葉はしりすぼみに消える。
やがて、鋭い瞳がノワを睨みつけた。
「城に生涯閉じ込められ、彼らに利用されるのが兄さんの意思だというのですか?」
「なんと言われようと、伯爵家には、戻らない」
久しぶりの再会で、もしかすると最後の会話だ。ノワは泣き出しそうになるのを堪え、アレクシスを見つめ返した。
「僕は大丈夫だから」
どうかこれ以上騒がないで欲しい。
彼らを守り抜くことが、ノワの1番の願いだった。
「·····馬鹿馬鹿しい」
アレクシスは荒々しく吐き捨てた。
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