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《198》ブルーノ
しおりを挟む彼は皺の濃い瞼を伏せ、呟いた。
やはり考えがあるのだ。
このラントン家が反逆軍に寝返るなど、ある訳が無い。フランシスは酷く安堵した。
「お前もそろそろ、入団試験にむけて取り組むべきだろう」
「·····入団試験、ですか?」
予想しなかった方向に話が飛躍する。
「一刻も早く、尊い聖徒様に使える為に」
「は·····?」
「フランシスよ」
ヴィンセントがゆっくりと立ち上がる。
熊のような体躯が、窓から差し込む夕陽を遮った。
「今後ランドン家は、神殿に従服する」
フランシスは自身の耳を疑った。
「何、言ってるんですか·····?」
あまりにも信じ難い台詞だった。
「父様が仰っていたではありませんか!誇り高き帝国騎士団は、主君と共にあり!いついかなる時も主君を守り、忠誠を·····!」
続きは、唾液と共に呑み込んだ。
虚ろな瞳がこちらを眺めている。
力のない立ち姿。まるで糸に吊るされた人形のような不自然さだ。
「··········!」
フランシスは書斎を飛び出し、早足に廊下を進んだ。
前を歩いていた召使いの肩を掴み、顔をのぞきこむ。死んだ魚のような目が空中を眺めていた。
昼間、何度も感じた違和感の正体だ。
屋敷の召使い、街の人々、家族。皆、こんな顔をしていた。
(ここは、もう駄目だ)
「どけ!」
前を歩く召使いを押し退け、早足は駆け足に変わった。
庭をつきぬけ馬小屋に向かう。扉を開けると、けたたましい馬の鳴き声がした。
フランシスの愛馬、ブルーノだ。賢く足の速い馬だが、馬主以外の言うことを聞かない、世話のかかるヤツだった。
「行くぞ」
マズルを撫で、背に飛乗る。
ブルーノは主の言葉に応えるように、ブルルンと鼻を鳴らした。
「はっ!」
オレンジの木漏れ日が頭上を過ぎ去ってゆく。
葉がざわざわと音を立てる。不穏な予感がした。
フランシスはしばらく進まないうちに馬を止めた。
向こう側から、馬に乗った人の姿が見えた。
数はざっと十数人。体つきの良い男達が、1人を先頭にこちらへ向かってくる。
「·····?」
ここは、ラントン家に続く一本道だ。
何者だ?
目を凝らしたフランシスは、予想外の相手に低く呟いた。
「どうして、あいつが·····?」
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