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《257》丘の上の教会
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目的地に付いたのは、日がすっかり暗くなってからだった。
深い森を抜けた高原の中央に、石造りの教会がある。
反逆事件のあと、神殿は取り壊され、教会に再設された。
神教に前のような権力は無くなった。現在の教会は、神の教えを説いたり、ミサを行う場所として利用されている。
隣には孤児院が併設されている。
昼間は賑やかな孤児院だが、今は電気が全て消え、ひっそりと静まり返っていた。
大丈夫だと思いながらも、子供たちを起こさないようにと静かに馬車をおりる。斜め後ろのレイゲルがプッと笑い、振り返ると、誤魔化すように咳払いした。
後ろから見るへっぴり腰がそんなに間抜けだったろうか。
大勢の前で男をお姫様扱いする奴よりマシだ。
ノワは不貞腐れながら高原を進んだ。
「お帰りなさいませ」
扉の前に、修道服を着た男が立っていた。
彼には、やっぱり予知能力でもあるのだろうか。疑惑はいよいよ確信に変わりそうだ。
「さあ、中へお入りください」
ノワの背に触れようとしたルイセの手は、さりげなく前に出てきたレイゲルに遮られる。
「暗いので足元にご注意くださいね」
レイゲルがにこにこしながらノワに手を差し出す。
後ろのロイドがため息を着く気配がした。
レイゲルはルイセが嫌いだ。
誰に対しても柔和なレイゲルだが、彼に対しては尽く感じが悪い。
枢機卿家系であるルイセは、家紋から特別な知識を継いでいるがため、已むなく死罪を逃れた。
今の彼は聖職者だ。欲を捨てたアタラクシアとして、人々に神の教えを説いている。
そんなルイセが反逆の副首謀犯だったことを知っているレイゲルは、彼が悠々と生活していることが我慢ならないのだろう。
もっともらしい推測をしているノワは、レイゲルがルイセを心底嫌う真の理由を知らない。
「ワン!」
応接間に入ると、ノワの前に大きな白毛玉が飛び込んできた。
「スペロ!」
グレート・ピレニーズのスペロだ。
ノワはポチがいいと提案したが、神聖語では罪人をポティと呼ぶ理由から却下された。
「ワフっ」
迫ってくるスペロを腕いっぱいに抱きしめる。大きな舌が、べっとりと頬を舐めた。
「あはは、くすぐったい」
「ワン!」
「うわっ」
巨体は力加減も知らずに体当たりしてきた。
倒れ込んだノワは、スペロの好きなように顔を舐められる。
「ふふ、くすぐった·····っ」
毛深い白に埋もれかけた時、ノワの体がひょいと宙に浮いた。
ロイドに持ち上げられ、ソファに降ろされる。
「ほら、犬っころ」
レイゲルがジャーキーをチラつかせるが、スペロは彼を通り過ぎ、ノワの足元に落ち着いた。
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