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《278》エメラルドの光
床に座り込んだノワと、その腰を抱きしめ、眠りについているイアード。
ノワはイアードの頭を自身の膝の上に乗せ、宥めるように髪を梳いていた。
「殿下·····」
垣間見えたのは、眉間にシワのない、穏やかな主人の寝顔だった。
ノワの手のひらがじんわりと輝く。
ベールのような、エメラルドの光。
「聖女の慈悲」
レハルトはノワをじっと見守った。
例えるならば、彼の後ろ姿は、まさに女神そのものだった。
部屋の中は廊下より数度気温が低いように感じた。
「?」
禍々しい空気に連れられ彷徨っていると、床に一人の男が倒れているのを見つける。
大変だ、起こさないと。
重たい意識で何とかそれだけを判断する。
「でんか」
ノワはイアードの前にしゃがみこんだ。
「·····?」
切れ長の目がぼんやりと開いている。
気絶していると思ったが、意識があるのだろうか?
「殿·····」
伸ばした手は冷たい手に掴まれた。
胴体に、ずっしりとした重みが加わる。長い腕が腰に巻きついていた。
イアードはうなされていた。
表情は苦渋に歪み、ぐっしょりと冷や汗をかいている。
とても辛そうだ。
「イアード殿下」
スッキリした鋭い名前が、とても素敵だ。
助けたい。
ノワは彼の額に口付けた。
あまりに綺麗な顔で、唇に触れるのは躊躇われた。
体に触れた方が効果があるが、起こしてしまうといけない。
ゆっくりと髪を梳いてゆく。
イアードの寝顔は意外にもあどけなかった。
治癒しているうち、ノワは段々と酔いが覚めてきた。
ひと撫でするとほんの少し和らぐ邪気は、すぐにまた湧き上がってくる。
しかし、この世に永遠と生み出されるマナなどない。治癒を続ければ、いづれ、彼から完全に取り除くことが出来るだろう。
イアードには長期的な治癒が必要だ。
ノワは部屋を出る頃、レハルトにそれを話した。
「··········」
レハルトは考えるように視線を伏せ、やがて口を開いた。
「殿下は、毎夜悪夢と苦痛に襲われるのです。あの殿下が理性を失うほどの苦しみですから、私にもどれほどのものかは想像もつきません」
「それはいつからですか?」
「数年前からです」
返答は濁された。
おそらくその数年前、イアードは並大抵でない大罪を犯した。そしてその報いが、業となり彼に罰を与えているのだろう。
「僕に治癒させてください」
ノワはある提案をした。
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